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2013年8月 5日 (月)

アンドリュー・S・グローブ「インテル戦略転換」(5)

第4章 それは、どこにでも起きる

世の中には競争があり、またメガ・コンペティション(大競争)がある。メガ・コンペティション、つまり「10X」の力が出現すると、産業の様相は一変する。時にメガ・コンペティションの本質は目に見えて明らかである。ウォルマートの例がまさにそれに当たる。

テクノロジーの基本ルールは「技術的に可能なことは、いつの日か必ず実現される」ということである。つまり、いったんPCが登場して、ある処理を行うためのコストを「10X」引き下げると、その影響はコンピュータ産業の隅々にまで及び、次第に産業そのものを変貌させてしまった。このような変化は一夜にして起こったわけではなく、徐々に変化して行ったのである。

顧客がそれまでの購買習慣を変えるということは、最も見えにくく、油断のならない戦略転換点の要因である。なぜ見えにくく、油断できないかと言えば、それはゆっくりと時間をかけて進行するからだ。消費者を直接の顧客としている企業は、このような若い世代が将来の顧客となるために、若者に浸透しつつある変化、すなわち若者がいかにして情報を入手したり生み出したり、問題を解決してり、生活したりしているのか、といったことを常に配慮する必要がある。さもないと、顧客から相手にされなくなってしまう。これは、チックタックと音を立てて近づきつつある人口統計学上の時限爆弾ではないだろうか。顧客ベースで起こる変化は、顧客の微妙な態度の変化であることもあるが、それがあまりに強烈な場合、「10X」の力を持つ可能性がある。

1994年のペンティアム・プロセッサーに対する消費者の反応は、こうした変化の表れだった。インテルの顧客に対するあぅいとの中心は、コンピュータ・メーカーからコンピュータ・ユーザーへとしだいに移って行った。「intel inside」キャンペーンは、コンピュータ・ユーザーのあいだに、実際にインテルから製品を購入していなくても、自分たちはインテルの顧客なのだという考え方を定着させた。これは顧客の態度の変化であり、しかも我々がそう仕向けたのだ。しかし、インテル内部にいた我々は、そのインパクトを十分には理解していなかったのである。この事件は偶然に発生した意味のない「ノイズ」なのだろうか。それとも何か特別な意味のある「シグナル」なのだろうか。私は後者だと思っている。コンピュータ業界は、自分の裁量で製品を買う顧客を相手にするようになったのだ。インテルはこの新しい現実に適応していかなければならなかったし、他社にしてもそうだった。コンピュータ業界を取り巻く環境が変わったのである。幸運なことに、この業界のマーケットは以前よりもはるかに大きく成長していた。しかし、その一方で、いままで扱いなれてきた市場よりもはるかに手強くなっていたのである。

マイクロプロセッサーの供給業者としての能力を有するインテルは、二次供給事業の運営を変えることで、コンピュータ業界の変革を加速させた。かつてコンピュータ業界で一般に行われていた二次供給とは、供給業者が自社製品を広く普及させるために、競合企業側に技術的なノウハウを提供し、競合企業もその製品を供給できるようにすることであった。80年代半ば、我々は、この事業運営がもたらす不利益が利益よりも大きいということに気付いた。そこで、方針を変更した。我社は自社の技術に対してそれ相応の報酬を要求することに決めたのである。我々は最終的に、次世代マイクロプロセッサーへの移行時期に、二次供給事業が成り立たなくなったことを受けて、自社のマイクロプロセッサーは自社のみ顧客に提供することにしたのである。この比較的小さな変更がPC業界全体に与えたインパクトは、桁外れに大きかった。最も重要な商品、つまりほとんどパソコンが搭載していた標準マイクロプロセッサーを提供できるのは、その開発業者であるインテルだけになった。この結果、二つの事態が起こった。一つは、われわれが顧客に与える影響が増大したことである。そして二つ目は、ほとんどのPCが一社から供給されるマイクロプロセッサーを搭載して製造されるという状況が加速したため、どれもが似通ってきたことである。さらにソフトウェア開発業者はね多数のメーカーが製造してはいるものの、基本的には同じようなコンピュータを意識してソフト開発することができるようになったのだ。互換性のある商品が登場したというコンピュータ業界の変革は、共通のマイクロプロセッサーがコンピュータに搭載されたことに大きく起因しているのである。

本章では、戦略転換点がどこでも起こり得るものであることを示そうと試みた。戦略転換点が、現代に特有の現象でも、ハイテク産業に限定されたものでも、他人にのみ起こり得るものでもないことを示したかったのだ。戦略転換点はそれぞれが異なってはいるが、共通の特徴を持っている。ここで注目してもらいたいことは、どの事例をとっても、戦略転換点が訪れると必ず、勝者と敗者が生まれるということである。そして勝者となるか、敗者となるかは、その企業の適応能力にかかっているということだ。戦略転換点は、脅威であるとともに将来の成功をも約束する。それは、根本的な変化の時であり、「適応か、死か」という常套句が、その真の意味を発揮する時なのである。

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