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2016年7月 9日 (土)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(8)~序の3 株主総会はどのようにして位置づけられてきたのか(2)

②アメリカにおける株式会社制度の確立

ⅰ)ビジネス・コーポレーション
 イギリスにおいて発達したジョイント-ストック・カンパニーは、アメリカで引き継がれ、資本主義経済の拡大とともに近代的な株式会社として確立していきました。それが、ビジネス・コーポレーションです。ジョイント-ストック・カンパニーは貿易や公共事業といった事業の政治性が濃く、国家が介入することに意味がある事業に特許を賦与されましたが、そうでない製造業は伝統的なパートナーシップの形態で行なわれていました。これは小規模な生産を行なう限りのもので、大量生産にために多額の資金を必要となってくると間に合わなくなります。それを引き継いだのが、ビジネス・コーポレーションと言えます。これはパートナーシップの制約を超えた合本企業の形態です。この制度は、植民地から独立したアメリカで確立し発展していくことになりました。そのことに大きく寄与したのが鉄道業です。鉄道建設には莫大な資金を必要とするもので、公共的な事業であるため特許状を賦与するにたる政治性もありました。しかし、鉄道事業はインフラの建設と整備だけに留まらず、運送事業は私的な契約を基礎として行われました。つまり、公的事業と私的な事業が同一事業体で行われていたわけです。その結果として政治性は希薄化することになります。さらに、大陸横断鉄道がフロンティアである西部に拡大していくと建設資金が桁違いに多額となって、資金調達の対象が大きく拡散し多様化していきます。その結果、株主やその代表者が経営の管理に口出しできなくなっていきます。同時に鉄道会社の管理そのものが複雑多岐になり、常勤の俸給管理者だけがもつ特別な技能と訓練を必要とするものになっていきました。そこで、所有と経営の分離が進んでいくことに成りました。そして、特許状によらず、基本定款の提出によって会社設立を可能とする準則主義への転換が1830年ごろに各州で進み、1870年には一般化しました。
 ビジネス・コーポレーションにおいて政治性が希薄化し、国家による特許から準則主義により認可に変わって言ったベースには、公共目的のために特権を賦与するということでは目的が限定されてしまいます。運送業や製造業といった私的領域は対象となりません。そこで、出資によって団体が形成されるというのは契約に基づく結合であるという所有と契約を基礎とした考え方に変わってくるのです。その契約関係を守るために会社は一定の要件を備えていなければならないわけで、それに従わせるために準則主義が採られるようになっていったということになるわけです。
 この場合の株主総会の制度的形態に関しては、ジョイント-ストック・カンパニーから引き継いだ会議体の形態でした。このベースとなる考え方はビジネス・コーポレーションは、営利目的の存在を前提として出資者の契約によって成立した団体であり、それゆえ団体としての権能も契約者である出資者の意思決定によるというものです。したがって、株主総会における多数決の決議が正統性をもつことになるわけです。

ⅱ)現代に連なる巨大化
 19世紀中盤以降のアメリカでは鉄道の建設で要求される資本の額が巨大であるだけでなく、運営に当たっても、比較にならない複雑な管理業務が生まれてきた。これは株式会社という組織に管理階層が出現したと言える。
 鉄道会社は輸送取扱量の増加を目指して企業間で競争を激化させていきますが、そのために周辺の会社を買収し、内部化させていきます。それにより組織が一段と巨大化、複雑化させていき、専門的な管理者の経営に任す以外になくなっていきます。これは鉄道会社だけに限ったことではなく、19世紀以降の展開は規模と範囲の経済を追求することと、生産における単位費用の減少を図るものとなって行きました。とりわけ、1870年以降、当時の技術革新を基礎として、生産、流通、その管理機構に対する大規模な投資が行なわれました。このような買収などによる統合と巨大化によって、所有と経営の分離は不可避のものとなり、一方で生産から流通にいたる経営上の管理に関する専門家が不可欠であり、他方で、企業活動に必要な資金を個人投資家か集めるようになっていました。このことは、企業において実質的に株主の影響力が希薄化して経営者に権限が集中し、これに対する監督が機能しなくなってきたということでした。ここに、企業の大規模化を認めながら、これに伴う経営監督を考えていく、コーポレート・ガバナンスの議論が始まることになりました。
 このような企業の変化に伴い、株主総会では、とくに議決権のもつ意味合いが変化していきました。そのひとつが一株一議決権の原則です。その大きな理由は企業統合により企業規模が巨大化する中で少量しか出資しない者が会社を支配することへの懸念が生まれたためです。パートナーシップの企業体であれば人的結合体としての性格から株主の頭数応じた議決権の方向に寄っていくことに成ります。これに対して、企業統合が進展するとパートナーシップ的な傾向が希薄化し、一株一議決権の方向に進んでいったのでした。もう一つの理由は、会社の目的の基本的な変更は株主の全員一致が必要とされてきましたが、このような企業の変質に伴い、それでは基本的事項の変更は困難となったため多数決による決議が導入されていくことになりました。このことは、とりもなおさず、株主が会社の所有者だとはいっても会社を自分の思い通りに動かすということは叶わず、経営と所有が分離し、経営者の選解任により経営者をコントロールいる以外にはできなくなっていきました。そのため、経営者の権限濫用を抑えるための役割を株主総会が担っていく(コーポレート・ガバナンスの始まりとして)ことになったわけです。また、株主の側も、パートナーシップの企業形態の実際に経営して者が出資をすることから、個人投資家や機関投資家といった、企業経営の実態とは距離を置いて、投資という企業の事業の現場とは離れ、所有の意味合いも変化するとともに、株主総会では意見のやり取りや議論が形式化していくことになりました。 

参考文献 松井秀征「株主総会制度の基礎理論」

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