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2013年7月 1日 (月)

村上隆「想像力なき日本─アートの現場で蘇る「覚悟」と「継続」」(5)

第5章 「インダストリー」としてのアート業界

現在のアート業界でいちばん力があり、活況を呈しているのはアドバイザーと呼ばれる人たちです。アドバイザーは、世界中で行われているオークションのデータをなどを含めて、アーティストの動向や市場の動きと言ったすべての情報を押さえています。そして世界中のアーティストのもとを回って関係性をつなげて、“自分にとって有用なシェフ”を探しています。アーティストに支払う額を決めるのがアドバイザーであれば、コレクターに売る額を決めるのも、市場での価値を操作するのもアドバイザーです。

アート業界に対してはいろいろなイメージがあるかもしれませんが、精神的なもろさがある人、打たれ弱い人は、入って来るべきではない世界と言えます。画商、エージェント、キュレーター、アドバイザーといった海千山千の人間たちとやり取りしながらやっていかなければならないのがこの世界です。そうした人達とのやり取りを避けていたのでは、アマチュア画家として終わるだけです。この世界で生き残っていくために求められるのは覚悟と継続力だということは、これまでも繰り返し書いてきました。そのために必要になるのが、対人関係も含めての積極性と打たれ強さです。もちろん、この世界においてどのような位置を目指したいかによっては重点が置かれる部分は違ってきます。この世界に長くいることを目指すのであれば、まずは精神力が試されます。中間層あるいはその上を目指して行きたいというのなら、周囲の空気を読みながらうまく立ち回っていく器用さが必要になります。精神力や礼儀作法が大切になるのは、どの位置にあっても同じことですが、ある程度の位置に自分の居場所をつくっていきたいのだとすれば、それだけでは不十分です。そういうときには社交性やご機嫌取りといった要素の重要性が増して行きます。そして、本当の意味でのトップに立つためには、徹底的に練り上げられた戦略が必要になってきます。

「芸術にもルールはある」というのは先に書いたことですが、すべてのルールを知っていてこそ、本当の意味で自由になれるのも確かです。ルールを知らないうち、あるいは把握しきれていないうちこそ、束縛は最も強くなります。例えば絵を鑑賞する側の立場であっても、ルールは知っておいた方がいいのは間違いありません。ルールなどとは関係なく直観的な好き嫌いをすべてとするのもいいですが、ルールを知ればまた違った楽しみ方ができてしまいます。ピカソの絵を見たときに「なんだかよくわからない」と拒絶する人もいるはずですが、ルールを知ったうえで鑑賞すれば、その魅力に気が付きやすくなります。ルールをよく知り、ピカソの絵のもつ意味というものが理解できたうえで「やはり嫌い」というのなら、それはそれで構いません。そうした意味においても、ルールを知ったほうが自由度は広がります。ピカソの絵に関していえば、ぼく自身、個人的好みとしてはあまり好きではないのが事実です。では、ピカソの絵は欲しくないのかと言えば、そんなことはありません。もちろん欲しいです。なぜかと言えば、ピカソの絵はアート界の最高位の“ブランド”になっているからです。経済的価値の問題だけではなく、これだけのブランドになった絵の価値は絶対的です。そんなことを考えても、世界で勝負していく上では、自分の絵、そして自分自身をブランディングできているかどうかが問われてくるわけです。芸術の世界でもIT企業でも、他のビジネスでも同じだと思います。いかに注目を集めても、自らの価値を高めるかを考えることが大切です。それに成功してこそ、自由度が高まります。そうなれば新しい事業や新しい作品を手掛けられ、そこでもまた結果をだすことができていきます。

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