ジャズを聴く(30)~ジョー・ヘンダーソン「モード・フォー・ジョー」
Mode For Joe 1966年1月27日録音
A Shede Of Jade
Mode For Joe
Black
Carribbean Fire Dance
Granted
Free Wheeli
Joe Henderson(ts)
Lee Morgan(tp)
Curtis Fuller(tb)
Bobby Hitcherson(vib)
Ron Carter(b)
Joe Chambers(ds)
Cedar Walton(p)
ジョー・ヘンダーソンがブルー・ノートで最後に録音したアルバム。この後、ヘンダーソンはマイルストーンへ移籍し、実験的な作品を次々と制作していく。ここでは、その枠から今にもはみ出さんばかりのところもあるがハード・バップというスタイルを最終的には守っている。話は飛躍してしまうが、ヘンダーソンのプレイから受ける印象は藤子不二雄の描くまんがの世界と似ている。たとえば「ドラえもん」では主人公のノビタくんはSFのとんでもない道具が出てきたり、異次元に連れていったりして驚かされることが多いけれど、最後は必ず自宅の部屋に戻って、めでたしめでたしで終わる。そこには、最後にどうなるのか分らなくなるようなスリルや緊張感はなく、安心して見ていられる。逆に、それゆえに途中での冒険を堪能できることになっている。ヘンダーソンのプレイについても、様々な実験的な試みをしているけれど、ジャズという枠に戻ってくる。そういう安心感がある。とくに、この作品ではそういう傾向が顕著で、メンバー構成も大所帯で多彩な人々が参加しているが、それぞれの個性を生かしながら、結果的にはよくまとまった、逆に言えば、もっと何かあってもいいのでは、という期待をはぐらかす物足りなさの残るアルバムとなっている。とはいえ、このアルバムは決して駄作などではなく、聴きごたえのある質の高いプレイが繰り広げられている。その辺りが、彼自身も自覚していて、より自由な新興のマイルストーンというレコード会社に移籍することになったのではないか。
最初の曲「A Shede Of Jade」の冒頭はトランペット、トロンボーンそしてテナー・サックスの3管にヴァイブが絡み印象的なアレンジでテーマが提示される。その節は典型的なバップのメロディなのだけれどテーマ自体がかなり長くなっていて、3管の響きを和声的な実験をしているような音の重ね方で聞こえてきて、そこに冷たい音色のヴァイブがオブリガートするように絡んでくる。ときに、フレーズの頭を外して絡むヴァイブの動き。この響きは、複雑で印象的だ。この響きで一気に惹き込まれてしまう。このあとヘンダーソンが、うねうねとしたトグロを巻くようなソロをたっぷりと聴かせてくれる。この後トランペットのソロが続く。ここでのトランペットはスタッカートっぽい飛び跳ねるようなフレーズで、うねうねと続いたヘンダーソンとは対照的で奔放さが際立つよう。そしてピアノがメロディアスに少しだけ入り、テーマに戻る。熱しすぎることなく、低温で沸騰するかのような演奏。2曲目の「Mode For Joe」で、ゆっくりとしたテンポの曲。ただし推進力は変わらず、トランペットとトロンボーンとヴァイブが奏でるハーモニーの呼びかけに対して、ヘンダーソンがちょっぴり官能的に応答するというテーマ。この曲といい、最初の曲といいテーマに工夫が凝らされていて印象的なサウンドで聞かせる。続くヘンダーソンのうねうねソロがテーマのダイアローグ風を引きずって語りかけるような風情でメロディックに聞こえてくるのが不思議で、ヴァイブ、トロンボーンのソロがメロディック、リズムの緩急がアクセントになって、全体としてのアンサンブルの響きが魅力的になっている。これらは、これだけ多彩なメンバーがまとまっている証拠で、効果的であるのは確かである反面、広がりという方向性はない。どちらかというと方向性は内向きの方向だから、豪快というよりは繊細。とはいってもダイナミックな躍動感があって、非常に高い密度の演奏で、何度聴いても聴きごたえのする品質の高いアルバムと言える
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