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2014年8月22日 (金)

石井彰「木材・石炭・シェールガス」(6)

第6章 エコという迷宮

電気自動車は走行時に全くCO2を排出しないので、エコであると言われ、自治体などから各種の補助金が出されている。しかし、それに充電する電気は、発電段階で大量にCO2を排出している。とくに原子力発電所がほとんど停止した後では、発電の9割が火力発電となったので、さらにCO2発生量は大きく増えた。通常のガソリン車と比べて、電気自動車が排出する間接的なCO2は発電時に排出されるものと、リチウムイオン電池を製造する過程で排出するもの2つである。リチウムイオン電池を1キログラム製造するのに、50キログラム弱のCO2を排出しなければならない。それらを全てカウントすると、市販の電気自動車とほぼ同じ車格の低燃費ガソリン車と比べて、原発のほとんどが稼働していた頃でも電気自動車はCO2発生量が少ないとは必ずしも言えないのだ。ある推計では、リチウムイオン電池の充電回数寿命を勘案した電池交換を行うと、走行距離で10万キロメートルまで、すなわちほぼ車体寿命に至るまで、日本における電気自動車は、同車格のガソリン車をCO2排出量において下回ることができない。しかも、原子力発電所がない前提では、さらに電気自動車のCO2排出量は大幅増加する。もちろん、ガソリン車よりも、電気自動車の方が全体エネルギー・ロスがずっと少ないとの反論もあるかもしれないが、必要エネルギー量の桁が全く違うのである。仮に、ライフ・サイクルでの電気自動車のエネルギー効率が、同車格のガソリン車やハイブリッド車よりも2、3倍良いと仮定しても、逆立ちしても無理である。

もう一つ、電気自動車の燃費(充電コスト)は、ガソリン車より大幅に安いので、車体価格が大幅に高くても、利用者にとっては結局経済的だというのも、原理的には成り立たない。消費者の車体購入価格に対する大幅な公的補助金を別としても、電気自動車の燃費の安さには、原発フル稼働による夜間電力料金の大幅値引きと、消費者価格の3割が日本国による税金であるガソリンと異なって、電気料金にはほとんど税金が課されていないという2つのカラクリがある。この2つのからくりは近い将来にはほとんど消えることが確実だ。安全性への配慮から1日24時間定常運転せざるを得ない原発は、電気需要が大幅に減る夜間でもフル発電を続けざるを得ないので、夜間は原発の電気が余ってしまう。そこで考えられ、導入されてきたのが、夜間の電力需要を人為的に増加させるための夜間電力料金の大幅値引きだ。今後、原発による発電量が大幅に低下していくので、この割引制度は早晩雲散霧消ことが必至だ。一方、ガソリンと電気に対する課税の極端な不公平は、万が一将来に、電気自動車が石油駆動自動車の大半を駆逐したとすれば、現在巨額の道路関連予算に充当されているガソリン税収が激減するので、道路関連予算が維持不能になる。そうなれば、巨額の道路予算の確保のために、高率のガソリン課税の代わりに、高率の電気課税が必須となるだろう。

いずれにしても、電気自動車が自動車の主流になるには、原子力発電が震災前の数倍以上の規模になることが絶対必要条件なのだ。

 

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