無料ブログはココログ

« 平等とみんないっしょ(2) | トップページ | ジャズを聴く(33)~アート・ファーマー「Modern Art」 »

2015年8月25日 (火)

ジャズを聴く(32)~アート・ファーマー「Sing Me Softly of The Blues」

Jazfarmerトランペットの音色は声でいえばソプラノにあたる高音域で、音色も派手で輝かしい。ブラス・バンドでは一番目立つパートになっているのが普通で、ジャズのトランペット奏者もフロントにでてソロをとる花形のタイプが多い。しかし、アート・ファーマーというトランペット奏者は、あまり派手な印象がない。彼の特徴といっても、スタイルや奏法といったところで目立つところが少ない。それが、サイド・マンとして様々なレコーディングに起用されている所以だろうか。それだけに、彼のプレイは柔軟で、共演しているプレイヤーと合わせるのが巧みで、自分のソロも、周囲から浮き上がるようなことはせずに、アンサンブルのなかで生きすのが上手いタイプだ。そのため、共演者とのインタープレイというプレイの上で会話のようなやり取りをして、いくこともできる。彼の特徴は、そういう自己抑制のダンディズムにある。そこにそこはかとなく「趣味の良さ」のようなものがある。彼のソロは吹きすぎてしまうことや、下品に味付けすることはまずない。僅かにかすれた音色とハーモニーの余白を考えながら、手さぐりしながら進む感じの心もち中心をずらしたメロディで、誇張や過度な熱気も差し挟まない。そのメロディは中音域を安定して動いているため、ソリストが他にいる時には決してその人のソロを邪魔しない。

これは、ファーマーがプレイした時代や環境を考えてみると、実は大変なことなのではないかと思う。ファーマーが自分のスタイルを形成していく初期にクリフォード・ブラウンと一緒にプレイした時期があるという。ブラウンというトランペット奏者は、それこそ当時の人々にとってはひときわ輝く太陽のようなプレイヤーだったようで、伸びやかで輝くような音色で即興的に独創的なフレーズをビシバシキメるプレイに、多くの奏者は大きな影響を受けたという。実際に、後世のトランペットはブラウンのスタイルがスタンダードになっていく。ファーマーはブラウンを間近に見ながら、自身と異質なブラウンの影響に呑み込まれることなく、独自のメロディを歌うスタイルを熟成させていった、といえる。

聴く人によっては、ファーマーのさりげない表現に込められた滋味をじっくり味わうのを楽しみしている。

Jazfarmar_sing

Sing Me Softly of The Blues    1965年3月録音

 

Sing Me Softly of the Blues

Ad Infinitum

Petite Belle

Tears

I Waited for You

One for Majid

 

Art Farmer(tp)

Pete La Roca(ds)

Steve Kuhn(p)

Steve Swallow(b)

 

ファーマーの抒情的な面がよく表われた作品で、ファーマーのワン・ホーンでのリーダーであるのに、ピアノやベースといった人々が前に出て、アンサンブルとしての面白さが、抒情的な中でダイナミックな躍動感と緊張感に溢れた録音となっている。ここでは、ファーマーは、中低域の音が柔らかいフリューゲルホーンを演奏している。それが2曲目の「Ad Infinitum」では星降るようなクリスタルなピアノの分散和音から一般的なジャズのイメージとは異質な響きが聞こえくるなかで、ファーマーがフリューゲルホーンでテーマをクリアに吹いて入って来ると、驚いたことにピアノが寄り添うように一緒にテーマを弾いている。これも、ちょっとないことだ、この後、分散和音の洪水のようなピアノのソロが入り、ファーマーのアドリブが始まるが、ピアノの音がうるさいくらいよく聞こえてくる。3曲目の「Petite Belle」では、はファーマーのソロで始まり、ソフトな音色が特徴のフリューゲルホーンでほとんどストレートに歌い上げる。それだけでアート・ファーマーでしか表現できない、穏やかで味わい深い世界が広がってくる。続くアドリブでも、テーマの雰囲気を壊さずに、控え目で品の良い感じのフレーズが続く。このような言葉で書くと茫洋とした取り留めのない、メロディ垂れ流しにように思わせるかもしれないが、それに鮮明な輪郭を与えているのが、ピアノのクリスタルなサウンドとドラムスのユニークなプレイだ。4曲目の「Tears」では、そのピアノの洪水のような分散和音から、物憂げなファーマーのフリューゲルホーンが入って来ると、にわかに耽美的かつ退廃的な雰囲気が漂う。その後のアドリブのピアノとドラムスのハードな展開に、ファーマーもつられるかのようにプレイする。しかし、全体としてホットな熱さというよりは、ファーマーの自己抑制的な姿勢と、全体のクリスタルな響きからか、熱気は内に秘めた理知的な感じがしてくる。決してクールではなく、妖しく燃えるというのが適当かも知れない。それは次の「Petite Belle」でのハードなプレイでも分かる。ファーマーのリーダー・アルバムというよりは、ピアノのスティーブ・キューンのトリオにファーマーが参加したような仕上がりになっている。これは、ファーマーが彼らをうまく引き立てたのだろうと思われるが、そういうことができるところに、ファーマーの特徴がよく表われていると思う。かれらを引き立てることによって、ファーマーの時には妖美ともいえるサウンドが表われたと思う。

« 平等とみんないっしょ(2) | トップページ | ジャズを聴く(33)~アート・ファーマー「Modern Art」 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« 平等とみんないっしょ(2) | トップページ | ジャズを聴く(33)~アート・ファーマー「Modern Art」 »