無料ブログはココログ

« プーシキン美術館展 フランス絵画300年 | トップページ | 佐々木俊尚「レイヤー化する世界─テクノロジーとの共犯関係が始まる」(4) »

2013年7月21日 (日)

佐々木俊尚「レイヤー化する世界─テクノロジーとの共犯関係が始まる」(3)

第2章 なぜ中世の帝国は滅んだのか

15世紀ごろから、世界は大きく変わり始めました。それまでの中世帝国の世界ステムが段々と衰え、その代わりに信仰のヨーロッパが台頭するようになったのです。この明快な理由は分かっていませんが、ヨーロッパを世界の中心へ押し上げるために起きた要素を、並べて見ることはできます。

先ず第一に、中世帝国の世界システムが衰退してしまったこと。第二に、アメリカ大陸にヨーロッパ人が到達し、金などの豊富な資源を入手できるようになったこと。第三に、ヨーロッパはそれぞれの国の国民が団結し、強い軍隊も持っていたこと。

これを順番に見ていくことにして、中世帝国が衰退した原因ははっきりしていません。

第二の要素、アメリカ新大陸への到達。実はヨーロッパの人々は、大西洋に出ていくことを運命づけられていたのです。ヨーロッパ人だけ立派な開拓者精神があったからではありません。彼らが出ていける先は大西洋しかなかったから、大西洋に舟を漕ぎ出したのです。なぜなら彼らは、中世の世界システムの中心となっていた交易ルートから外れていたからです。イスラムや中国、インドの帝国は、大西洋や太平洋のような大海原には大して興味を持っていませんでした。彼らは、互いの資源や生産物を交易ネットワークで売買して、それで十分に満たされていました。わざわざ危険を冒してまで、悪魔の住んでいそうな大西洋や太平洋を横断し、どこかに行ってみようとは考えなかったのです。しかしヨーロッパ人たちはそうではありませんでした。世界の中心から疎外され、貧しかった彼らは、果敢に大西洋へと漕ぎ出して行ったのです。こうして開拓した新大陸は銀が豊富でした。ヨーロッパ人たちは大量の銀を母国に持ち帰り、この銀をアジアとの交易に使うようになります。それまで交易ネットワークから外れていたヨーロッパ人たちは、大量の銀を持ち込んだことでようやく「正式メンバー」として交易に大手を振って参加し、帝国と同等に振る舞えるようになったのでした。ヨーロッパ人は新大陸の銀を使い、陶磁器や茶、綿花、スパイスなどを買いまくりました。その結果、ヨーロッパは豊かになって行きました。

新大陸がもたらしたのは、銀だけではありません。広大な土地には開拓地を求めて多くの移民が渡り、農地を開き、街を作っていきます。そうして新大陸はヨーロッパのものを買ってくれる巨大市場にもなってきます。ヨーロッパは新大陸から銀を運び、農産物を輸入し、ヨーロッパで生産したものを今度は逆に新大陸に輸出する。その繰り返しでどんどん豊かになっていったのです。

そしてヨーロッパにはさらに決定的なことが起こります。それが18世紀の終わりからの産業革命です。イギリスから始まった生産量を増やすための革命です。それまでの手工業では、作れる量には限りがありました。これを機械化し、一気に生産量を増やそうとしたのが、産業革命の本質でした。なぜ生産量を増やす必要があったのでしょうか。そこに大きな市場があって、生産されたものを売ってくれるのを待っていた。イギリスにとってはこれがアメリカ大陸とインドでした。そして新大陸から大量に流れ込んでくる銀などの富。この二つの背景があって、イギリスは産業革命を起こす必要があったのでした。この産業革命による生産力によってヨーロッパはアジアを圧倒していき、世界の中心の地位を奪っていきます。新大陸の発見で、世界の中心はヨーロッパと新大陸を結ぶ大西洋になりました。中心がユーラシア大陸という「陸」から、大西洋という「海」へと変わったのです。古代から中世にかけての世界システムは、すべて「陸」の時代でした。一方、陸を全て支配されてしまい、大西洋という広大な「海」に出ていくしか選択肢のなかったヨーロッパは、大航海時代に入って海を自在に操るようになり、海の国となりました。ここから海の時代が幕を開けたといえるのです。

しかしまだ疑問はあります。なぜヨーロッパは世界の中心になるだけでなく、世界を支配するようになったのでしょうか。中世システムが衰え、新大陸の発見と産業革命でヨーロッパは世界の中心の位置を占めるようになりました。しかしヨーロッパは中心の位置だけでは満足しませんでした。さらに時代が進んで19世紀から20世紀になってくると、世界中を植民地にして支配し、圧政下に置くようになったのです。それは、ヨーロッパに圧倒的に強い軍隊という武力があったからです。これがヨーロッパが世界システムを作り上げた三つ目の要素です。

ヨーロッパのそれぞれの国の国民が団結し、強い軍隊も持っていたということ。この強い軍隊の出現から、近代ヨーロッパの夜明けが始まったのです。

« プーシキン美術館展 フランス絵画300年 | トップページ | 佐々木俊尚「レイヤー化する世界─テクノロジーとの共犯関係が始まる」(4) »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« プーシキン美術館展 フランス絵画300年 | トップページ | 佐々木俊尚「レイヤー化する世界─テクノロジーとの共犯関係が始まる」(4) »