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2014年7月24日 (木)

久しぶりにN社のことなど

以前から何度か、「N社の野望」として書き込んできたN社の決算説明会があって、先日、見学してきましたので少しく感想を述べさせていただきます。これは、私がIR業務を担当していたことにお付き合いいただいた、ある方のご厚意により、関係者以外は見ることの出来ない説明会を見学させていただいているもので、この方には、いつも感謝しております。

全体としての経済状況はアベノミクスとか株式市場とかニュースなどで報道されていますが、製造業の現場では決して将来が明るいとか活気を呈しているということはありません。むしろ、一時の景気低迷円高を脱したとはいっても世界経済全体が停滞気味で、国内のそれほど悪くない状態がいつまで続くかというような、とても楽天的にはなれない状況と言っていいと思います。各企業が5月半ばに今年度の業績予想を発表していますが、概してコンサバ、つまりは強気の成長戦略は描いていないことが明らかな予想を出しています。これはたぶん、本当はもっと低い確実な今期予想をしたいのだけれど、景気への期待やら、アベノミクスの風評やら、などの要因が重なり、あまり低い予想をするとその企業は経営意欲がないと誤解されそうなので、折衷的な数字を作っている、というところが多いという状況と思われます。一部の企業を除いて、経営への閉塞感というは、増していることはあっても、決して減ることはないという状態にあるのではないか。かなり、私の見方は悲観的かもしれませんが。

そんな中で、N社は創業者であるN社長の経営手腕によって、そんな景気状況をものともせず、順調に業績を伸ばしてきた、いわば独り勝ちの企業です。この会社は、創業以来の中核だった事業がノートパソコンのファンモータでしたが、パソコン自体が市場が成熟し、需要が頭打ちから、減少に転じてくるだろうという中で、事業分野を転換し、モーターを中心とした自動車の電子部品に展開し、それが軌道により、受注が加速度的に増え始め、それが業績に反映し始めたというのです。ただし、単純にモーターを自動車に転用したのではなく、制御装置を新たに開発し、今、どんどん電子化が進む自動車に新たなシステムを提案し、それに注文がきているということです。例えば、自動運転装置を将来に向けて自動車会社だけでなくグーグルも開発競争をしていますが、そこで使われるミリ波のセンサなども開発しているそうで、つまりは、自動車メーカーや従来の自動車部品のメーカーが扱っていない新たな分野の製品を開発して、ファーストサプライヤーとなって市場を独占してしまおうという努力を数年前から始めて、ここにきて漸く成果が現われてきた、というものだそうです。N社は自動車に限らず、電機機器では、コンパクト化が進み、コードで電源につなぐのではなくバッテリーに充電して手軽に持ち運びできるタイプに切り替わって来るのに対応した、軽量小型で無駄に電気を消費しないように自己制御するモーターを開発して、独占的にその市場を支配するとかいったことも進んでいるとか。N社長は、ライバルとは競争してコスト競争で消耗することなく、次々と新市場を開拓してそこを伸ばしていく、と高らかにうたっていました。彼に言わせると、新分野はまだまだあるということで、N社の可能性は、これからもまだまだある、ということでした。

経営者が元気旺盛で、ポジティブパワー全開であると、こうも企業というのが活力あるものに見えるのか、と感心されられました。たぶん、N社長の行っている通りに、業績数字も実際に、そうなっていくのだろうと思います。

前回も言いましたが、決して私はN社のスポークスマンではありませんが、こういう会社が、こういう経営者が、もっとあってもいいのではないか、というのが正直な感想です。私はこういう人にはなれませんが、経済政策とか景気対策とか何とかいっても、こういう経営者や会社が、後から後から生まれてくれば、そんな政策などなくても経済を上向くのだろうな、などと妄想に耽ったりしました。

しかし、気になる点もあります。前回も書きましたが、事業分野が広がり、しかも新たな分野に進出しているということ、しかも、先行他社もない独自の道を拓こうとしているところで、エネルギッシュなN社長もさすがに追いつかなくなってきているのではないか、ということが明らかに目に見えてきたことです。以前は、そんなことはなかったのですが、とくに今回は自動車の電装部品に関する説明は、どこか舌足らずで説明が足りないところは気合で穴埋めしていたように聞こえました。ワンマンで鳴らした創業経営者のN社長も必死に勉強しているのは偲ばれますが、追い付いていないのは、説明を聞いている私も分かりました。多分、顧客となる自動車メーカーすらも確かなイメージのない段階でN社は、こういうのはいかが?と提案をしているようなので、自動車メーカーの最先端の機密の技術にまで踏み込もうとしているのでしょうが、しかも、かなり細かいところでやっているのではないかと思われるので、なかなか分野違いということもあって届かないというのが正直なところではないでしょう。ただ、センスとか嗅覚とか経営者の勘とかで間に合わせているような気がしてなりませんでした。たぶん、N社長の次の世代というのか、スタッフにどこまで任せられるのかということになるのでしょうから。

また、以前のノートパソコンの部品の市場は市場の消長が激しいところでその見極めには、それこそ野生の勘が必要になるような市場だったと思います。これに対して、自動車の場合は中長期的な生産計画に基づいて、注文は長期的で比較的安定した注文をとれるようになるので、それに対する態勢も変質してくると思われます。いわば、今まではワンマン社長にしたがって会社は一致団結していればよかったのが、今後は個々に各個展開していかなければならなくなり、以前のような統制とは違った会社になっていかなければならないはずで、それにどう対応していくか、実は社長が切り替わっていないのではないか、そんな感じを抱きました。それは、今回の説明会で精神論的な言辞というのか、気合というのか、「まあ、見ていなさい」とかそういった類の言葉が増えたことがやけに気になったのでした。

また、説明会に出席している、自分より年下のアナリストたちをからかうように鼓舞していたのが、(それに対して、一言も喰って掛かるように反論すらしないアナリストたちも、どうかとも思います。そこで堂々と渡り合うこともできないで証券市場の健全な発展があるのか、という気はします。そこで経営者に直言するからこそ、経営者にとってメリットが生まれるわけだし、ひとつのカバナンスにもなるのだろうと思いますが。スチュワード・シップなどと御大層な報告書を有識者とやらがぶちあげるよりも、足もとのこういうところで、やるべき人がやるべきことをやっていないのを、やらせる方が実効性があると私は思います。ここで出席しているアナリストはだらしないと思いました。言い過ぎですね。)私には、説明を誤魔化しているように見えて、そこに一抹の寂しさを覚えました。

最後に書いたことは、おそらく私のひとりよがりの杞憂だと思います。N社については、来年の通期決算がどこまで伸びるのか、たいへん楽しみです。しかも、毎回のことですが、N社長には元気のオーラをお裾分けしていたたきました。

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