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2014年9月29日 (月)

ヴァロットン展─冷たい炎の画家(3)

2.平坦な空間表現

Vallootnball前回の展示で、ヴァロットンの作品の印象が目の前にあるものが本当に存在しているのかという真実性にたいして違和感を抱いてしまったがゆえに、真実をキャンバスに描くというこということに対して懐疑的になっていく姿が作品から見えてくる、ということを述べました。それは、リアルにみえる写実的な表現を少しずつずらしていくことで、作品を見るものにちょっとした違和感をもたせることを意図的にやっていたように見えるということでした。これは、綱渡りのような危うい均衡の上を行くようなものです。開き直って、目の前にあるものは真実ではないと言い切ることはできないのです。現実の生活は、そういう真実に対する信頼の上に成り立っているのですから。もし真実でないということになってしまえば、何ものかを描くという絵画というものに意味はなくなってしまいます。

しかし、この真実に対する懐疑を抱いてしまった人は自分ひとりだけではないはずです。そういう人々は、たとえそのようなことを感じてはいても、それをおくびにも出さず、まるで何事もなかったかのように毎日を過ごしているはずです。つまり、そういう人は表面上を取り繕って、もっといえば、嘘をついて生きていることになるわけです。要は、それが嘘であるとしても、嘘をつかれたひとが嘘と思わなければよいわけです。そうであれば、絵画であっても、真実かどうか分からないものを、そのことを表わそうなどという手間のかかることをするのではなく、見る人にとってそれらしく見える嘘をつけばいいわけです。そのために、ヴァロットンは作品の画面のらしさを追求して行ったのが、ここで展示されている作品ということができると思います。

「ボール」という、この展覧会のチラシやポスターでメインに使われた作品です。この作品については、様々なところで解説がなされているので、いまさらと思いますが、簡単に述べてきます。一見、ボールを無邪気に追いかける少女を詩情豊かに描いた作品ですが、どこか落ち着きません。全体をよく見通してみると、緑色の大きな影のあちらとこちらとでは明らかに視点が違っています。手前の少女は上から見下ろしているのに、奥の二人の女性は横から見ています。気づかなければ、通り過ぎてしまうものが、いったん気付いてしまうと無視できなくなります。エドガー・ポーの「群集の人」のような印象です。そんな不条理な不気味さをいうのは不似合いですが、ここでヴァロットンがやっているのは、だまし絵のようなものです。それを可能にするためには、前回のように写実に描き込んだ様式では不可能で、画面を単純化させて、作品を見る人がシンプルに見ることができることが必要です。そしても画面に操作を加えることになるのですから、単純化、見もっと言えば図案化したほうが操作を加えやすくなります。図案化されれば、見るものはそれなりに想像力を働かせて、それを見る人なりに、というよりはパターンに従って現実に当て嵌めて見るようになります。だから、この展示の章立てのタイトルである平坦な空間表現というは、そのために格好の手段となってくるわけです。

Vallootnvaulしたがって、ヴァロットンに対しては印象派とかいうゆう表現技法とか様式によって結果として出来上がった作品の特徴が出来上がったというような分類にはそぐわないタイプなのではないかと、私は思います。必ずしも、理念先行で主題が重要だというタイプの画家ではありませんが、技法とか様式というものはあくまでも絵を描く手段であることをわきまえているひとであると思います。そこにヴァロットンという画家のユニークさがあると思います。

「ワルツ」という作品では、今で言うイラストに近い仕上がりものになっているのではないでしょうか。ダンスする人々の動きを瞬間を捉えて筋肉の動き等を活写するのではなく、足の描写などは流れるように不断に動いているのだからと描くことをやめてしまっています。これなど、まんがの表現技法につかい発想です。まるで人々は空間に浮遊しているようです。でも、これは実際に踊っている人々の感じている状態というのは、このようなものではないか。それを周囲で傍観している人と、ダンスの渦中にいる人では感じている感じ方が異なってくるので、その違いを表わそうとすると、傍観者が見たように描くいわゆる写実的表現とは違ったものになってきます。表現の仕方としては、浮世絵の風景の雨の描き方に似通っている感じもしますが。これは、それでらしく見えます。

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