無料ブログはココログ

« ラファエル前派展 英国ヴィクトリア絵画の夢(2)~1.歴史 History | トップページ | ラファエル前派展 英国ヴィクトリア絵画の夢(4)~1.歴史 History(アーサー・ヒューズ) »

2014年4月28日 (月)

ラファエル前派展 英国ヴィクトリア絵画の夢(3)~1.歴史 History(続き)

Miremariana 同じミレイの「マリアナ」(左図)という作品です。画像では分かりにくいでしょうが小さな作品で、「オフィーリア」の隣の片隅に展示されていたため、今回は地味な印象になってしまいました。「オフィーリア」は有名な作品ですか、作品の前に人だかりができるのに比べて、こちらは静かにじっくり観ることができました。この作品で、まず目に付くのは、青の印象です。中心の人物の着る衣装の青の鮮烈さです。じつは「オフィーリア」でも作品の完成当時は、もっと青を基調にした色合いだったのが色褪せてしまったといいます。この「マリアナ」では、散らかる木の葉や飾りのステンドグラスなど、他の部分には一切青系統の色が使われず、衣装に集中しているので、その鮮やかな印象は尚更です。その青い衣装のアクセントとしてマリアナの金髪と腰のベルト。そして、その鮮烈な青い衣装に包まれたマリアナのポーズ、あるいは肢体が、腰に手を当ててのけぞるような姿勢を際立たせています。長時間椅子に座っていたのを立ち上がって腰を伸ばしている場面ということなのでしょうか。それにしては、手を当てた腰から尻にかけての線とか、背を伸ばしたことで強調される胸の線が、衣装の青に包まれて、やたら目に付くのです。そこに、私のような人間は性的な仄めかしを感じ取ってしまうのです。しかも、マリアナの物憂げで虚ろな表情が、助長させるのです。マリアナという女性は婚約者を失い、幽閉されるような生活を強いられたというテニスンの詩の登場人物という設定です。愛してくれる人を失ってしまい、さらに閉じ込められた生活での煩悶というのでしょうか。かつて愛を受けた思いが現在はかなわないというフラストレーションとか疼きのようなものが、身体を締め付けるような青い衣装が、そのうずく身Preraffamarina2 体を際立たせるように逆に際立たせている、と言えます。しかも、この小さい画面に描かれた空間の狭い感じ、画面のサイズの小ささがそれを募らせています。さらに、室内の調度や床に散らばった木の葉の一枚一枚まで細かく描き込みことで、室内の稠密さが濃く印象付けられ、また、マリアナのテーブルを不自然なほど小さくして、代わりにテーブルクロスの装飾を執拗に細かく描き込むことなどによって、室内の狭さ、空間的余裕のなさを強調し、マリアナのいる空間の閉塞感を強く印象づけています。「オフィーリア」の場合もそうですが、ミレイという画家は空間を小さくとる傾向があるようで、広がりというよりは小さな空間に閉じ込め精緻に細かく描き込む傾向があるようです。そういう傾向で、歴史画を描くと、壮大なスペクタクルとか活劇の場面などには似合わず、少ない人物を掘り下げて描き込むことに向いているのが分かります。この「マリアナ」のような、きっとマリアナ自身も自覚していないような身体の疼きとか煩悶のようなものを描いてしまうというのは、歴史画では例がなかったと言えると思います。しかし、空間の設定からマリアナのポーズに至るまで、一貫して彼女の精神と身体の微かな疼きのようなものを表わすということが、初めて可能になっているとおもえるのです。この画面の中で、唯一のその一貫性に沿っていないのは当のマリアナの顔です。それが、この作品の節度を保ち、その一方で、マリアナ自身も意識していないような疼きとして屈折したエロチシズムの風情を与えていると言えます。このことは、ウォーターハウスの「南の国のマリアナ」(右図)という同じ題材を扱った作品と比べてみると、よく分かります。同じようにマリアナを後姿で描き、彼女の嘆くさまを前に鏡をおいて表情まで描いてみせたウォーターハウスの作品には暗さはあるものの、閉塞した空間は感じさせず、マリアナは境遇を嘆いているが、ミレイの作品にあるような疼きに襲われることはありません。ウォーターハウスのマリアナは肉体を備えた個人としてではなく、物語の類型として捉えることによって、ミレイの作品にはない、ある場面でのひとつの理想の美しい女性を描くことができたとも言えると思います。

Preraffacal コールデロンの「破られた誓い」という作品です。制作したフィリップ・ハーモジニーズ・コールデロンという人はラファエル前派兄弟団に参加した人ではないそうですが、ミレイの「マリアナ」をはじめとした作品の影響を見ることができます。ここでは、「マリアナ」ほどの閉塞感はありませんが、庭の一部という空間の限定と、木の壁や塀に茂った蔦の精緻な描写や、中心の女性の描き方等で「マリアナ」に通じるところが多いと思います。しかし、何よりもこの作品の特徴は、ミレイにはない、陽光の描き方です。陽の当たる部分の明るく暖かな感じは、印象派の描く光と影とは違った光の表現として、もっと触覚に近い感じを与えるものです。主人公の顔に陽光が当たり、その顔の肌が柔らかく映えるあり様と、黒を基調とした衣装とのコントラスト、そして黒い髪が日に映える様は、それだけで魅せられてしまうほどです。

« ラファエル前派展 英国ヴィクトリア絵画の夢(2)~1.歴史 History | トップページ | ラファエル前派展 英国ヴィクトリア絵画の夢(4)~1.歴史 History(アーサー・ヒューズ) »

美術展」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« ラファエル前派展 英国ヴィクトリア絵画の夢(2)~1.歴史 History | トップページ | ラファエル前派展 英国ヴィクトリア絵画の夢(4)~1.歴史 History(アーサー・ヒューズ) »