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2015年2月 4日 (水)

ルディー和子「合理的なのに愚かな戦略」(5)

消費者がブランドを選択するとき、そこには論理はない。力を発揮するのは好き嫌いとかイエスやノーの感情だけ。しかも、無意識の感情だ。意識的選択が無意識のうちに準備されるということを最初に証明したのは、神経心理学者ベンジャミン・リベットだ。1980年代のことで、被験者が手首をふろうという意図を待つ前に脳はすでに指示を出していたことを証明した。そして、被験者の意思決定は最初は無意識のレベルで成され、それが後になって意識のレベルに伝達される。被験者が自分の意志の指令によって筋肉が動いたと信じるのは、すでに起こった出来事をあとから説明付けようとするからだとした。つまり、被験者が意思決定をしていると意識するのはたんに生化学てき後知恵であり、自由意思が存在するのは幻想ということになる。

企業が、アンケート調査などの消費者調査を通して消費者の購買動機や購買プロセスを理解しようとしても、それは消費者が意識している領域を明らかにするだけ。消費者の無意識の領域における動機やプロセスを理解できるわけではない。消費者の無意識の領域における動機やプロセスを理解できるわけではない。そのうえ、人間は、自分の実際の行動と自分が(意識している)信念とが調和しないことに耐えられないので、その不調和を隠せるような説明を無意識のうちに考え出してしまう。だから、その説明を聞いて納得できたとしても、それは、消費者の本当の選択動機を知ったことにはならない。

無意識の世界での選択(意思決定)のアルゴリズム、つまり一定のルールは二つある。最初に、喉が渇いたと感じたらカルピスと思い出してもらう。こういったプロセスが簡単に出来るためには、目標と商品名とのつながりが長期記憶として保存されていなければならない。そのために必要なのは繰り返しだ。渇きを癒すという目標を達成するにはカルピス…という想起をなんども発生すれば、そういった脳細胞の経路が構築される。同じブランドのメッセージ繰り返されることで、長期記憶が生み出されるのだ。ブランドに関する長期記憶をつくるためには、定期的な広告宣伝や広報活動が必要だ。長寿ブランドと呼ばれるような商品は、発売20周年を記念してていった名目でイベントをしたり派生商品を限定販売したりして話題づくりし広告宣伝する。あるいは、大幅リニューアルとかいって広告を出す。いったん出来上がった想起のための神経細胞のルートは、暫く使われないと消えていってしまう。忘れられてしまうということだ。だから、ブランドを長生きさせるためには、広告や広報を通じて、固定化されたルートが消滅しないようにしなくてはいけない。

もう一つのルールは感情に関係する。人間の脳の中では、論理的思考をするネットワークと、感情に関係するネットワークが協力し合わなければ、意思決定して選択するという行動を起こせない。感情の中で威力をもっているのは、無意識の領域で生まれる感情で、好きとか嫌いとかイエスとかノーといったような、ポジティブあるいはネガティブといった無単純明快な感情だ。どのブランドが選択されるかどうかの基準も、この無意識の感情によって決められる。米国で2007年に行われた実験では、自分が好きな商品が登場すると、脳の報酬系が活性することが明らかになっている。好きとか嫌いとかいったポジティブな感情が生まれているのだ。報酬系が活性化する商品なら選ばれるということだ。そこで、どうやって報酬系を活性化することが出来るか?だ。脳には明確な目標がある。この目標を達成させるのに必要な、あるいは関連性が高いモノには報酬系が活性化する。

世界的に著名なジュエリーブランド「フォーエバーマーク」は、東日本大震災直後の4月にダイヤモンド入りのコードブレスレットという当時の社会の雰囲気には似つかわしくないタイプの高額の商品を発売した。「絆」をテーマにしたデザインと、収益の一部を被災地の子供を援助するNPOに寄付するということで人気を呼び、売上を伸ばした。自粛とまではいかなくとも不要不急の商品は買わないであろうと言われた社会状況において、高額のジュエリーを売ることが出来た理由は、

 ブレスレットへの欲望…ジュエリーそのものに対して報酬系が活性化する。

 安心を得たいという欲望。このブレスレットの結びはヘラクレス・ノットといって「絆」の意味合いがあって、家族や友人とのつながりを感じ安心感を得られる。その意味で、報酬系が活性化する。

 罪悪感を減少させる。こんなときにジュエリーを買うなんて被災地の人に悪いという罪悪感を抱きやすい社会状況にあった。しかし、購入金額の一部をNPO法人に寄付するということで罪悪感を減少させることが出来、自分自身の購買行為を正当化できることでネガティブな感情を抑制することが出来る。

この企業がしていることは、自分たちが想定するターゲット客の状況に身を置き、彼女がどう考えているか、どう感じているかを想像する。罪悪感など本人は感じていることを意識してはいないかもしれない。不安にしても、自分がどのくらい不安を感じているか本人は意識していないかもしれない。そういった無意識の領域まで把握するには、論理的に推測するのではなくて、他人の感情を共有する、つまり共感しなくてはいけない。共感することによって初めて、ターゲットの行動に影響を与えるにはどう対処したらよいか直感的に知ることが出来る。

ただし、他人の思いを想像し共感する力は、革新的な新製品を創造する力はない。あくまで、このジュエリーのように、ターゲット客の置かれた状況を想像し、適切な販売促進活動や広告を企画する。あるいは既存の製品を改善したり、ちょっと手を加えて付加価値を向上するようなときに威力を発揮する。

アップルのiPhoneとかソニーのウォークマンのような革新的新製品は、想像力や共感力によって生まれたわけではない。もちろん、想像力や共感する力で消費者の意識的あるいは無意識的考えや感情を推測することは、製品開発の役に立つに決まっている。が、こういった世界的にヒットするような画期的製品の場合は、立場が全く逆になる。消費者がこの製品に共感するのだ。製品の創造者が消費者に共感するのではなく、消費者が創造者の創造物に共感し、場合によって創造者自身に共感するのだ。このような革新的ヒット商品はターゲットとする客の国籍、民族を問わず、共感をひきつけることができる。そして、その秘密のカギは、一つしかない。創造する人間が自分が創造しているモノに夢中になることだ。消費者の心理を把握しようなんてところから革新的ブランドは創造できない。自分がつくるものに消費者が共感してくれる。そのためには、自分自身がつくる商品の一番のファンであることが肝心なことだ。革新は、心底、好きな仕事から生まれる。

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