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2013年7月27日 (土)

佐々木俊尚「レイヤー化する世界─テクノロジーとの共犯関係が始まる」(8)

第3部 未来─<>の上でレイヤー化していく世界

第6章 すべては<>に呑み込まれる

第三の産業革命が起き、テクノロジーに基づいて新しく設計されたシステムが、世界を逆回転させようとしています。民主主義が引き裂かれ、国民国家の幻想が打ち砕かれていくにかで、このテクノロジーを中心とする新しいシステムがいま急速に姿を現わそうとしています。これまでヨーロッパやアメリカ、日本などの先進国では、企業のウチとソト、国民国家のウチとソトというようにウチとソトの関係をいくつも重ね、つねにウチは豊かになり、ソトの富を奪っていくという構図をつくっていました。しかし、テクノロジーの革命は、このウチとソトという構図を破壊しながら進行しています。インターネットはウチとソトの壁を壊し、ただひとつの<>のようなものをつくり、その<>はインターネットに接続して限りすべての人々に開放されていて、無限に広がっていきます。

しかしその先には、昔から人々が願っているような「皆が自由になる世界」「抑圧がない平和な世界」がやってくるわけではありません。ウチの幸せが消滅し、<>へと世界が移行していくと、そこではやはり<>を運営する側とされる側という新しい支配関係が生まれます。国民国家という古い支配関係が終わり、<>という新しい権力支配が始まるということ。それが21世紀に世界中で起きることなのです。

すべての分野が、この<>に呑み込まれていこうとしています。最初に呑み込まれたのは、音楽業界でした。音楽CDはレコード会社のウチで企画され製作され、その相互の関係が業界をつくり、業界のウチとソトを分けていました。ところがいの音楽CDは売れなくなり、アップルのアイチューンズを代表とするインターネット上の音楽配信へと移っています。アイチューンズは、レコード会社と違って何もしませんが、音楽が流通する<>を提供し、有名ミュージシャンでも無名の独立系ミュージシャンでも、素人の個人でさえも自分の音楽を流通させることができるようにしています。そしてこの<>を世界中に広げています。ミュージシャンの面倒は何も見てくれない代わりに、世界的な<>を用意して、音楽を自由自在に、しかもネット経由で猛烈な速度で流通できるようにしてしまったのです。

<>の浸食する空間は、音楽からさらに書籍や映像にも広がっています。書籍の世界では、アマゾンのキンドルという電子書籍が<>の覇権を握っています。映像の世界では、アップルやアマゾンやグーグル等のネット企業だけでなく、映画産業もレコード会社の二の舞を踏むまいと参入しています。この流れは文化の世界だけではありません。たとえば、コンピュータは、もうかなり前から<>に変わっています。

1990年代、マイクロソフトが販売したウィンドウズは、パソコン本体とは別のOSで、マイクロソフトはOSに合わせて自由にパソコンやアプリを売ってくださいとコンピュータやソフト会社に呼びかけました。これはウィンドウズという<>をつくったということでした。この<>の上で安価なパソコンやアプリが売られるようになり、種類も増えて、ウィンドウズの<>は大変栄えました。そして古くからあった他のコンピュータをほとんど追い払ってしまったのです。ても、このウィンドウズという<>は、いま尼祖先やアップルが運営している<>とはだいぶ違います。いまの<>をネット企業がコントロールしているのと違い、ウィンドウズは自由自在゛でした。メーカーがウィンドウズに合わせたパソコン本体やアプリを売っても、手数料さえ取らなかったのです。ウィンドウズやグーグルのような自由な<>が有利なのか、それともアップルやアマゾンのような管理された<>の方が有利なのか。いずれにせよ、インターネットの世界では、昔のようなウチの構造に戻るとは、もう誰も考えていません。

電子機器だけではありません。<>はさらに浸食の手を伸ばしていきます。いずれ自動車も、<>に移行していくと言われています。現代の精密で高性能なガソリン車は、「すり合わせ」によってつくられています。自動車には、ブレーキシステムやエンジン、車体などの部品があります。これら部品をただ集めてきたら自動車が出来上がるのではありません。部品をきちんと組み合わせる、すり合わせの技術がすごく難しいからです。ところがこれが電気自動車になると、大きく変わると言われています。これは大変な変化です。ソフトウェアを巧みに書くことができれば、車の制御能力を上げていくことができるからです。この結果、機械と機械をすり合せるような職人芸は必要なくなります。そしてもソフトウェアが電気自動車時代の<>の役割を果たしていくことになります。

自動車だけではありません。製造業すべてが、<>へと移行していくでしょう。これまでのものづくりは、巨大企業が大量生産するシステムでした。しかしいまは巨大企業がつくる大量生産の製品は、だんだん売れなくなってきています。先進国ではどこでも「皆と同じものを持ちたい」という考えがなくなり、「自分にとって大切なもの」「自分が好きと感じるもの」を購入したいと思う人が増えてきています。そうなると、自分が本当に好きなものをつくって、それを少しの人たちに買ってもらえばいいと考える人も現われて来ます。数百万人に売るのではなくて、数千人、数百人に売れればいいということなのです。数百人に売るのであれば、巨大企業や巨大工場にたくさんの従業員は必要ありません。小さな町工場みたいなところで、ほんの数人が集まってものづくりをすればいいのです。この新しい世界では、パソコンとつながった工作機械が出力先になり、様々な設計データやデザイン、使い方のノウハウなどが新たな<>で共有されるようになるでしょう。そのような<>はまだ発展途上ですが、いずれアップルやグーグルと同じように世界中をつなぐものづくりの<>ができあがっていくのは間違いありません。そして、同時にこれは時計の逆回転であり、中世への回帰にもなっています。産業革命による巨大工場の大量生産から、家庭や自宅のガレージでものをつくるような方向へ回帰しています。

お金の流れる、<>へと変わっています。「ソーシャルファイナンス」と呼ばれる新しい仕組みが出てきています。例えば、銀行から融資を受ける時、そのお金は多くの人が銀行に預けた預金が元手です。それなら、お金を預ける人と、銀行からお金を借りたい人を、直接<>で結び付ければよいという発想です。銀行という組織のウチ側に取り込まれていたお金の流通を、<>という開放された場所へと移していくものです。

<>は、人と人とのつながりやコミュニケーション、あるいは政府や自治体、そして教育の世界へも浸透しようとしています。このように<>は、世界のありとあらゆる分野へと浸蝕し、すべてを呑み込んでいきます。この流れはもはやとどまりません。数十年後には、私たちの世界の構造はすっかり様変わりしているでしょう。

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