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2014年11月19日 (水)

ジャズを聴く(19)~ケニー・ドーハム「クワイエット・ケニー」

ジャズの名盤案内などという雑誌や案内書を繙けば、「静かなるケニー」のジャケットの物憂い写真と「渋い」とか「リリカル」とかいうイメージが先行する。マイナー好みの日本人ジャズマニアの間では人気がある人ということだ。実際、ケニー・ドーハムが活躍した時期は、クリフォード・ブラウンとマイルス・デイビスという二人のトランペット奏者の強い影響のもとにあったといい、その影響から離れて独自の位置にいた数少ないトランペット奏者がアート・ファーマーやケニー・ドーハム、ブッカー・リトルといった人々だったという。といっても、自分の世界に閉じこもってひたすら渋かったわけではない。スタートはジャズメッセンジャーズでビ・バップの最前線にいたわけで、後にビ・バップが行き詰って来るとジョー・ヘンダーソンと組んで新主流派と称される作品を遺している。しかし、強烈な個性で、存在が派手だったわけではなかった、というのが「渋い」イメージを作るのに貢献した、ということではないか。

ドーハムのトランペットはクリフォード・ブラウンのような伸びやかで輝かしいトーンではなく、派手さはないが、角の丸い滑らかで美しい音色であった。スーッと伸びるというよりは、悪く言えばふらつく。だから横のつながりであるメロディはよく流れる。だから、速いパッセージを見事に吹きこなすというより、バラードに真価を発揮する。テクニック的にもクリフォード・ブラウンやリー・モーガンのようには行かない。もう一つの特徴として、リップ・コントロールが巧みで、音色やニュアンスを自在に操ることで、深みと陰影をその音色に加えて、独特のトーンを持っていた。ドーハムのプレイは中音域を中心に動きの少ない、比較的音を少なくして装飾を抑えて。メロディを大事にすることで、分かり易い印象を聴き手に与えることができた。そこで、ちょっとしたリズムのズレが音色の陰影を引き立たせ、それらが一体となって「リリカル」という印象を与えるものとなっている。

一方、ドーハムは曲作りの面でも優れた才能を示し、オリジナル曲のテンポは変化に富み、譜割やコード進行などでユニークなものとなっているという。

 

Quiet Kenny   1965年3月録音

Jazdorh_quietLotus Blossom

My Ideal

Blue Friday

Alone Together

Blue Spring Shuffle

I Had The Craziest Dream

Old Folks

Mack The Knife

 

Art Taylor (Arthur) (ds)

Kenny Dorham(tp)

Paul Chambers (b)

Tommy Flanagan(p)

 

ジャズの名盤案内などでは人気の名盤になっている。ケニー・ドーハムの「渋い」とか「リリカル」という衆目のイメージを決定づけたといえるアルバム。ドーハムのワン・ホーンの編成。とはいっても、最初の有名な「Lotus Blossom」はスロー・バラードではなく、このアルバムはバラード集ではない。シンバルにベース、ピアノが加わったリズムが先行し、線の細い硬質な音で入ってくるトランペットはアップテンポで、“静か?”と戸惑うこともあろう。ドラム・ソロも入る。そのドラムは抑えているのだけれど、音的には結構前に出てくる。それがトランペットと時に絡むようなのだが、掛け合いはあるものの、煽るわけではなく、ドラム・ソロも派手なことはしない。決して、激しくはならないところが、抑制されているからこその、感情が内に秘められたような芯の強さを感じさせる。次の「My Ideal」はテンポをぐっと落としたバラードになる。ドーハムの吹くトランペットは一転して柔らかく、茫洋としたものとなり、まるで夢の中で鳴っているような音で、優しく包み込んでくれるようだ。1曲目からの、この転換で続いて聞いていると否応なく引きこまれてしまう。4曲目の「Alone Together」では、ドーハムのトランペットの線が細くなり、繊細で憂いを帯びたトーンになってしまう。あまり流暢と言えないプレイで、リズムに対して後乗りで、悪く言えばもたついた感じが、ここではかえってブルーな雰囲気を生み、慈しむようにトランペットを吹いているような印象を与え、温かい音色と相俟って、マイナー好みにはこたえられないものになっているのではないか。そして、バラード・ナンバーの間にはスパイスのようなハードめのナンバーが配されていて、全体のバランスをとっていて、対称的にバラードを引き立たせている。5曲目の「Blue Spring Shuffle」でのベースとドラムスとのソロの掛け合いだけを取り出してもカッコいいものだ。しかし、こういうナンバーでも全体として抑制されたトーンは統一されていて派手になることはない。6曲目「I Had The Craziest Dream」になって明るい曲になるが、落ち着いた音色にトランペットが変わり、このアルバムでは、ドーハムのトランペットの音色の変化が、まるで録音を操作しているか、同じ日に続けてプレイしているとは思えないほど。最期は、軽快な「Mack The Knife」。これは、ソニー・ロリンズが有名な『Saxophone Colossus』のなかで「Moritat」という曲名に変えてプレイしている曲。軽快さではロリンズの方が勝っているし、アドリブの展開でも、あっちの方が明らかに上だけれど、このアルバムの締めとしてみれば、軽快で落ち着いた感じという点で、ピッタリとハマる。聴き比べると両者の個性の違いがよく分る。全体として、「静か」というタイトルに普通に期待すると、ちょっと違うのでは、と思うことがあると思うけれど、聴いているうちに分ってくる、というアルバムだと思う。

 

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