無料ブログはココログ

« 古東哲明「ハイデガー=存在神秘の哲学」(2) | トップページ | 古東哲明「ハイデガー=存在神秘の哲学」(3) »

2013年11月12日 (火)

V社の決算説明会を見てきた

先日、パネル関係の加工装置や検査装置のメーカーであるV社の第2四半期の決算説明会に行ってきました。場所は東京証券所の一般見学コースの2階にある東証ホール。見学者用玄関から入りますが、持ち物検査と身体検査を受けて、物々しい感じです。広いロビーを上ると会場で、天井は高く、舞台は会社の説明者が座っていると雛壇のようです。会場全体は100人くらいのキャパはありそうですが、出席者は30人強でしょうか、二人掛けのテーブルに一人ずつで余裕があります。

資料は、受付の際に説明資料をうけとると、アンケートも決算短信もありませんでした。最初は驚きましたが、この後の説明を聞いて、これはこれで潔い態度だと思いました。会社側の出席者は社長、経理関係の責任者、理財部長とIRの担当で、IR担当の司会で説明会が始まると、社長が説明を始めるというパターンです。説明会のトータル時間は、1時間15分で、だいたいのところで、説明が45分であとは質疑応答に充てられました。

社長のSさんは技術者出身なのだそうですが、決算数字や業績の数字の説明は資料をさらうように5分程度とおわらせてしまいました。その後が、すごかった。V社の説明会の突出するくらいユニークでした。これから40分くらいの時間をかけて、マニアックなほど微にいり細を穿つくらいに丁寧に、パネル関係の市場動向や技術的背景の説明を、社長の識見を交えて展開されました。パネル製造ラインの技術的トレンドから世界市場のシェアの推移といったことが、具体的な製品、部品、あるいは会社名が明かされてメーカーに籍を置く私でもついていけないほど、深堀した説明が展開されました。

スマートフォンの製造メーカーのシェア・トップがアップルから韓国のサムソンに移り、その後には中国のメーカーに移っていくだろうことを見越して、中国への展開にいち早く手を打ち、その負担に耐えてきた中で、今年に入っての円安で急激に受注を伸ばすことができたのが、今期の好調な業績。その好調に安住することをよしとせず、スマートフォンの画面はフレキシビリティが重視され液晶と比べて有機ELの占める割合が高まってくることを予想し、それに向けた技術を持った大手電機メーカーの子会社から事業譲渡を受けた、という攻めの経営姿勢がみえました、好不調の落差が激しく、そのサイクルが短期間という動きの激しい業界であるために、経営戦略の適否が企業の成長を大きく左右するという環境から、あえてリスクをとって積極的に事業を推進させるという経営者の姿勢を見て取ることができました。

これを社長は、シナリオも何もないところで、自分の言葉で説明している(経営者なら当然?なのかもしれませんが、大企業のトップでさえ台本を丸暗記したような説明をすることは少なくない中で、敢えて特筆しました)のをみて、この社長の見識というのを強く意識させられました。そして、その説明の中で、自社の戦略を淡々と語られていくを聞くと、今まで何社かの説明会を見てきましたが、理詰めで説得されて納得せざるを得ないという感じに、これほどなったのは、この会社以外にはありません。説明に散りばめられた技術用語なんかに幻惑されているのかもしれませんが、技術用語で幻惑するほどの説明をしたメーカーの社長がいたか、そこまでやるか、と感心させられました。

IRというのは、社長がアグレッシブな姿勢で経営に真剣に取り組んでいて、その重要さに気付き、その重要さゆえに他人任せにせず、自身で取り組むことによって、ユニークで質の高い活動ができるという、ひとつの範例を見たように思いました。最初、配布されたのが薄っぺらい説明資料だけで、しかも今後の見込み数値やグラフが空白になっている、それを何も知らずに見ると、手を抜いているのかと誤解してしまうのですが、社長の説明を聞くと、この会社のユニークで確固たる姿勢の表われであることに気付かされます。会社の内容や特徴を見極めたうえで、今、会社の経営からIRに何を望むのかを検討して必要十分な説明会を追求した結果ではないか、そうだとすれば横並びで無難な資料作成をせずに敢えて誤解を恐れずにユニークに資料配布をしたことは会社の挑戦的な姿勢が出ていると考えることも可能です。それは社長の意思であるたろうとも。

そして、説明終了後で、失礼ながら、それほど多くはない出席者のわりには質問が絶え間なく続き、予定時間いっぱいに質疑応答の熱いやり取りがあったのは、出席者に熱心な人の割合が高かったのではないかと思います。ただ、質問は、会社の今後の見込みについて数字的な細かいものから、会社とは直接関係ないと思われる業界の全般的なトレンドまで、種々雑多でした。出席者の中には、V社に直接関心があって出席したというのではなく、業界情報を得るために出席していた人も相当程度いたようにも思います。それでも、説明を聞こうという強い興味をもって、わざわざ出席してくるわけで、何であれ、これだけの人を集めることができるのは大きな魅力があるからだと思います。そのような人たちのうち、説明を聞いて会社をフォローすることだってあり得るわけですから、

ただ、これだけ一点集中のような傾向の説明会では、マニア受けというのでしょうか、ひろく多方面から集客することは難しいかもしれません。それを覚悟して判断できるのは経営者だけで、IRの担当者レベルでは難しいと思います。個人的には、社長の個性が、これだけ強いとIR担当者の苦労も偲ばれると、感じました。凄いのは、こういう説明会を何年もの間、地道に続けてきているということです。社長も凄いですが担当者の苦労にも頭が下がります。

上場企業が数千社あるなかで、通り一遍だったり、お座なりだったりのIR、あるいはやっていないという企業もあるなかで、以前にも書いたN社といい、真摯にIRをやっている会社は、あるということを発見して、何か力づけられる思いです。

« 古東哲明「ハイデガー=存在神秘の哲学」(2) | トップページ | 古東哲明「ハイデガー=存在神秘の哲学」(3) »

あるIR担当者の雑感」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: V社の決算説明会を見てきた:

« 古東哲明「ハイデガー=存在神秘の哲学」(2) | トップページ | 古東哲明「ハイデガー=存在神秘の哲学」(3) »