ジャズを聴く(33)~ソニー・クラーク「クール・ストラッティン」
Cool Struttin'
Blue Minor
Sippin' At Bells
Deep Night
Royal Flash
Lover
Sonny Clark (p)
Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)
Art Farmer (tp)
Jackie McLean (as)
1958年1月5日録音
ソニー・クラークのリーダー作品ということになっているが、ピアノ・トリオにホーンの二人、トランペットのアート・ファーマーとアルト・サックスのジャッキー・マクリーンを加えたクインテットなので、ピアノは控えめで、ホーンの方が聞こえてくる。ソニー・クラークについてよく言われる“後ろ髪を引かれる”というイメージに最も当てはまるのが、このアルバムではないかと思う。とくに最初の2曲に、その特徴がもっともよく出ている。
最初の曲、タイトル・チューンである「クール・ストラッティン」は、スロー・ナンバー。全員のトゥッティでテーマをゆっくりと提示する。このホーンによるスローでブルージーなテーマ、そしてその醸し出すムードを好きになるかどうかで、このアルバムの好き嫌いが分かれると思う。それだけ、このテーマにソニー・クラークをはじめとする5人の演奏のムードが集約されている。これはクラークのものであると同時に、ジャッキー・マクリーンのものであり、アート・ファーマーのものであり、フィリー・ジョー・ジョーンズのものであり、ポール・チェンバースのものであり、つまり、全員の共同作業でつくりだされたようなものだ。それは、続く、各自のソロ・パートを聴くとハッキリする。それぞれがタメるノリの競争をしているかのようなのだ。最初にソロをとるのはクラークで、抑え気味にシンプルなプレイだが、これはテーマの際にホーンがテーマのメロディを吹いているバッキングの低音のパートから移行していっているようからだろう、テーマの時にもホーンの音の合い間から、しっとりとしたピアノの音が洩れ聞こえてくるようだったが、ソロ・パートになって、そのピアノが全部聞こえてきて、スローなテンポと相俟ってさらにピアノの重く、暗いタッチが際立ってくる。続いてアート・ファーマーのトランペットもアゲアゲで疾走することもなく抑制気味にじっくりとフレーズを紡いでいく。軽快さとは正反対のどっしりとした重量感。これみよがしのブローもなく、アドリブのキレで勝負するというのでもない、後年のフリューゲルホンによる滋味深いプレイを彷彿とさせる淡々と吹く。続いて、多分、絶好調だったのではないかと思われるマクリーがンあの重いサウンドで、タメにタメたノリで、フレーズの最後でクルリと小節をきかせるマクリーン節が全開で充分に唄い上げる。これらの奏者たちが相互にタメを共用していくなかから、“うしろ髪ひかれる”ようなノリを作っていく、独特のグルーヴ感じと言ってもいい。再びクラークのソロでは、さっきとはうって変わって三連譜を多用し、粘っこいほどタメたノリだ。このあたりのプレイや2人のホーンのバックで弾かれるふくよかなピアノの音色などが、クラークを好きな人には堪らないのではないか。
次の曲「ブルー・マイナー」。古いファンはアナログ・レコードのA面に、最初の2曲が収められていたため、プレイヤーでレコードを聴くと、この2曲をまとまって聴く、レコードを裏面に引っくり返して続く曲を聴くのを面倒になり、最初の2曲ばかり聴くことになってしまうという事情から、アルバム中の最初の2曲をとくに好むという。前の「クール・ストラッティン」に比べミドル・テンポのテーマの呈示のあとマクリーンが、そのテンポのまま、じっくりとソロを聞かせる。それは、マイナー・コードで展開されるタメをきかせる独特の節回しは“泣き”といえるような聴く者に哀感を覚えさせ、これが全体のペースを決めてしまう。この間、リズム部隊も落ち着いたテンポをキープし、煽るようなことはせず、重くリズムを刻んでいる。続く、アート・ファーマーは、流れにうまく乗って、このムードを壊さない。それで聴いていると、後ろに引っ張られるようになり、しかもマイナーキーなので、もの悲しさを微妙に感じるようになるのだ。このあとのクラークのピアノは、テンポをキープしながら、必ずしも哀愁のフレーズを演っているわけではなく、むしろドライなのだけれど、却って全体のムードを印象的にしている。
4曲目の「ディープ・ナイト」は、曲が始まりはピアノ・トリオで演奏が進み、ソニー・クラークのピアノは哀愁ただよう切ないメロディを、少々速めのテンポで過度にセンチメンタルにならず、ピアノの一音一音をしっかりと聞かせるように弾き進める。そして、このピアノに覆いかぶさるようにトランペットがソロを取って代わり、他の曲と同じようなムードの展開となる。
このアルバムは、良くも悪くも金太郎飴のような、一貫したムードで統一されているので、それの中で漂い、雰囲気を味わうので、それに親しめるか否かで好き嫌いが分かれるものだと思う。圧倒的な演奏、音楽で聴く者を否応なく圧倒するタイプのものではない。
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