石井彰「木材・石炭・シェールガス」(5)
第3章 第一の革命─再生可能エネルギーは環境に悪い
産業革命以前の経済の最大の制約はエネルギーだったと言われる。低効率の再生可能エネルギーに全面的に頼っていて、高効率で豊富な化石燃料を使用できなかったからだ。にもかかわらず、ほぼ全面的な森林破壊、森林払拭に代表される再生可能エネルギー利用による環境破壊は、現在とは比較にならないぐらい深刻なものであった。
風力葉電や太陽光発電などの新世代の再生可能エネルギーは、通常の火力発電や破滅的事故が起きない前提での原子力発電のコストに比べても数倍から5倍のコストがかかり、かつ不安定な利用勝の低い電源であることは明白だ。しかも、天気や昼夜に左右されて発電量や電圧が目まぐるしく変動する太陽光発電や風力発電は、火力発電や原発と比べて必要な時にいつでも電気を使える、というものではない。必要な時にいつでも電気を使えるようにするためには、機動性のあるバックアップ電源が必要であり、単独では利用できない。このバックアップ電源は、極めて高価な蓄電池か、天然ガスのシングル・サイクル発電、ないしは水力発電になるが、そのコストも上乗せしなければ、火力発電や原子力発電と本当のコスト比較にはならない。これを含めると太陽光発電や風力発電はさらに数倍もコストが高くなり、全く経済的な競争力はなくなり、社会的コストは極めて高くなる。不安定で効率の悪い再生可能エネルギーの実質コストは、元来非常に高いのである。言い換えれば、原理的に効率が非常に悪い。例えばリチウムイオン電池の蓄電コストは発電コストの平均の10倍以上にもなる。欧州では、既に再生可能エネルギーの固定価格買取制度で、財政負担や電気代上昇が限界的になっている。また、欧州の国々は、欧州、EU全体の大電線網に寄りかかり、不安定な風力発電や太陽光発電を大幅導入して、これまでバックアップコストをその他大勢国の電力需給の変動吸収能力に言わばタダ乗りしてきた。しかし、日本は島国であり、他国の変動吸収能力にタダ乗りすることは物理的にできない。さらに、一般に、風況がよく、大規模風力発電設備が建設できる地域・海域は、人口密集地や産業集積が大きくある地域ではない。それは原理的に裏腹の関係にある。その間をつなぐ大規模送電網を建設しなければならない。
たしかに、CO2排出という点では、それらの機器の製造過程はともかく、発電時には全く排出しない、環境負荷の最優等生に見える。しかし、環境問題はCO2排出=人為的な地球温暖化リスクの問題だけではない。エネルギー利用による、直接的な大規模生態系破壊は、それと同等かそれ以上の大問題である。化石燃料や原発の一定程度の補完的役割を超えた再生可能エネルギーの大規模導入は、コストの大幅上昇の問題を除いても、原理的に非常に大きな環境負荷の問題がある。薪炭などの伝統的なバイオエネルギーについては既に歴史に見たとおりだが、新世代の再生可能エネルギーも本質的には同じである。
大規模利用した場合に、直接的な生態系破壊が問題になる一番分かり易い例が、大規模太陽光発電、すなわちメガソーラー発電である。太陽光パネルを屋根や屋上、工場跡地などに小規模分散して設置するのではなく、大発電量を得ようとして農地・休耕田や原野、森林など、植生のある土地で一か所に大規模に地表に敷き詰めると、その下は太陽光が当たらなくなり、必然的に植物は生育できない。もちろん、それに依存している動物相も壊滅的な打撃を受ける。また、その地域全体の保水力も大幅に低下するので、台風などで大雨が降れば、たちまち洪水になる。また、夏場の快晴時には、大きな発電量は得ることができるが、パネルの色が通常黒色なので、パネルの温度は最高摂氏70度以上にもなり、その地域全体で強い上昇気流が発生し、局地的気象さえ変えてしまうリスクも指摘されている。もちろん、その場所で局地的にヒートアイランド現象を間違いなく引き起こし、設置場所付近の温度は大きく上昇する。耕作放棄地や休耕田をメガソーラー発電所にするのは、大規模な環境破壊である点では森林伐採と全く変わりがない。
風力発電や太陽光発電は天候次第で、分秒単位で発電量が目まぐるしく変動するので、大規模に利用するためには、あるいは独立してそれに全面的に依存する場合には、必ず発電供給量を安定化するための蓄電池、シングル・サイクルのガスタービン発電機などのバックアップ電源が必要となる。だが、何れのバックアップ電源の場合も、大規模に利用した場合には、別途大きな環境負荷も新たに生じる。例えばリチウムイオン電池は、その製造のためにリチウム採掘現場の精製・製造過程で大量の水を必要とし大量のCO2を輩出する。また、発電所をバックアップ電源とするのは、何のために無理してコストの著しく高い発電所に替えて、敢えて効率の悪い再生可能エネルギーを入れるのか意味不明になる。しかも、バックアップとしての使用は、天候によってつけたり、消したりを繰り返すので、常時利用にくらべて2倍のCO2を排出する。これなら初めから再生可能エネルギーを使用しないで火力発電の常時使用の方がCO2排出量が少ないということになりかねない。なにしろ、現代人は、再生可能エネルギーに全面的に依存していた産業革命前に比べて、凄まじいまでに厖大なエネルギーを使用して生活し、社会を維持しているのである。
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