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2014年1月 8日 (水)

山本芳久「トマス・アクィナスにおける人格の存在論」(15)

第Ⅲ部 存在充足の運動としての愛

第Ⅱ部においては、「存在充足としての認識活動」という切り口から、人間知性のはたらきに着目した分析を遂行したが、以下、第Ⅲ部と第Ⅳ部においては、「存在充足」を目指した存在論的倫理学という観点から、しばしば対立させて考えられることのある「徳論」(幸福論的なもの)と「法論」(義務論的なもの)とを統合的に捉える視野を提示したい。

トマス倫理学を構成している基本原理の一つがアリストテレスに由来する「徳」の概念であるということは明らかであるが、トマス倫理学には、通常の「徳倫理学」という規定では把握し尽くされない存在論的な豊かさがある。トマス倫理学の中で、アリストテレスに由来する「徳論」においては、人間の完成は、能力的な次元で捉えられている。「賢慮」は「理性」を、「正義」は「意志」を、「節制」は「欲情的欲求能力」を、「勇気」は「怒情的な欲求能力」を完成させるというように、徳は人間の各能力を完成させるものとして捉えられている。「勇気」が困難に立ち向かう力であり、「節制」が自己の欲望をコントロールする力であるように、「徳」は、人間の各能力を充実させる「力」として把握されているのである。だが、人間存在全体の完成は、このような個々の能力の完成から後になって合成されるものとしては捉えない。

トマスは、アリストテレスの引用を多用しながら、アリストテレスとの持続的な対話の中で、アリストテレスの教説の中核部分をその構成要素として含み込むような自らの独自の枠組みを編み出しているのである。トマスは、人権の完成を、アリストテレスに由来する徳論に見られるような能力論的な次元で捉えるのみではなく。より存在論的な次元で人間存在全体の力動的な完成として捉えている。そもそも人間が多様な行為を積み重ねながら自らの完成を目指していくという在り方をしているのは、一にして端的な仕方において「存在の充実」を有している永遠的存在である神とは異なり、人間が未完結な本性を有しているからだとトマスは考える。だからこそ人間は、自らの「存在の充実」を目指しながら行為を時間的に積み重ねていかなければならないような仕方で存在しているのである。そして、そのさい、人間の行為のうちには、「存在の充実」へと導く行為と導かない行為があり、人間存在全体を「存在の充実」へと導く行為とは、それ自体、「存在の充実」を持った行為なのである。このような理解に基づいて、トマスは、「あらゆる行為は、存在に関わる何ものかを有している限りにおいて善性を有していて、人間的な行為になくてはならない存在の充実に関わる何らかのものが欠けているかぎりにおいて、善性を欠落し、悪しきものと言われる」と述べ、個々の行為の分析を人間存在全体の存在論的分析の文脈の中に位置づけながら、人間の存在充足の条件を明らかにするという形で自らの倫理学を展開することを宣言している。

そして、「存在の充実」は、自己のみに関わるのではなく、他者にも関わる。「存在の充実」によって自己内のそして外界との葛藤を統合しえた人間(ペルソナ)は、自らが存在の充実を達成するだけではなく、それを他者へと分かち与えることへと促される。

それゆえ「存在の充実」への動的運動としての人間存在論は、最高の「徳」とされる「愛」の分析において、その極点にすることになる。人間が愛するとき、そこには、大別して二つの理由が存在する。それは、愛の対象を獲得して自らの「存在の充実」をより豊かにするためという理由と、自らがすでに有する「存在の充実」を他者へと分け与え、他者をも「存在の充実」へともたらすためという理由である。

このように、トマスにおいては、「愛」とは、単なる主観的な感情のようなものではなく、存在論的な観点から捉えられている。そして、そこにおいては、自己愛と他者愛、受動的な愛と能動的な愛、「感情」としての愛と「徳」としての愛、「人間が神を愛する愛」と「神が人間を愛する愛」といった、一見相反するような特徴を持った複数の愛が絶妙に統合されうるような観点が提示されている。

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