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2014年10月 2日 (木)

ヴァロットン展─冷たい炎の画家(6)

6.マティエールの豊かさ

Vallootnafrica展示フロアが変わって、この美術館は古い建物を無理に美術館に改造したものであるために、展示室が小さくて空間が不十分であるために窮屈な場合が多いのと、展示室の間を歩かされ、その間セキュリティのためか何度も自動ドアを開けるという甚だ不興なところがあるのですが、このときは、それが却って歩かされている間に、場面が劇的に変わるという体験をさせてもらいました。禍転じて…ということにしておきましょう。展示室の自動ドアを通って出くわしたのが「アフリカの女性」という作品です。まずは、描かれた女性の圧倒的な存在感と見るものに迫ってくるような生き生きとした生命感に圧倒されました。これまで見てきたシニカルな画風とは共通点が見出せないほどでした。同じ画家の描いたものなのだろうか、と疑問に思ったほどです。

でも、最初に見た「20歳の自画像」が、この作品に通じるものではなかったか、と思い出されてくるのです。この自画像から実に30年以上経って、ヴァロットンはヌード画像で、このような生々しい迫力ある作品を制作したわけです。この作品をみて、ヴァロットンという人が深い懐疑にとらわれていながら、絵筆を棄てることなく、執拗に作品を描いていた理由が分かるような気がしました。ヴァロットンが、このような作品を描きたかったというのではありません。それはおそらく、真実を真摯に求めているがゆえに、ちょっとした疑いも放置しておくことができなかったということではないでしょうか。その疑いを追及していくうちに、泥濘にはまるように懐疑にとらわれてしまった。彼の描く作品を見ていても、仕上げに手を抜くということがなく、生真面目な性格であることが分かりますが、それが禍いして中途半端なところで追及をうやむやにして誤魔化してしまうということができなかったのかもしれません。決して、緻密に描きこんだり、滑らかな仕上げを施しているわけではありませんが、この女性の黒い肌に輝き、頭に巻いた布と腰に巻いた布の質感違い、その間の肌に柔らかくて滑らかな感じ、肉体のどっしりとしたような豊かな量感。そして、何よりもその表情の描き方にヴァロットンの思い入れが感じられるほどです。

Vallootnetude小品ですが「臀部の習作」という作品は、タイトルの通り習作なのでしょう。臀部のかたち、前に見たヌード作品のような形態が整えられているものでなく、右側に体重がかけられて歪んだかたちになっていますが、それにともなって多少筋肉がタブつくように垂れ下がる動きが荒い筆致のなかで精緻に表現されています。まるで、画家の目の前に立っているモデルの尻を愚直に描いただけとも見えなくはないのに、今まで見てきたヴァロットンの作品には見られない存在感と迫力の主張がありました。

「赤い服を着たルーマニア女性」という作品。おそらく「アフリカの女性」はモデルを前にして即興的に手早く描かれたのであろうと想像できるのに対して、こちらは後で仕上げの手を入れているのだろうと想像できます。仕上げの処理が為されていることにより、表面が磨かれたように滑らかになり、肌の感触のゴツゴツした感じが薄くなってしまっていますが、それを補って余りあるのが、描かれた女性のストレートな表情です。これまで見てきたヴァロットンの人物画の仮面のような表情に比べて、なんとストレート、というよりもあからさまです。

Vallootnromヴァロットンという人は、おそらく生真面目であるとともに、幾分シャイな性格で屈折したところもあるような、決して感情を面に表わすような人ではなかったのではないか、これらの作品を見ていて、そう思いました。それは、ヴァロットンが活躍した時代は、印象派に始まる変革期のような時代であらたな運動が次々と起こり、一方で写真の発明によって、従来の手法の絵画を若い画家が素直に描くというのは難しかったかもしれません。画家といえども生活をかけた商売です。絵が売れることがまず必要です。そのためには時代の流行や人々の嗜好に沿ったことをしなければなりません。それと、ヴァロットンの持ってしまったシニカルな性格です。それらが相俟って、これまで見てきたようなスタイルを作り上げたのでしょう。しかし、ヴァロットンは、それだけでなく、そのスタイルの陰で違った方向性のスタイルも彼自身の作り出したものとして持っていたということでしょう。ヴァロットンという画家の多面性、しかもそれらの面が別々の方向を向いているのではいなく、相互に関連しあいながら、補い合うように彼の画業の展開を推し進めてきたといえるのかもしれません。

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