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2013年6月18日 (火)

あるIR担当者の雑感(122)~個人投資家をどこから調達するのか

変なサブタイトルになってしまっています。前回の書き込みの続きというのか、枝分かれで取り留めもなく考えているうちに、適当な言葉が見つからないので、変なサブタイトルになってしまいました。

ということで、IR活動の中で個人投資家に投資をしてもらって、株主数をふやし、安定株主になってもらおうという話を耳にすることが多くなりました。しかも、このところ株式市場が活況を呈していて、個人投資家が増えてきているので、そういう人たちを取り込んでいきましょうということでしょうか。企業の側では、従来の株式の持合いが崩れてきている、金融機関もビス規制が改定されると手持ちの株式を放出せざるを得なくなってくる。そうなると、これまで安定株主として株主総会運営などで便宜を図ってもらっていたものがなくなり、比較的意見を表明しない個人株主を増やして総会運営で安定した与党を確保しようという狙いも見え隠れしているようです。

今回は、そういう深い目的の話ではなくて、もっと表面的な個人投資家に投資してもらうということに対して、企業の側がどうするのかということです。そこで、前回、基本的な部分での疑問点として個人投資家に投資してもらうとして、その母集団をどう考えるかということと、投資してもらったとしてその後どうするかということと投資してもらうことを勧めることとどう連動させているか、の二点をとりあえずあげてみました。

ここでは、前者について主に考えてみたいと思います。実際のところ、企業IRで個人投資家向けの施策というと、一様にホームページに「個人投資家の皆様へ」といったページを設ける、個人投資家を集めて説明会を開く、この二点が主で、あとはフェアに出展するとか、広告をだすとかがあります。それらは似たり寄ったりで、やっていることに大した差はないようです。私の勤め先は、そういうことは現時点ではやっていませんが(個人投資家向け説明会は少人数で試行していますが)、そういう動きを見ていると、そういう企業のIRでは、どこから個人投資家を獲得しようとしているのが見えてこないのです。もっと具体的に、つっこんで(想像をかなり交えて)見てみると、個人投資家という集団が所与のように目の前あって、それを取り放題と考えているように見えるのです。実際、目の前に沢山の資金をもって投資したくてしょうがない人達が後から後から泉のように湧き出てくるかのように考えているように見えるのです。

もっとも、たいていは個人投資家説明会を企画するのは、証券会社やIR支援会社が多いので、こういう業者はしっかりとマーケットの規模とか動向を掴んでいるかもしれませんが、私には、どうしてもそうは見えません。何か、このくらいの規模で雨はずだというような希望が中途半端なデータで裏打ちされていると一方的に信じて、そういうものを聞かくしているようにしか見えません。

それは、例えば、企業が販売戦略でマーケット調査をするとき必ずライバルを想定して、そのライバルへの対抗を考えて目標や戦略を立てていきますが、この場合のライバルとか、多分考えていない、あるいは考えられないのではないかと思います。目先のことをかんがえれば、マーケットの規模が小さければ、少ないパイを奪い合うことになるわけだし、マーケットが成長しているのならその成長を取り込んでいくとなれば、施策は違ってくるはずです。そういう性格の違いは、証券会社やIR支援会社の個人投資家説明会の企画を聞いても、考えられていない。そう考えると、本来、こういう業者は個々の企業へのコンサルティングや企画という機能のほかに、企業がIR活動を仕掛けていく株式市場の環境を整えていくということを考えるべきだと思うのですが、全く考えていないように見えます。そうなると、企業のIRはそういうことを含めて考え、実行して行かなくてはならない。

そこで本題です。そうなった場合。つまり、私の勤め先で個人投資家に対してのIR活動をしていこうとした時に、その対象をどう考えるかということです。取り敢えず、大雑把に考えますが、株式投資をするためにはある程度の資金が必要です。そして、その資金を当面は使わずに済むという余裕があるということが必要です。そして、そんな資金の余裕があるからと言って。それを贅沢品やその他に散在せずに将来のために使わずにいようという将来に対する計画性とか精神的な余裕を持っている人たちが対象となると思います。ここで、2段階の絞り込みを行いました。まず資金の余裕のない人は対象から外れます。これは外しても構わないでしょう。借金してでも投資するという人もいるかもしれませんが、利息を払わなくてはならないので長期投資なんかできるはずもありません。できても短期的な売買の繰り返しでIRの対象にはならなでしょう。これで半分以下に絞られるでしょう。そして、資金の余裕があっても、目の前にお金があるとさっさと使ってしまう人も多くいます。そういう人に、将来儲かるということと目先の現金を使うということとを天秤にかけて選択させると、目先の現金を使うということが限りなく重くなるという人たちです。この場合、投資をしてもらうことと競合するのは、お金を使うことへの誘惑、つまり現在価値の高さです。経済学の考え方で考えれば、このときに投資をして10年後に儲かったのを現在価値に割り引いて、現在の手持ちの資金に比べて大きな金額になっているのなら、合理的に人は投資を判断するということになるのでしょうが。実際のところ、どうか分かりません。心理的に待てないという気持ちや人生に対する姿勢とか合理的に考えられない要素が多いでしょうから、ここで投資してかなり儲かるようにするといったら、投資してもらうために負いきれないほどの負担を覚悟しなければならないことになりそうです。ということで、ここでは対象として切り捨てることになります。

そこで、どのくらいの人々が残されさているのか。これでもかなりは残っているでしょうか。そして、次に進みましょう。そこで、こういう資金に余裕があり、将来に備えてある程度の現金をプールしている人達が全部を株式投資してくれるわけではありません。この人達は、どのように資金をプールするか。まず考えられるのは、タンス預金として現金そのものを手元においているケースです。これは、ただ現金を置いておくだけでは増えないし、自宅に保管しておけば火事や盗難のリスクがあります。とは言っても、現ナマの感触を味わえる?のと、現金としてもっていれば、その記録が外部からは見ることができるので所得隠し(税金逃れ)ということを考えれば、そういう人もいる可能性はあると思います。この場合は自営業とかオーナー経営者とかそういった人達でしょうか。その現金を投資に回させるということは、どうでしょうか。こういう人たちが儲かるから株式投資をしようと考えるとしたら、前の現金を使ってしまう人と同じように追い切れないほどの負担を投資される方は覚悟しなければならないかもしれません。では切り捨てるか。多分、現金として秘匿している場合なら、それは切り捨てるしかないということでしょぅか。しかし、必ず預貯金とか債権とか不動産とかでプールしている部分もあるはずです。そして、この人達以外の人たちはたいてい、そのように資金を金融機関に預けたり、固定資産や不動産などのものに変えてプールしているはずです。株式投資もその一つでしょう。多分、これらの中でプールの手段としての優先度は後の方ではないかと思います。

さて、ようやく変なサブタイトルに行き着きました。通常の場合、個人投資家に投資をしてもらうという場合、特に考えていないでしょうが、無意識内に前提されているのは、この最後に絞り込まれた株式投資に余裕のある資金をプールしている人達のことを指しているのではないかと思います。しかし、この人達は、銀行な預金をしている、債券を買っている、不動産を持っている、その他の投資をしている。そこから株式投資に振り向けさせてしまおうという、ということを考えて個人投資家施策を考えるということはないようです。というよりも、そういう考えを聞いたことがありません。

強いて挙げれば、一つだけ株主資本コストの計算をするときに、リスクフリーの利回りとして長期債券を考えます。この時株式投資のライバルとして長期国債を想定しているわけです。しかし、人が株式投資ではなく長期国債を買うのは、それだけの理由なのか。これは経済学のモデル化した合理的選択をするという人間の捉え方によるもので、単なる指標です。実際の勧誘には使えません。また、長期債権以外の資金のプール手段を想定しているわけではないので、それ以外に対しては、当然使い物になりません。そう考えると、ファイナンス理論で資本コストを経営も考えろといいますが、これ自体もかなり穴のある物で、投資してもらうということを実践的に考えれば、ほとんど使い物にならないかもしれない。それを考慮して、個人投資家に投資をしてもらうとなれば、経営も考えるべきではないか、という議論になってもおかしくはないと思います。極論ですが。でも、そこまで考えるだけ考えてみなければ、今まで株式投資など考えることもしなかった人々を呼び込むためには、その程度は考えるだけ考えてみなくてはならないのでしないか、と思います。これは、企業の側はもちろんのむことです。それ以上に、証券取引所や証券会社、そしてIRを企業にコンサルティングするようなコンサルタントや支援業者はそれ以上すべきではないかと思ったりします。最後は妄想になってしまいました。

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コメント

CZTさんはいつもテーマがぶれないのですごいな~と思う。
私はすぐに脱線したくなってどうしてもアホらしい事を書きたくなってしまう・・・
性格ですかね~最近読んだ本の所もおもしろいですよ、時々みております。

poemさんありがとうございます。そういう風に見えるにはコツがあって、最初にテーマらしきことを提示して、途中で話題を転換して道草食って、最後にもっともらしくテーマに戻ると、一貫しているように見えます。コツは戻るときにいかに自然に見えるかです。

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