ジャズを聴く(34)~アート・ファーマー「Art」
Art 1958年3月録音
So Beats My Heart For You
Goodbye, Old Girl
Who Cares?
Out Of The Past
Younger Than Spring
The Best Thing For You Is Me
I'm A Fool To Want You
That Old Devil Moon
Art Farmer (tp, fh)
Tommy Flanagan (p)
Tommy Williams (b)
Albert Heath (ds)
アート・ファーマーは1950年代にはサイド・メンとして様々なセッションに参加して、言わば売れっ子だった。しかし、50年代の終わりごろから自身のリーダー・アルバムをレコーディングし始める。その際に、彼のトランペットによるワン・ホーンの録音が、最も彼の特徴をよく表している。アルバムを通してトランペット一本で聴く人を飽きさせないで惹き付けるというのはたいへんなことだ。実際、トランペットのワン・ホーンでアルバムを録音している奏者は少ない。しかも、このアルバムのようにスローやミディアム・テンポの曲が多いと、アップ・テンポの乗りで押し通すこともできず、トランペットの語り口に大きな負荷がかかってくる。このアルバムはさりげなく作られているように見えるけれど、実はたいへんなものなのだ、と私は思う。
アルバム全体はミディアムあるいはスロー・テンポのスタンダード・ナンバーが中心になっている。例えば、2曲目の「Goodbye, Old Girl」はスロー・バラードで、ファーマーが長いフレージングで訥々とトランペットを吹いていく。5曲目の「Younger Than Spring」では冒頭のピアノのイントロがビル・エヴァンスの有名なマイ・フールッシュ・ハートを想わせる繊細な始まり方をして驚かされるとファーマーのトランペットがユーモラスにバラードのフレーズを吹き始めるといった楽しみもある。1曲目の「So Beats My Heart For You」は弾むような軽快なベースのイントロに乗って、少し気だるさのある軽快なトランペットのテーマから、訥々とした中音域での上下動の少ないアドリブから、同じようなトーンのピアノに引き継ぐと、曲全体を弾ませていたベースのソロと順々にきて、導入としてはアルバムにすんなりと入れるようになって、次の「Goodbye, Old Girl」で、先ほども述べたように、訥々としたトランペットのメロディが余韻をもって、響いてくる。このとき、ファーマーのフレーズとフレーズがわずかにズレて、フレーズとフレーズとが途切れていること間があいていることが、ハッキリと分かる。しかし、トランペットの音が丸く滑らかなため、ブツブツと断絶した印象までは至らず、フレーズの間を認識させることで、その間の認識から余韻の生まれてくる隙間を作っている。メロディーが滑らかに流れないことで、ムード・ミュージックに堕してしまわない歯止めにもなっている。また、つかず離れずのピアノが繊細で、終わり近くのトランペットが高音に飛んでの軽いブローがちょっとしたアクセントになって終わる。だから、ファーマーのバラードは決してムードに浸かって酔い痴れるといつたタイプの演奏ではない。あくまでもジャズの演奏として聴き手に向き合うものなのだ。3曲目の「Who Cares?」でテンポが戻って、アドリブは落ち着いた感じで、これまでの雰囲気を壊さない程度のところで展開させている。全体として、丁寧に演奏している感が強い。4曲目「Out Of The Past」、5曲目「Younger Than Spring」も雰囲気を引き継いで、6曲目の「The Best Thing For You Is Me」でテンポが最も上がり、アルバム全体でも相対的にハードなプレイで、小さいながらも一番の盛り上がりとなる。次の「I'm A Fool To Want You」が一転してスローナンバーでマイナーなテーマをまた、訥々と吹く。この曲などは、もっと切々と訴えるような吹き方をしてもいいのに、そこは抑えていて、このアルバム全体が行き過ぎを抑えて、統一的な雰囲気の中で、トータルに考えてプレイされている。
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