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2014年8月27日 (水)

黒田基樹「戦国大名─政策・統治・戦争」(1)

序章 戦国大名の概念

「戦国大名」という用語は、当時における史料用語ではなく、後世における歴史用語、すなわち学術用語である。したがってその定義については諸説あるのが現実である。そうはいっても想定されている対象は、相模の北条氏、甲斐の武田氏、駿河の今川氏、越後の上杉氏、安芸の毛利氏、豊後の大友氏、薩摩の島津氏など、おおまかな一致を見ている。これらに共通するのは、戦国時代に存在した一定の地域を支配する「家」権力、という性格になる。したがってこうした存在をさしあたって「戦国大名」と括ることは有効であろう。それらに共通する性格、さらには前後の政治権力との相違を追究していくことで、その定義を確立していけばよいのである。またそのような政治権力については、領域権力と呼んでいる。支配が及ぶ地域が面的に展開していたからである。それは当時、「国」と称された。そのため戦国大名が支配する領域を領国と呼んでいる。領国は、線引きできるような、いわゆる国境で囲われた面として存在していた。その領国では、戦国大名が最高支配者として存在した。領国は、他者の支配権が一切及ばない、排他的・一円的なものであった。そこなは天皇や室町幕府将軍等の支配も及ばなかった。こうしたことは、戦国時代が、室町幕府が存在していたとしても、室町時代とは本質的に異なる、時代の特徴を示している。さらに政治権力が領域的に存在したとしても、戦国時代以前の列島社会にはなかったことである。排他的・一円的な支配の転回と、領域性は一体のものであった。以上をまとめると、戦国大名とは、領国を支配する「家」権力ということになる。念のため言っておくと、したがって「戦国大名」はある特定の個人を指すような概念ではない。一般的には、戦国大名家の当主をそのまま「戦国大名」と考えがちになるが、理屈からいうと決してそうではない。大名家当主は、「家」権力の統括者という立場であり、権力体としての「戦国大名」は、大名家当主を頂点に、その家族、家臣などの構成員を含めた組織であり、いわば経営体と捉えるのが適当である。

考えられる戦国大名の特質について、まずは領国を支配するということについて、権原についてである。戦国大名の領国は、当時においては「国家」と称された。領国とそれを主導する大名家が一体のものと認識され、それによって生じた用語と言える。したがって領国は、実質的にも名目的にも、一個の自立した国家として存在していたと捉えられる。

守護は、あくまでも将軍から任命される地方行政・軍政官にすぎなかった。守護の管轄地域は、決して守護の所領であったわけではなく、そこには将軍の直属す多数の人々の所領があった。その所領について、守護不入の特権を与えられることが見られていた。これはともに、将軍に従っているから成立し得た関係であった。戦国大名も、室町幕府や朝廷との間に、大名によって程度の差はあるが、幕府から守護職に任命されたり、幕府・朝廷から官位を与えられるなど、様々な政治関係を維持していた。特に畿内や最後の大名に顕著にうかがうことができる。しかし、幕府・朝廷と頻繁な関係を持っていたのは、畿内・西国の大名に限られている。戦国大名の存立は、あくまで自力によるものであり、たとえ室的幕府や朝廷と関係があったとしても、それは本質的なものではなかったことが分かる。

戦国大名の権力構造を端的に表現すれば、支配基盤としての「村」と、権力基盤としての「家中」の存在に特質付けられていたということができる。そうするとそり構造とは、領国支配を主導し、「家中」に対し主人として存在する大名家当主とそれを支える執行部、それらの指導を受け奉公する「家中」、両者からの支配を受ける「村」の、三者関係として認識することができる。したがって戦国大名は、「家中」と「村」が存続してはじめて存立することができる構造にあった。戦国大名という権力体が存立するためには、軍事・行政の実務を行う家来と、納税する村の両方が、それらの負担が可能な程度に存続していることが前提になっていたのである。したがってここらか、大名が支配下の村に対して、一方的、容赦のない収奪を行うなどということは、あり得ないことが分かる。そのようなことをして村々を潰すことになったなら。自らの存立そのものを危機に陥れることになったからである。

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