株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(13)~2の1 狭義の招集通知(1)
これから、いよいよメインの本番で具体的な実務の説明に入ります。
株主総会に関連する書類の中で、まず、狭義の招集通知について見て行きましょう。
見本として、実際に使用された招集通知をサンプルとして、それに即して説明していくことにします。まずは、サンプルの中で赤字で番号を振った項目ごとに説明しますので、サンプルと照らし合わせながら読んでいただきたいと思います。
①証券コード
上場会社の証券コードです。これは会社法で規定されている法廷記載事項ではありません。だから、記載しなくてもいいのです。法定事項でもないのに記載されているのは、株主や投資家からの要望が強かったからとされています。実際のところは、リーディング・カンパニーと一般に見なされている有名企業が、海外の機関投資家から要望に応えて記載するようになったところ、他の多くの会社が追随して一般的になったものだろうと思われます。とくに、記載しても害になるわけでもなく、記載する労力もかからないのに、これを記載することで海外の機関投資家に配慮しているかのように見えるということから、追随する企業も多かったのでしょう。また、金融商品取引法や証券取引所の上場規則に基づく会社情報の公開、いわゆるディクローズ文書では証券コードの記載が書式化されています。その点から証券コードの記載に抵抗感はなかったのだろうと考えられます。このような証券コードを記載する会社が増えてくると、今度は記載することが一般化して当然記載することになりました。
証券コードは、このようなサンプルの位置に小さく記載されるのが一般的です。分類のための便宜が主な機能目的ですから。
②発信日付
これも、①の証券コードと同様に法定記載事項ではありません。サンプルを見て、気がついた人もいると思いますが、招集通知の書式とか記載されている項目は、一般的なビジネス通知文書と同じです。宛名があり、発信者名があり、発信日があって、タイトルが記されて、拝啓で始まる挨拶に続いて、「記」として区切られた本題が「以上」で締められる。そのうち、ビジネス文書では発信日が記されるのが一般的です。それは、いつ発信されたのかを明確にする。いつのことなのかを明確にする機能があるからです。これに対して、株主総会の招集通知は株主総会日の2週間前までに発送しなければならない(会社法299条1項)とされていますから、発信日を記載しなくても、いつのことなのかは分かるので、なくてはならない、というものではないのです。でも、記載されていれば、いつの文書なのは一目瞭然です。しかも、株主総会開催の手続きとして、決められた期間内に招集通知を発送することが義務とされていて、もし守られなかった場合に、株主総会の開会自体が無効とされてしまうことがあります。その際に、招集通知に発信日を記載しておくことで、発信の日付を示しているという効果はあります。(実際には、料金別納郵便として郵便局にもっていった受領印の日付が発送した確認として用いられているので、裁判になった場合などは招集通知の発信日は証拠にはなりません)
ちなみに招集通知の発信日について確認しておくと、
ⅰ)一般論として総会日の2週間前(会社法299条1項)
ⅱ)株主総会の招集決定の取締役会で議決権の行使期限として特定の時を定めた場合は特定の時が属する日の2週間前に発信しなくてはならない。
なお、このような総会日の2週間前という期間の日数の数え方は民法140条に「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。」と規定されている初日不参入の原則に従います。このサンプルで言えば、総会日の2週間前を計算する場合には、総会日である6月26日は初日になるので2週間の期間にいれずに、その前日である25日から2週間、つまり14日と数えて11日が発信日となるわけです。つまりは、2週間前というのは、総会日を入れれば15日前ということになります。
そもそも、招集通知の発送期限を厳しく定めているのはどうしてなのかといえば、ひとつの考え方として、公開会社では市場に株式が流通するために潜在的に株主か多くなる可能性があり、株主も会社に縁もゆかりもない見ず知らずの人がなる可能性があるだろうから株主総会に出席する権利を持つ会社の所有者である株主の出席の機会を保障するためにはある程度の時間的な猶予が必要であることから少なくとも法は2週間前の招集を要求したものだ、というのがあります。また、実際的なことを考えれば、書面投票制度が機能するためには、ある程度の投票期間が必要となり、招集通知を株主に郵送で発送し、受け取った株主が議決権行使書に記入して、郵送で返送し他のが会社に戻ってくるまで3~4日の期間をみなければならない、ということも考慮すれば二週間程度の期間は最低必要です。
③宛名
これもまた、①の証券コードや②の発信日と同じように法定記載事項ではありません。しかし、招集通知をビジネスの業務文書のひとつと考えれば、誰に宛てて作成され、発信されたかを記載するのは当たり前のことです。
株主総会は株主が出席して決議する会議ですから、そこで招集されるのは株主です。したがって株主総会の招集通知は株主に対して発信される文書です。そこで、宛名は「株主各位」とか「株主の皆様へ」と記されるのが一般的です。この場合、株主の個人名をそれぞれ記載して招集通知を株主別に作成するのが理想かもしれませんが、実際上、印刷では無理なので、上場会社ではそこまで手間をかけてはいません。
なお、招集通知は総会議事に参加してもらうための招集ですから、議決権を行使することのできない株主及び所在不明株主に対しては、通知をする必要がないとされています。
④招集者及び標題
これもまた、①の証券コードや②の発信日③宛名と同じように法定記載事項ではありません。しかし、株主総会を誰が招集するかを明示することは、会議を招集する場合に常識では必須の項目です。会社法では、296条4項で株主総会の招集権限は取締役会の専属的権限とされ、他の機関にゆだねることができないとし、296条3項において「株主総会は、次条第四項の規定により招集する場合(少数株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集する場合)を除き、取締役が招集する。」と招集の執行者を規定しています。一般的な記載のパターンはサンプルにもあるように、会社の所在地、商号そして代表取締役とその氏名を記載するというものです。なお、ここでの会社の所在地は登記上の本店所在地を記載するのが一般的で、実際の本店所在地が異なる場合は両方の住所を併記する場合が多いようです。
また、標題も法定記載事項ではありませんが、そもそも何のための通知であるのか標題がなければ、一目で理解されるということは難しいと言えます。開催される株主総会が定時株主総会なのか臨時株主総会なのかは、この標題でしか分かりません。そこで、一般的には「第○回(期)定時株主総会招集ご通知」、「臨時株主総会招集ご通知」と記載しています。このうち定時株主総会の場合は、「第○回(期)」のように回(期)数を付して、いつの定時株主総会なのか特定できるようにしているのが一般的です。
⑤招集通知本文
法定記載事項でありませんが、招集通知をひとつの文書としてみれば、紛れもなく主文です。株主総会を開催する旨とあわせて、その株主総会への出席の要請を記載し、「拝啓」に始まり、「敬具」で締める手紙形式の文章が一般的です。この通知本文には、株主総会の開催日時、場所及び目的事項等の招集の決定事項は記載しないで、「下記のとおり」として、別に「記」以下にまとめて記載し、最後に「以上」で締めくくる形式が一般的です。ここまではもともと形式的な狭義の招集通知のなかでも、とくに型にはまっているところです。ほとんどすべてに近い会社は、ここで独自性をだそうとか工夫をしようとかはせずに、形式を必要十分に満たす、つまり形式通りにミスなく、つくるという姿勢で共通しています。
形式的なものではありますが、ここで少しく考えたいことがあります。それは、通知本文の株主に対する株主総会への出席要請です。サンプルでは「ご出席下さいますよう」と書かれた部分です。株主総会に出席して決議に参加するというのは株主の権利です。かつて丸山真男が『日本の思想』のなかで「権利の上に眠るものは保護に値せず」というヨーロッパの私権の原則を紹介しましたが、権利あるものは自身が権利を自発的に行使してはじめて生かされるものであるはずです。そうであれば、株主は権利者なのですから、株主総会の開催について連絡してもらわなければ困りますが、それで十分なはずです。株主総会への出席要請などというのは余計なお世話なのです。それにもかかわらず、あえて「ご出席下さいますよう」などという文言を差し挟むというのは株主を見下している態度が見え透いている、私には感じらなくもありません。ここに、経営と所有の両者が対等に議論するという姿勢があるのでしょうか。そもそも、このような出席要請文を挿入した経緯は分かりませんが、現在の株主総会の運営では会議の定足数の確保がだんだん難しくなってきて、株主の出席を促さなければ株主総会そのものが成立しないおそれもあるので、株主に対して出席を促さざるをえない状態にあることも事実です。しかし、それとこれとは別の話で、ここでは、会社(経営)の株主、あるいは株主総会に対する理念のあらわれであるはずのところなのです。IRの観点から言えば、投資する側と投資される側は原則として対等であるはずで、その点からも違和感を禁じえません。これはタテマエかもしれませんが、株主の出席を促す正攻法は、出席したくなる株主総会を運営することのはずなのです。それがIRの視点でもあると思います。
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