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2016年6月18日 (土)

カラヴァッジョ展(1)

Caravaggio2016poster 2016年3月の1年に1回の通院の日。昨年との経過状態の変化を監視してもらっている。大丈夫と思ってはいても、どこかで変化があったら・・・という危惧は残っていて、検査自体は簡単に終わってしまうのだけれど、万が一のために休みを1日取った。それで、蓋をあけてみたところは、異常な変化は見られず、これでしばらくは大丈夫と思うので、一区切りにしましょうとのこと、つまり、恢復しましたということ。まあよかった。
 ということで、万が一に備えていた時間が余ってしまったので、ということで何か美術展でもということで、上野に向かった。上野は桜の開花が始まろうとしていた自分で、外国人の姿がかなり目だって多いような気がした。たしか、ボッティチェリ展が終わり近いし、JR駅の公園口を降りると、西洋美術館のカラヴァッジョ展が目に入ったが、始まったばかりだし、後で見る機会もあるだろうからと、公園奥の東京都美術館に向かった。しかし、美術館に向かって歩いていくうちに、同じように歩いている人の姿が多いのに気づいた。かなり混んでいるのは、この時点で分かった。そして、美術館の玄関で入場2時間待ちとかアナウンスされているのを聞いた。お手上げだ。そんなところで絵を見るなんて真っ平だ。と、玄関で急遽、予定変更。さっき通り過ぎた西洋美術館に行くことにした。こっちも混みあうだろうけれど、始まったばかりだから、未だましではないか。その予想は当たり、決して空いているわけではなかったが、会期は始まったばかりで、比較的落ち着いて絵をみることができた。
 15年前の2011年に東京都庭園美術館のカラヴァッジョ展には行った。あの時は、ずいぶん混雑していた記憶が合った。それ以外にあまり記憶が鮮明ではない。私自身についても、美術展まわりをするようになって、はじめのころで、自分なりに絵を見るパターンができていなかった(今も大して変わらないけれど)ことでもある。今、15年経って、自分の記憶を確かめたいし、同じ画家の作品を見る時間を隔てて、その頃の自分はどうだったか、今と変わったのかを見ることもできるかもしれないとも考えていて、この美術展は見たいと思っていた。
 まずは、主催者のあいさつから行きましょう。ここに、主催者のカラヴァッジョに対する視点が表われていると思います。“ミラノの生まれたミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571~1610)は、西洋美術史における最大の変革者のひとりとして、バロック美術の創始者にも数えられる偉大な画家です。目の前のモデルを忠実に写すリアリズム、素描を行なわずカンヴァスに直接描く手法、モチーフを極限まで影に沈める劇的な明暗法(テネプリズム)、そして観る者に直接訴えかけるヴィヴィッドな主題解釈といって点において、彼の作品はルネサンス以降の様々な美術の規範を打ち破り、新時代の到来を告げました。それゆえ、彼の画法は多くの熱狂的な継承者(カラヴァッジョスキ)を生み、ルーベンスやラ・トゥール、レンブラントなどの17世紀の数多くの画家たち影響を与え、バロックという新時代の美術を開化させる原動力となったのです。本展では、11点のカラヴァッジョ作品と、彼の影響を受けた継承者たち(カラヴァッジョスキ)による作品をあわせ、計51点を展示します。これはカラヴァッジョの現存する真筆が教会の祭壇画など移動不可能な作品を含めて60点あまりと言われるなか、日本では過去最大、世界でも有数の規模となります。今回は「風俗画」、「静物」、「肖像」、「光」といった、カラヴァッジョ芸術を理解するための重要なテーマごとに章立てを構成し、彼の芸術の革新性と、継承者たちによる解釈と変容の過程を検証します。あわせて、彼の波乱万丈な生涯を記録した同時代の古文書資料を出品し、カラヴァッジョを芸術と人生の両面から掘り下げてご紹介いたします。”
 というように、カラヴァッジョを絵画史の中での変革者、バロック芸術の創始者として説明されているようです。しかし、と言って知ったかぶりをするつもりはありませんが、カラヴァッジョという画家は1920年代にイタリアの美術史家ロベルド・ロンギによって再発見されるまで、歴史に埋もれていた画家であったということです。だから、ここでカラヴァッジョを変革者としていても、再発見されるまでは、とくにカラヴァッジョによる変革ということは意識されていなくても、バロック絵画というのはあったし、美術史もちゃんと筋が通っていたということです。たしかに、カラヴァッジョスキという継承者が生まれ、後からみれば錚々たる大家にもカラヴァッジョの影響が見られるのでしょうが、それはバロック美術全体を左右させるものだったか(そうであれば歴史に埋もれるはずはなかったでしょう)、そして大家への影響は彼らの特徴の中に包摂されてしまった(カラヴァッジョの影響云々を考えなくても、各画家の特徴ということで話は済んでしまっていた)ということだったと思います。ここで、本題に入る前に少々脱線しますので、興味のない方は、読み飛ばして、次ページの具体的な展示の感想に移っていただきたいと思います。ちょっと長くなると思います。
 ロンギがカラヴァッジョを再発見し、世に紹介しようとした1910~1920年代というのは、ヨーロッパの歴史をみれば、大変動、変革の時代と言うことができます。第一次世界大戦によってヨーロッパの伝統的な秩序や文化は根底からの変化を余儀なくされます。ドイツとオーストリア、そしてロシアという帝国は消滅し、ロシア革命により社会主義体制が成立します。また資本主義経済などによって従来の社会やコミュニティが変質し、個人がバラバラになり大衆社会がうまれます。このような動きの中で芸術や文化も、大きな変化を遂げて行きます。ロンギの周辺である、当時のイタリアの芸術文化では未来主義の運動が起こり「革命」を標榜します。その中で、ロンギはカラヴァッジョの中に芸術の革命を見出し、それを自身が世に認められる野心を実現させるためにも、大きくアッピールしていったと居えると思います。では、ロンギはカラヴァッジョにどのような「革命」を見出したのでしょうか。それは、彼の言葉で言えば、ルミリズム、地上のリアリズム、完璧なリアリティにおける視角の具現化の三点です。それは、まさに主催者あいさつの中で述べられていることに他なりません。
 あいさつの説明は簡潔すぎるので、もうちょっと説明すれば、カラヴァッジョは、ルネサンス以来、画家たちが重視してきた素描に基づかず、直接、カンヴァスに向かったといいます。このため、人物の相貌や身体各部の比例関係を探求し理想化するフィレンツェのルネサンスの画家たちを中心とした古典主義美学に対して、時に無骨さ、野卑さ、醜さまでも剥き出しにした生々しいリアリズムを打ち出すことになりました。すぐれた着想によって高貴な主題を物語ることが絵画の使命であると考えるのがネルサンスの絵画の考え方ですが、そのような立場から見れば、カラヴァッジョの絵画のリアリズムは、絵画を破壊するものと見えても無理はないでしょう。また、ティツアーノらのようなヴェネツィア派のような多彩な色彩を駆使した装飾的な豪華絢爛さにも背を向けて、光と闇の強烈なコントラストの中で、民衆的ともいえる直接的で平明な語りを画面で演出して見せました。制作の手続でいえば、従来のきまりごとから逸脱する宗教画の革新、歴史画を頂点とする主題のヒエラルキーを転倒させる静物画や風俗画の積極的な再解釈、といった一連の特徴は、歴史的資料のあまり残されていないこともあって、この画家が、従来からの伝統を断ち切って、あたかも突然変異のように新たな芸術を単独で生み出し、世に衝撃を与えたというように、ロベルト・ロンギは世に強烈な印象を与えるようにカラヴァッジョを紹介し、それが、この美術展にも影響を与えているというわけです。また、さらに言えば、カラヴァッジョという人物の波乱万丈の生涯の伝記的なエピソードもそのイメージをさらに煽ることになっています。
 カラヴァッジョについて、あいさつで述べられていることを否定するつもりはありませんが、そのベースには時代によるバイアスが色濃く反映されているのは疑いようのないことで、それが学問とか、そっちの方では定説となっているかもしれませんが、それはかなり度の強い色眼鏡ではないかと思えるところもあります。だから、そこから自由になるとか、新たな視点を提案するとか、そんなつもりは全くありません。ただ、或る時期まで歴史に埋もれ、ということは殆ど無視されてきて、或るきっかけから革命児として脚光を浴びるという毀誉褒貶に巻き込まれてしまっているようで、そんなところから距離を置かせてあげてもいいのではないかと、せめて私だけでも(というのは傲慢な言い方かもしれませんが)、そういうところから離れたところで対することはできないかと思いました。それが、ちゃんとできているかは、この先の感想を読んでいただければ、一目瞭然でしょう。
 ということで、作品を、次のような展示の章立てに沿って見ていきたいと思います。

Ⅰ.風俗画:占い、酒場、音楽
 Ⅱ.風俗画:五感
 Ⅲ.静物
 Ⅳ.肖像
 Ⅴ.光
 Ⅵ.斬首
 Ⅶ.聖母と聖人のための新たな図像

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