株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(10)~序の4 日本の株主総会の特徴(2)
④第二次世界大戦後の株式会社の大変革
1945年に日本は敗戦国となり、連合国軍に占領され、GHQによる占領統治を受けます。このとき、アメリカを中心としたGHQは日本が専制的な体制となって侵略戦争を起こすことがないように、日本の社会政治体制を作り直そうとしました。それが民主化政策と呼ばれるもので、経済の分野に限れば、農地改革で不在地主による大土地所有を解体し自作農を育成し、企業に対しては財閥解体により資本の独占と集中から市場で企業が自由に競争できる環境を作ろうとしました。また戦争協力者の公職追放に関連して大企業のトップ経営者は戦争に協力したとして、その地位から退くことを強制され、経営者の世代交代が一気に進みました。このような動きの一環として、昭和25年に商法大改正があり、会社法関係についてはアメリカの商慣習が大幅に導入され、授権資本制、無額面株式制の採用、社債発行限度の拡張、経営機構合理化のための取締役権限の拡大および株主地位の強化のための諸方策が織り込まれました。これらの諸策は、他方で戦争により枯渇した資金の調達、その一環として外資(主にアメリカ資本)導入の便宜をはかる狙いもありました。
そして、株主総会については株主の地位強化が図られたという意図とは裏腹に、資本主義経済組織の下での株式会社制度の本来的な機能の一つ、つまり支配集中機構としての機能の発揮を可能にするものとなったと言えます。株主総会については、改正前は、文字通り会社に関する一切のことについて決議することができ、その決議は当然取締役または監査役などの他の機関も拘束することとされ、会社の最高かつ万能とされていました。これが、改正商法では、定款に定めがない限り業務執行に関する権限はなく、法令または定款で株主総会の権限と明記した事項以外のものについては権限がないなど、実質的に権限を制限され、一切の業務権限は取締役会制度を設けて、担わせ。外部監査機関としての監査役の権限を会計監査権限のみに縮少させ、取締役ないし取締役会および代表取締役など会社経営機構の権限を著しく巨大化させました。その反面この巨大化した経営権限なチェックするものとして株主地位の強化を図りました(例えば、株主代表訴訟制度の創設)。
現在、株主総会が形式化していますが、そのスタートはここに始まるというわけです。
⑤高度経済成長と総会屋対策
日本経済は、敗戦後の混乱から復興経済政策を経て、高度経済成長を遂げ、企業経営についても成熟し、多様化していく一方で、復興のために無理をしてきた弊害も現れてきました。例えば、護送船団方式といって官民一体となって経済発展を進めてきたものが、海外からは閉鎖的とみなされ、日本経済が世界でも一定の地位を占めるようになったからには門戸開放を迫られることとなりました。中でも日本企業の閉鎖性が指摘され、企業の情報開示について企業会計制度にも触れながら根本的な見直しが行なわれた。そして、当時の上場会社の株主総会を跋扈していた総会屋は必要悪とみなされる時期もありましたが、企業の健全な経営を阻害するものとして本格的に対策が始まったのが、この時期でした。
その一連の商法関連の法改正が昭和56年の商法改正です。主な項目として、総会屋への利益供与を禁止し、株主総会での株主に対して取締役や監査役の説明請求権や提案権を認めた。また、単位株制度を導入し、会社間の株式の相互保有が規制され、子会社による親会社の株式保有を禁止しました。とくに株主総会関係については、株主総会における取締役および監査役の説明義務、株主提案権、監査役の監査権限の強化(会計監査に留まらず取締役の適法性監査の拡大)、会計監査人による監査の拡充強化等を上げることができますが、とくに、営業報告書、附属明細書、監査報告書などの記載方法・事項の充実等による企業内容の開示、つまり企業公開の充実が重要です。
株主総会に関しては、総会屋対策の一環でもあり、書面投票制度(議決権行使書)が創設され、その書面投票のために参考書類を整備することが義務付けられ、その詳細が参考書類規則に明文化されました。
いわば、現在の株主総会や情報開示制度は、ここに始まると言えます。
« 株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(9)~序の4 日本の株主総会の特徴(1) | トップページ | 矢野顕子「Watching You」 »
「あるIR担当者の雑感」カテゴリの記事
- 決算説明会見学記~景気は底打ち?(2020.01.25)
- 決算説明会見学記─名物経営者の現場復帰(2019.07.29)
- 決算説明会見学記~名物経営者も思考の硬直が?(2019.04.25)
- 決算説明会見学記─誰よりも先にピンチに気付く?(2019.01.23)
- ある内部監査担当者の戯言(18)(2018.12.22)
« 株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(9)~序の4 日本の株主総会の特徴(1) | トップページ | 矢野顕子「Watching You」 »
コメント