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2013年7月29日 (月)

佐々木俊尚「レイヤー化する世界─テクノロジーとの共犯関係が始まる」(10)

第8章 「超国籍企業」が国民国家を終わらせる

権力は、国民を法律と道徳でしばる国家から、人々の行動の土台となる<>へと移っていくでしょう。上から人々を支配するのではなく、下から人々を管理する、そういう形に権力あり方は変わっていきます。権力は、国民国家から奪い取られるのです。国家の権威は消滅し、最終的には国という形そのものさえなくなっていくかもしれません。すべては<>に吸収され、<>こそが国家に代わる権力になっていくと私は考えています。つまり、<>を運営している新しい企業体こそが、権力の源泉になるという世界がやってこようとしているのです。<>の企業は従来の大企業が国家や国民と共存したのに対して、国と関係なく働きます。インターネットというGPTは、生産も消費も世界にばらまいてしまうからです。つまり、<>は、国歌の持つ三つの国力「経済力」「軍事力」「国民力」の三つをも殺いで行きます。ひとつずつ見ていきましょう。

経済力です。新しい<>は、ものが流通するさまざまな市場自体も呑み込んでいきます。少し前まで、市場は国ごとにあり、それらがたくさん集まって、国際市場をつくっていました。でも今は「国ごとの市場」の実体が段々薄らいできています。たったひとつの世界市場があって、それが世界全体を覆い尽くすような構図になってきているのです。例えばiPhoneの裏面には「アッセンブルド・イン・チャイナ」と刻印されています。でもそれでiPhoneを中国製だと思う人はいないでしょう。中国で組み立てられ様々な国に輸出されることから、見た目は中国の貿易黒字を増やすことになります。でも本当に一番儲けているのは中国ではなく、設計・デザインしているアメリカのアップル社です。しかしアップルはアメリカの貿易黒字を増やさず、大して人も雇っていません。一体どこの国に属しているのかという、もはやはっきりとは分らないようになっているのです。様々な国で活動する企業のことを多国籍業といいますが、アップルのような会社はいまや国籍を超えた「超国籍企業」になってしまっています。そういう超国籍企業がつくったiPhoneが、世界市場というたった一つの<>で流通しているということなのです。近代の資本主義は、先進国のウチ側でものが製造されて、ソトである途上国を資源の入手先や販売先の市場として利用するという不平等を土台として成り立っていました。でもこのウチソトを分ける構図は最早なくなって、世界という<>で先進国も新興国も途上国も関係なくも平等にものや情報が流通する形に変わってきています。つまり先進国というウチを、世界単一の市場という<>が呑み込んでしまったということなのです。こでは一国のGDPなどもはや何の意味もありません。

次に軍事力。軍事力は、政府に潤沢な予算がなければ増強できません。しかし<>に産業が吸収されていけば、母国の政府にきちんと税金を支払うということの意味が乏しくなっていきます。実際、<>を運営している超国籍企業の多くは、まともに母国に税金を払っていません。超国籍企業は、国内ではものを作っていません。国外で部品を集めて、国外で組み立てて、国外に売っているのです。全く母国を通りません。さらに様々なものの流通が<>に移行していくと、物理的なものの移動さえなくなっていきます。すでに超国籍企業は、ものではないソフトウェアやサービスの販売に軸を置くようになっています。このように、政府はもはや超国籍企業から富をピンハネすることができなくなっていきます。<>が進化し巨大化し、運営する超国籍企業がどんなに収益を増やしても、母国の政府の国庫はあまり豊かにならないという状況になってしまったのです。これは政府の予算を増やさず、長い目で見れば軍事力を殺いでいくことになるでしょう。

最後に国民力。「第三の産業革命」は仕事を増やさず、企業は人を雇わなくなっています。21世紀超国籍企業は少数精鋭で<>を運営し、ウチに従業員を囲い込みません。少ない社員で大きな影響を持ち、何億人もの人たちに<>を提供しています。<>は先進国から雇用を奪い、アジアや中南米などの新興国にばらまいています。世界中の仕事の給料は、だんだん同じ金額へとならされているのです。そしても仕事は給料の安い新興国へと移っていき、すべての世界がフラットになるまで下がり続けるでしょう。

世界中の労働者がフラット化した先には、ロボットが待ち受けていると言われています。例えば名刺の管理や請求書の作成、経理といった事務作業の多くは、いまインターネットの安価なサービスとして提供されるようになっています。これまでだったら、中小企業がそういう仕事のために社員を一人雇っていたのが、インターネットのサービスのために不要になってしまっているのです。これも機械が仕事を奪っていることの一例です。ロボットが単純労働や簡単な仕事を肩代わりしてくれるようになれば、人間はもっと知的な仕事に専念できるようになるという意見もあります。しかし、これは幻想です。なぜならロボットに出来ないような知的な仕事のできる人は、限られているからです。たいていの人にはそんな知的な仕事はできず、ロボットの普及で仕事を奪われて終わるだけ、というのが冷酷な未来像なのです。この変化は、私たちが生きてきた古いシステムを分断します。<>は民主主義を否定し、私たちを分断し、不幸にしているように見えます。

<>を運営する超国籍企業は母国に最適化しているのではなく、世界全体に最適化しているのです。母国のために仕事をしているのではなく、世界全体に平均して富を与えるように仕事をしているのです。母国には貢献していないけれど、アップルやグーグルは世界経済の成長を後押しし、世界の雇用を増やしています。

 

では、<>が世界にもたらす世界観とは、何でしょうか。それは、私たちと<>の新たな「共犯」関係です。

<>のシステムは極めて巧妙に管理運営されています。そのためのメンテナンスやイノベーションのために、<>は皆の動きや、関係や新しい動きといったデータを無数に採集して分析しています。これが「ビッグデータ」と呼ばれるテクノロジーです。超国籍企業は、使い勝手が良くてとても便利で、そして無料だったり安価だったりする<>を提供する代わりに、ビッグデータを集めてお金儲けをしています。しかし、人々もまた<>を利用しています。同時に、<>は利用者のデータをたくさん集めてビッグデータ技術で皆の行動を利用しています。ビッグデータを活用することで<>はもっと使いやすくなります。<>が使いやすくなることで、人気が高まって利用者は増えます。利用者が増えるとビッグデータはもと大きくなります。この繰り返しで、<>は巨大化していきます。巨大化していくためには、多くの利用者を惹きつけなければなりません。一方的に支配するだけでは、決して巨大化できないのです。これは古代や中世の帝国が巨大になって行ったなりゆきと、少し似ています。言って見れば現代の超国籍企業がつくる<>は、情報が非常に流通しやすい交易システムのようなものです。しかし、この新しい帝国は、目に見える帝国ではありません。中世の帝国のように皇帝が君臨していて、人々を見下ろしているわけではありません。多分私たちの社会の見た目は、これからも今までと同じようになんら変わりはないでしょう。そこに静かにひそひそと、<>という新しい権力構造が浸透してきて、下から支えられるようになる。

 

私たちは、<>に支配される被支配者です。しかし同時に、私たちは<>を利用しています。<>が存在するからこそ、いままでの化粧箱の中の息苦しい生活ではなく、横に動き回る自由を得ることができたのです。<>に支配されることを知っていながら、自由を得るための代償として、支配を受け入れているのです。一方で、<>は圧倒的な支配者でありながら、私たちがいなければ存続することができません。<>は、私たちの自由な動きからエネルギーを得ているのです。<>はなんでも呑み込んでいきます。私たちが<>の支配に抵抗し、<>を破壊しようとしたとしても、<>はそのエネルギーを呑み込んでさらに巨大化していくでしょう。私たちはそれを内心分っていながら自由に動き、<>に抵抗さえし、そして結果的には<>にエネルギーを与えていくのです。だからこれは、一種の「共犯」関係なのです。

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