株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(16)~2の1 狭義の招集通知(4)
これからの部分は招集通知の法定記載事項になります。
⑥招集の決定事項
株主総会の招集は取締役会が決定することになっていますが、それを取締役会で決定する場合には、いわゆる「株主総会招集の決議」を行い、決議事項は会社法で定められています。これは株主総会の開催に関して必要な事項であり、株主総会の主体である株主はこれを知らなければ株主総会に出席できないし、かりに出席できたとしても会議に参加できない事項です。だから、招集通知には必ず記載しければならないとして会社法で規定されています。これらの事項を法定記載事項といいます。もし、この部分の記載がなかったり、要件を満たしていない場合には、招集通知は不備とされ、それが放置されたまま株主総会が開かれてしまった場合に、その株主総会の招集に瑕疵があったとされ、株主総会そのものが無効とされてしまうおそれがあります。
一般的な招集通知では、この部分は、これまで説明してきた招集通知の本文部分の中には記載しないで、「下記のとおり…」と記して、改めて「記」で区分して、それ以下に各事項を記載し「以上」で締めるという書き方が定着しています。
以下、その各事項については⑦~⑩で個別に説明していきたいと思います。
⑦日時
株主総会の開催日時は法定記載事項になっています(会社法299条4項、298条1項1号)。ただし、その記載方法までは規定されていませんが、多くの場合は、日時は元号でも西暦でも、年月日までと曜日を記載し、開始時刻を記載します。時刻の表示方法は24時間方式ではなく、午前○時とか午後○時という方式が一般的です。
なお、開催日が次のいずれかに該当する提示株主総会の場合は、そのような日時を決定した理由を記載しなければなりません(会社法施行規則63条1号)。なおこの場合の記載場所は、開催日時の記載の下に注記として記載するケースが多いようです。
(a)開催日が、前回定時株主総会の開催日に当たる日から著しく離れた日である場合
(b)いわゆる集中日を開催日とする場合(ただし、この日に開催日を決めたことにとくに理由がある場合に限られる)
念のために説明しておきますが、株主総会の集中開催日とは、3月決算の会社であれば6月の末日が平日としてその前営業日で、月曜日でない日(月曜日であれば前の週の金曜日)をいいます。これは、金融商品取引法により上場会社等は決算日から3ヶ月以内に財務局に有価証券報告書を提出することを義務付けられています。その有価証券報告書には、剰余金の配当や役員の状況など定時株主総会の決議があってはじめて確定し、有価証券報告に書き込むことができる項目があります。有価証券報告書は財務諸表と定性的情報の部分があり作成には、かなりの時間と労力を必要とし、もし、後で訂正箇所が見つかった場合には訂正報告書を提出しなければなりません。そのため、作成した有価証券報告書は入念なチェック作業を課す会社がほとんどで、そのため有価証券報告書の作成には提出期限ギリギリまでかかってしまうことになります。ただし、だからといって月末に提出しようとして何らかの間違いが見つかってしまうと財務局では受け付けてくれません。それで提出期限が守れなくなってしまった一大事となるので、月末の1日前に財務局にだして、もし訂正を要する誤りがみつかったら、翌日再提出できるようにして、その提出に間に合う期限として定時株主総会の開催日の日程が組まれたというのが理由です。
そして、その上で、株主総会を各社で一斉に行なうようにすれば、今はほとんど影を潜めてしまいましたが、総会屋という株主総会で暴れるといって企業をおどしていくばくかのお金を払わせようとする団体が行動できなくするためにも行なわれていました。つまり、各社が一斉に株主総会を行なえば、総会屋は1社の株主総会に出ると、他の会社の総会には出られなくなります。その1社は不運ですが、他の会社は救われることになるので、各社で同じ日に開催するようになり、一時は3月決算の上場企業の9割以上が同じ日に株主総会を行なっていました。
では、なぜ、招集通知に定時株主総会の開催日をとくに集中日にした理由を、わざわざ記載しなければならなくなったのでしょうか。
それ理由は、まずは企業サイドから、一つには総会屋と言われる人たちが法改正や警察の取り締まりによって活動を制限され活動できなくなって、一時の隆盛がうそのように、ほとんどいなくなってしまったためです。このため、企業が定時株主総会の開催日を集中させる理由の一つがなくなってしまったことになります。二つ目の理由として、会場の確保が難しくなったという事情です。これは、業界再編が行なわれ企業合併が行なわれた結果、中規模の企業同士の合併により大企業が生まれ、新会社の株主数は大きなものになりますが、従来のその会社の施設では倍増した株主数を収容可能な会場がなく、社外の会場を借りることになります。また、そうでない企業も景気低迷が続く中でスリム化を進める中で自社で株主総会に使うような施設を持たない企業が増えた結果株主総会の会場を社外で借りる方が経費面で有利となりました。その結果、都内の会場は企業の取り合いとなってしまいました。総会の開催日が集中してしまえば、会場を借りることができなくなる企業がたくさん出てくる事態となったのです。三つ目の理由として、議決権の確保です。実は、総会屋対策のために株主総会の開催日を集中日にしたり、書面投票制度という事前議決権行使書を送付して決議に参加する制度などの施策は、企業が株主総会の議決権の票読みを確実にできていたからこそ可能なものでした。そして、それを可能にしていたのは、いわゆる株式持合いを企業同士で、あるいは金融機関としていたからです。しかし、景気低迷が続き企業の業績が厳しくなってくると、各企業の資金的な余裕がなくなってきたり、株価が低迷して利益数字の足を引っ張る事態が起こってくると、各企業は保有していた持ち合い株式を手放さざるを得なくなりました。とくに金融機関がシビアな状態となり、その結果、各企業が株主総会の票読みができなくなってきた、甚だしい場合には株主総会が成立するための定足数を確保することすら難しくなってきたのです。そうなると、株主に株主総会に出席してもらわなければなりません。そのために、他社と同じ日に開催していたのでは、2社以上の株式を保有している株主(株を持っている人のほとんどはそういう人です)は、自社の株主総会に来てくれない可能性が高くなります。それで他社と開催日を重複しないように考える企業が出てきたというわけです。
また、これを株主総会に出席する株主の側から見ていくとどうでしょう。ひとつは、企業側からの理由にもありましたが、企業間の株式の持ち合いが少なくなって、株主構成が変わってきたという事情があります。企業が株式の持ち合いを続けられなくなり、保有している株式を売却した場合、その株式を市場で買ったのは、機関投資家や個人株主と言われる人たちだったと言われています。株式の持合をしている企業であれば、議決権行使書を郵送するか、社員が総会に出席すればよかったのですが、機関投資家や個人投資家は一人、または数人の所帯なので、株式を持っていた会社が一斉に株主総会を開催してしまうと出席できません。投資する側としては社長をはじめ経営者を実際に見ることができる数少ない機会でもあるので、参加することに意義があるはずです。とくに、このような環境変化に伴い、株主と経営陣との対話であるとか、企業が個人株主を熱心に勧誘するようなことも始まり、「開かれた総会」ということが言われ始めました。そのためには、株主にまず株主総会に参加してもらわなければなりません。そこで、各社が総会の開催日を重複しないように分散化すれば、数社の株式をもっている株主はそれぞれの企業の株主総会に参加しやすくなるというわけです。
このような動きを法律面で後押ししようとしたのが、この規制というわけです。現在、集中日に株主総会を開催する企業の比率は、かつての9割から4割ほどに大きく減少しました。
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