無料ブログはココログ

« 2016年7月 | トップページ | 2016年9月 »

2016年8月

2016年8月28日 (日)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(35)~2の2 参考書類─役員選任の件(7)~IRやガバナンスの視点で考える(2)

●これまでの議論を反映させた取締役選任議案モデル

ここまで、大層なことを並べ立ててきましたが、ここは参考書類について議論している場です。このような議論が実際の参考書類として提示できなければ、何の意味もありません。そこで、ひとつのサンプルとして考えてみたいと思います。ただし、各企業によって経営内容や環境は千差万別であるので、それによって参考書類の記載方法も変わってくる、というのがこれまでの議論といえるので、ここで提示するのは、いくつも考えられるパターンのひとつと思って下さい。 

議題● 取締役●名選任の件

取締役●名(全員)は、本定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。つきましては、取締役●名の選任について次の通り提案し、株主の皆様の承認をお願いするものであります。

①提案の理由(取締役選任に関する基本方針)

当社グループの中長期の経営方針については事業報告における説明の通りでありますが、昨年度よりスタートいたしました中期経営計画において長期的な将来に向けて成長基盤の強化を進めております。これは、新たな成長基盤の創成と既存の事業の再編を、M&Aも含めてグループの体制や事業の大規模な再編を伴うもので、このためにはグループの置かれた状況を鳥瞰的に捉える広い視野、とくに経営のファイナンスに精通した専門性、再編後の体制を固めるための地道なヒューマン・マネジメントの経験の蓄積などが特に必要とされるものであります。そのため、このたび任期満了となりました取締役●人については、前記の条件を備え、緒に突いた経営計画を進めていく上で、必要な取締役の人材として、ご承認をお願いする所存であります。なお、この経営計画期間は事業の基盤の強化のために、一時的に売上及び利益の成長に優先した経営課題として取り組んでおりますので、通常掲げております経営指標の数値が必ずしも十分な実績を残せない可能性もあることを、ご理解いただきたいと存じます。

②取締役候補者

取締役候補者は以下の通りであります。

1.●●●●(昭和●年●月●日生まれ ●歳)

・略歴、当社における地位及び担当(重要な兼職の状況)

平成●年●月●日 当社●●就任・・・

・取締役としての当社の経営への事績

平成●年代表取締役に就任し、従来からの経営体制を再考し長期的視野に立った中期経営計画を指示し、実行に着手、現在進行中。

・取締役候補とした理由

●●氏は、当社に平成●年入社する前に、●●社、●●社においてマネジメントの経験を積んだ実績もあり、当社の経営を客観的に見つめ直す視点を持ち、とくに●●社での経営メソッドを体得しているなど、経営者としての実績と能力を有しております。現在進行中の中期経営計画に対する社内の支持は高く、進行は順調であります。これらの理由で、●●氏に取締役として、現在進行中の経営の継続といっそうの推進を図ることを期待しております。

・所有する当社株式の数   ●●株

 

N.●●●●(昭和●年●月●日生まれ ●歳)

・略歴、当社における地位及び担当(重要な兼職の状況)

平成●年●月●日 ●社●●就任・・・

・取締役としての当社の経営への事績(社外取締役としての当社での就任年数)

平成●年社外取締役に就任以来、●年にわたり、毎月の取締役会には全て出席し、当社の経営に対して独立の立場から厳しい意見や従来の当社にはない発想での提言をたびたび、いただいております。

・(社外)取締役候補とした理由

●●氏は、株式会社●●の代表取締役に平成●年に就任以来、●年間で同社を売上規模で●%成長させた敏腕経営者であり、その経営手腕を高く評価されております。また同社は当社とは対象顧客はことなりますが同じ産業機械のメーカーであり、市場環境や技術的な知見や見識においても当社の経営を深く理解したうえで、これまでも意見や提言をいただいており、●●氏が当社の社外取締役に就任した平成●年以来、当社の取締役会での議論が、より厳しいものとなっており、今後にむけても、●●氏の存在は当社の経営に不可欠なものであります。

・所有する当社株式の数   ●●株

③社外取締役候補者について

・●●、●●の両氏は社外取締役候補者であります。

・●●、●●の両氏とも、任期中において当社での重大な法令・定款違反や不当な業務執行の事実はありません。

・●●、●●の両氏は会社法に規定された社外取締役の要件及び東京証券取引所の上場規則に規定された要件、その上で当社の定める独立性の要件を満たしており、すでに同取引所の独立役員の届出をしております。

・●●、●●の両氏とは、それぞれが当社の社外取締役に就任した時点で当社定款に基づく、会社法第423条第1項に関する責任を限定する契約を締結しております。透過性契約の内容は、社外取締役が任務を怠ったことにより当社に損害を与えた場合において、その職務を行なうにつき善意でかつ重大な過失がないときは、会社法第425条第1項に定める額を限度として損害賠償責任を負うというものです。

(ご参考)

取締役選任に関する基本方針

当社グループは産業機械という狭く深いという特色の市場で事業を行っております。そのため、経営判断には市場の細かなニーズの動きや技術の動向と密接に連動していることが必要なため取締役会は、業務執行を兼任したマネジメント・ボードとして構成されています。しかも、市場の変化のスピードが比較的速いことから、経営判断についても迅速さが求められるため、定款の規定にもあるように少人数の構成となっております。そこで、以下のような基準で取締役候補者としての資質を判断いたします。

・心身ともに健康であるだけでなく、高い倫理、人格を有していること

・法令上求められる取締役としての適格要件を満たしていること

・企業経営に必要な高い見識や強固な意志を有していること

・産業機械事業またはグローバル事業に精通していること

・技術、マーケティング、会計、法律その他の専門性の高い分野において高度や知識や豊富な経験を有していること

・多様な価値観を理解し、積極的に議論に参加できる柔軟な発想や幅広い経験を有していること

独立性基準

当社グループは、招聘する社外役員の独立性について、金融商品取引所の定める独立性の基準を満たすことを前提とした上で、次の要件を満たすことを重視して判断いたします。
 すなわち、当社グループでは、産業界向けの計測・制御機器を国内だけでなくグローバルに事業展開を図っていることから、多様なリスクの認識、事業活動の公正な決定、経営の健全性のために積極的に、重要な経営判断に対して、本質的な議論を促し、経営トップの思惑や社内の潮流などに影響されることない意見や提言を発することで、株主の期待に応え、結果的に企業価値向上に資するために資質として、以下の項目から判断いたします。

・企業経営の経験に基づく高い見識と確固たる自信を有する

・技術、マーケティング、会計、法律その他の専門性の高い分野において高度や知識を有している

・企業の社会性に対する強い倫理観と責任感、正義感を有している

 

 

2016年8月27日 (土)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(34)~2の2 参考書類─役員選任の件(6)~IRやガバナンスの視点で考える(1)

●取締役選任議案は最重要議案

役員選任議案の説明の最初で、“株式会社は株主の出資によってつくられたもので、株主総会が最高の決定機関ですが、実際の会社の経営にあたっては専門の知識・経験を有する経営者が株主の信任を受けて従事します。そのメンバーが取締役であり、監査役といういわゆる役員です。その役員を誰にするかということによって、実際の経営が左右されるわけですから、株主総会において株主の総意により選任されるなど会社法で厳しく規定されています。”と書きました。しかし、最近の株主総会の状況をみれば、定款自治が進んで、かつては株主総会の決議事項とされていた計算書類の承認、剰余金の処分、ある種の株式の発行、簡易な組織変更などといった株主の利害に直接的な影響のある重要事項が、取締役会の権限に委託や委譲されてきてしまっています。これは、取締役会に強い権限を与えて経営の意思決定を迅速にして変化が激しい経済環境で有効な経営施策を打てるようにするために必要なことですが、株主にとっては会社の経営に対して直接的な意思表示をする機会が削られることになってしまいます。つまり、株主が会社の資本政策に懸念があって、剰余金処分の議案に直接反対することができなくなるというわけです。では、そのとき株主はどうするか、残された選択肢は、そういう経営判断をする経営陣の選任に反対するという間接的な意思表示です。その意味で、取締役選任議案は株主にとっては最重要な議案です。そしてそれは、意思表示の最終手段でもあるのです。
 もともと、株主にとって、資金を託す相手として取締役の選任は重要な関心事です。とくに海外の機関投資家が日本企業に投資の判断をする場合には、託した資金がきちんと事業に投資されているかを判断するには、経営陣が信頼できるかどうかに大きく左右されると言えます。

●説明責任と情報開示

定款自治によって取締役会の権限を拡大することによって、株主の意思表示の機会は限られ、株主総会における取締役選任議案の重要度は高まりました。これにともない、取締役及び取締役会の説明責任は今まで以上に重いものとなってきます。つまり、取締役会の施策について今まで以上の株主の理解を得る必要があるからです。それまでは、個々の施策に対して株主が直接異議をとなえることができたわけで、その時々に株主と議論を交わすこともできたわけですが、株主は間接的に取締役の選任において意思表示するしかないということになれば、なにか不明確なところがあれば、取締役会に対して不信任の意思表示をする危険が増すことになります。そのために株主の理解を得ていくためには不断の情報発信が不可欠となるはずです。
 また、投資家が企業に投資判断をする場合に、そのような情報発信に熱心かどうかは判断基準となってくると思われます。

●日本企業の取締役会の特徴

この場合、日本企業の取締役会の多くがマネジメント・ボードで経営執行機能を兼ねているので、業績に対する直接的な責任を負っていることになります。例えば、経営指標としてROEが低い状態が数年続いたのは取締役会の経営判断の誤りということになります。議決権行使助言会社が取締役選任議案に対する賛否の基準としてROEが数年間低い水準に低迷していた場合に、否決の投票の推奨をするのはそのためです。業績を上げることのできない経営陣の更迭を推奨するというわけです。
 これに対して、一部の日本企業や多くの英米型の企業では取締役会はモニタリング・ボードであって、直接業務執行に携わらず、経営の監視を中心として機能を果たしています。仮に、ROEが低迷すれば、取締役会は業務執行者を罷免します。ただし、経営陣が長期的な改善のために数年間のROEの低迷を覚悟して改革に当たった場合に、取締役会は事情を知悉しているわけですから、株主から経営陣を守らなければなりません。それが、本来的なコーポレートガバナンスです。これに対して、マネジメント・ボードでは経営陣が直接株主の批判の矢面に立つことになり、罷免の危険に立ち会わなければなりません。
 現実に日本企業の経営陣が、そのような場面に追い込まれなかったのは、株式の持ち合いや沈黙する個人株主といった日本的な特徴に護られてきたためで、そこに経営陣の慢心が生まれ低ROEに安住していたというのが、海外の投資家の見方でもあります。

●日本企業の取締役選任の特徴

英米企業に一般的なモニタリング・ボードの取締役会であれば、経営陣から独立した機関として、業績ではなく、ガバナンス体制が問われます。具体的には、取締役会が監督機関にふさわしい陣容か、各取締役の資質か、それが取締役会の議論に影響し、経営陣から独立した判断ができるか、という点で株主は取締役選任議案を判断します。この場合に、さきほど見てきたような日本の会社法の要求する取締役選任議案に関する開示情報は有効と言えるでしょうか。それに従って、参考書類を作成している日本企業に対して、海外の機関投資家や意識の高い日本の投資の眼にはどのように映っているでしょうか。
 それには、まず、会社法の前提となっている日本企業の特徴的な取締役の選任を見ておく必要があります。
 日本企業の取締役は会社内の従業員で業績を上げたものが内部昇格によって取締役となることが非常に多いと言えます。これは社内の業務従事者の昇格ですから事業の詳細を知悉し、業務に精通しているというメリットがあります。かつての日本経済が右肩上がりで安定して成長していた時代では、過去の延長線上で経営計画を策定でき、このような内部者により構成される取締役会は強さを発揮することができました。このときの企業の成長は、需要の増加予想に基づく事業の計画的な拡大によるものだったので、地道で継続的な改善を得意とし、現場のオペレーションに強みをもつ日本企業には適合的なスタイルで、それなりに高い競争力を当時は持っていたといえます。
 しかし、経済が低成長の段階に入り、企業活動がグローバル化し、経営環境が短期間で大きく変化するようになると、かつての競争力の源は、むしろ弱点となりました。事業ポートフォリオの組み換え、不採算事業からの撤退、大規模な設備投資や研究開発などの大規模で広範囲な経営資源の再分配が企業経営を左右するものとなってきました。その時に内部昇格者は、自身の出身部門に深く組み込まれているため、再分配によって自らが大きな影響をうけることになり、鳥瞰図のような視点で企業の全体像を客観的に把握し、行動する妨げとなってしまう恐れがあります。
 つまり、従業員としての内部での実績は経営者となったときには、役立つことなく、むしろ足枷となる可能性が指摘されてしまうのです。それなのに、取締役選任議案に関する参考書類では、取締役候補者の内部での従業員の履歴が説明されています。果たして、これが取締役を選任するときの参考になるのでしょうか。

●社外取締役を選任する意味

内部昇格の取締役による前項のデメリットを補完する機能を担うものとして期待されるのが、社外取締役と考えていいと思います。
 社外取締役というと「事業を知らない社外取締役に何ができるか」という否定的意見がありますが、個別事業に対する具体的な提言を社外から求めるのであればコンサルタントに依頼すればいいのであって、それは取締役に託された機能ではなく、社外取締役をコンサルタント程度にしか活用できない取締役会であれば、投資家からの支持を得にくくなっているというのが大方の状況と言えます。実際に、業績が好調で、海外の機関投資家から投資されている企業ほど、社外取締役を必要とし、活用していると言えます。

2016年8月26日 (金)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(33)~2の2 参考書類─役員選任の件(5)法定記載事項その4

⑦社外取締役候補者に関する記載

Row531 社外取締役候補者の場合には、以上の記載事項に加えて、以下の記載事項を追加しなければなりません。一般的には候補者一覧表の欄外に注記として記載されます。

(ⅰ)社外取締役候補者である旨(74条4項1号)

候補者が社外取締役候補者である場合には、その旨の記載が必要です。そこで、注記欄に「取締役候補者○○○氏は、社外取締役候補者であります。」と社外取締役候補者である旨を記載します。

(ⅱ)その者を社外取締役候補者とした理由(74条4項2号)

一般に、社外取締役として期待される候補者の経験・知識等を注記欄に記載しています。

※会社法などでは、あまり重大視されていませんが、本来株主が取締役候補者として妥当かどうかを判断する場合に最も必要な情報と言えます。サンプルにあるように記載に力が入っているとは思えない定型的な記載が一般的です。他でもない、この候補者を選任したいというのですから、他の人と変らないような選任理由ではおかしいはずです。しかも、社外取締役候補者では記載事項としていて、社外ではない取締役では記載事項とされていません。それは、株主や投資家から見れば、判断要因が不足することになるわけです。この点については後程まとめて考えてみたいと思います。

事例サンプル

・○○○氏を社外取締役候補者とした理由は、長年にわたる企業経営者としての豊富な経験に基づき、社外取締役として、当社経営に対して有益なご意見やご指摘をいただけると期待したためであります。

・○○○氏を社外取締役候補者とした理由は、同氏が長年にわたり○○株式会社の経営に携わり、○○業界にも精通していること、その経歴を通じて培った経営の専門家としての知見に基づく貴重な意見を取締役会において提言いただいていることを鑑み、従来の枠組みにとらわれることない視点を当社の経営に反映し監督機能を発揮していただくためです。

(ⅲ)現に当該会社の社外取締役である場合において、当該候補者が最後に選任された後在任中に、当該会社において法令または定款に違反する事実その他不当な業務の執行が行なわれた事実(重要でないものを除く)があるときは、その事実ならびに当該事実の発生の予防のために当該候補者が行った行為及び当該事実の発生後の対応として行った行為の概要(74条4項3号)

上場会社に限る記載事項です。現任の社外取締役候補者が在任中に、その会社で法令定款違反等があった場合にその事実と、その事実とその社外取締役候補者との関わりを開示させるものです。社外取締役候補者が、そのような法令定款違反等を予防する等の活動をとるべきことは最低限の職務であるがゆえに設けられた項目です。その事実とともに事前・事後において社外取締役候補者が行なった予防策及び事後対応の概要を記載します。この場合、開示すべき重要な法令定款違反等にあたるかどうかの判断は、会社が事案に即して判断することになっています。
 実際には「不当な業務執行」とは、役員によるものだけに限らず、使用人によるものも含み、また、必ずしも違法なものには限られず、社内規則に違反する行為も「不当」と評価できるものであれば含まれる、と解釈されています。

(ⅳ)当該候補者が過去5年間に他の会社の取締役、執行役または監査役に就任していた場合において、その在任中に、当該他の株式会社において法令または定款に違反する事実その他不当な業務の執行が行なわれた事実があることを当該会社が知っているときは、その事実(重要でないものを除き、当該候補者が当該他の株式会社における社外取締役または監査役であったときは、当該事実の発生の予防のために当該候補者が行った行為及び当該事実の発生後の対応として行った行為の概要を含む)(74条4項4号)

上場会社に限る記載事項です。社外取締役候補者が他社の役員の在任中に、その他社で法令定款違反や不当な業務執行があった場合のその事実とともに事前・事後において社外取締役候補者が行った予防策及び事後対応の概要を記載します。記載に際しての重要性の判断については前項と同じですが、異なる点があります。それは次の2点です。
 それは対象期間と「会社が知っている」ということです。つまり、候補者が他社において取締役、執行役または監査役に就任していた場合に過去5年間の発生事実で「会社が知っている事実」、そして会社が事案に即して重要と判断した事項について記載します。またその他社における、その事実の記載との整合性にも注意する必要があります。この場合の「会社が知っている」とは、開示事項とされていることを前提として行われる調査の結果として知っていることを指すので、十分な調査を行うことなく「知らない」として整理してしまうことは認められません。

(ⅴ)当該候補者が過去に社外取締役または社外監査役となること以外の方法で会社(外国会社を含む)の経営に関与していない者であるときは、当該経営に関与したことがない候補者であっても社外取締役としての職務を適切に遂行することができるものと当該株式会社が判断した理由(74条4項5号)

上場会社に限る記載事項です。候補者が社外役員となること以外の方法で会社経営に関与していないときは、社外取締役として職務を適切に遂行できると判断した理由について、記載を求められているものです。例えば、弁護士、学者、公務員等過去において会社経営に直接関与したことがない者(社外役員のみの経験者を含む)を候補者としたときは、その候補者が社外取締役として適切に職務を遂行できると判断した理由を記載します。

※元来、社外取締役とはどのようなものか、その機能や海外企業での実例を見た上で、法令で経営の未経験者であっても取締役に会社が選任しようとする理由を、(ⅱ)で社外取締役として選任する理由を説明したうえで、さらに説明を求められているということは、ノーマルなケースではないということと考えても良いと思います。だから、これはよくよくのこと、例外的なこととして、かなりの説明が求められてしかるべきではないでしょうか。少なくとも、IRの視点からは、そのように考えことはあり得ます。しかし、いわゆる法務担当者の株主総会対策には、そういう視点はありません。それは、この項目の各企業の記載事例を見ても明らかです。ここでは、その事例をいくつかサンプルとしてしめしますが、そういう視点での課題については、後でまとめて考えてみたいと思います。

事例サンプル

・○○○氏につきましては、弁護士としての法曹界における豊富な経験・知見を活かした助言・提言を当社の経営に反映し、また独立した立場から監督していただくため、社外取締役候補者とするものであります。同氏はこれまで社外役員以外の方法で会社の経営に関与した経験は有しておりませんが、上記の理由により、社外取締役としての職務を適切に遂行できると判断いたしました。

・○○○氏は○○省や独立行政法人○○において要職を歴任され、国内外の経済の動向に関する高いご見識をもとに、客観的・専門的な視点から、当社の経営への助言や業務執行に対する適切な監督を行っていただけるものと判断しました。

・○○○氏は、過去に社外取締役または社外監査役となること以外の方法で会社の経営に関与しておりませんが、会計監査法人において長年公認会計士として多くの企業における監査実務に関する知識と経験を有しており、他社における社外取締役・社外監査役としての経験も多数有していることから、当社が経営課題として掲げているコーポレートガバナンスの強化に向けて、その知識、経験等を当社の経営に活かしていただきたいと考えております。

(ⅵ)当該候補者が次のいずれかに該当することを当該株式会社が知っている時は、その旨(74条4項6号)

A)当該株式会社の特定関係事業者の業務執行者であること。

B)当該株式会社または当該株式会社の特定関係事業者から多額の金銭その他の財産(これらの者の取締役、会計参与、監査役、執行役その他これらに類する者としての報酬等を除く)を受ける予定があり、または過去2年間に受けていたこと。

特定関係事業者とは次の要件に当てはまるものをいい、これは社外取締役候補者と会社との利害関係を明確にするための開示です(2条3項)。

・当該会社の親会社ならびに当該親会社の子会社及び関連会社

・当該会社の主要な取引先

C)当該株式会社または当該株式会社の特定関係事業者の業務執行者の配偶者、三親等以内の親族その他これに準ずるものであること(重要でないものを除く)。

D)過去5年間に当該株式会社の特定関係事業者の業務執行者となったことがあること。

E)過去2年間に合併、吸収分割、新設分割または事業の譲受け(以下「合併等」という)により他の株式会社がその事業に関して有する権利義務を当該株式会社が承継または譲受けをした場合において、当該合併等の直前に当該株式会社の社外取締役または監査役でなく、かつ、当該他の株式会社の業務執行者であったこと。

上場会社に限る記載事項です。これは、候補者の会社またはその特定関係事業者からの独立性を明確にするため、記載が求められているものです。

(ⅶ)当該候補者が現に当該株式会社の社外取締役または監査役であるときは、これらの役員に就任してからの年数(74条4項7号)

上場会社に限る記載事項です。在任年数についても社外取締役の適性を判断するために必要な情報として記載を求められます。
 社外取締役が長期にわたり同じ会社の取締役会に在籍すると、独立性を失う可能性があると考えられます。過去に自分が賛成した事柄に問題が生じた時に、それを今日否定することは過去の自分の判断を否定することになります。そこには当然心理的な抵抗が生まれます。在籍期間が長期化すれば、取締役会において多くの意思決定に係わるようになり、過去の自分から独立した判断をする余地がだんだんと少なくなっていくでしょう。それに伴い、現経営陣との間にも心理的なしがらみが生まれ、判断の独立性の確保が徐々に損なわれていくことは避けられません。その意味で在籍期間の開示は、株主が社外取締役の独立性の判断をする際の重要な情報となります。

(ⅷ)当該候補者と当該株式会社との間で会社法427条1項の契約(責任限定契約)を締結しているときまたは当該契約を締結する予定があるときは、その契約の概要(74条4項8号)

責任限定契約の内容の概要についても選任議案において開示が必要となります。また、現に責任限定契約を締結していなくても、その予定がある場合には、その予定の内容を記載します。これは、現任者の重任であれば現に責任限定契約を締結していますが、新任の候補者の場合には就任後に契約を締結することになるためです。

事例サンプル

・社外取締役候補者○○○氏が取締役に選任され就任した場合には、当社と同氏の間で、会社法第427条第1項及び当社定款の規定に基づき、会社法第423条第1項に関する責任について、責任限度額を会社法第425条第1項に定める最低責任限度額とする責任限定契約を締結する予定であります。

(ⅸ)以上の社外取締役に関する記載事項についての当該候補者の意見があるときは、その意見の内容(74条4項9号)

(ⅹ)社外取締役を置くことが相当でない理由

これは、上場会社で社外取締役を選任しない場合です。ただし、法令上は株主総会での説明と事業報告への記載を求めていますが、必ずしも参考書類の記載までは求めていません。しかし、取締役選任議案を株主に提出する際に、社外取締役の選任が含まれていないと事業報告では説明されているのに、当の選任議案の中で説明が為されていないのは片手落ちではないかと考えられます。この内容の記載にスペースを取られるというのであれば、最低限として注記において事業報告において社外取締役を置くことが相当でない理由を記載している旨を記載すべきではないかと考えます。

⑧独立役員及び社外取締役の独立性に関する記載

これは法定の記載事項ではありません。コーポレートガバナンスの観点から、社外取締役候補者に関する参考事項として証券取引所の定める独立役員とするかをはじめとした社外取締役の独立性に関する情報を記載している事例があります。以前から議決権行使助言会社から、独立役員についての情報の記載を求めていることに応えて記載する企業が増えているという事情にもよるものと考えられます。また、金商法では有価証券報告書の記載事項として社外役員の独立性に関して企業で基準を定めている場合には開示しなければならないことになっていますし、2015年6月に公開されたコーポレートガバナンス・コードでも独立性に関する開示を企業に求めています。これらのことから、独立役員の明示に加えて、社外取締役候補者の独立性に関する詳細な情報の記載のケースが増えてきています。

事例サンプル

・当社は、社外取締役候補者○○○氏を東京証券取引所に対し、独立役員として届け出ており、同氏の再任をご承認いただいた場合、引き続き同氏を独立役員とする予定であります。また、社外取締役候補者○○○氏の選任をご承認いただいた場合、同氏を新たに独立役員として届け出る予定であります。

 

2016年8月25日 (木)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(32)~2の2 参考書類─役員選任の件(4)法定記載事項その3

Row531 ④就任の承諾を得ていないときは、その旨(74条1項2号)

候補者からはあらかじめ就任の承諾を、就任承諾書への署名捺印によって得ていることが一般的ですが、就任の承諾を得ていないときには、その旨を記載しなければなりません。なお、役員就任について登記をする際に、就任の承諾について就任承諾書かその旨が記された議事録の添付が必要になります。また、株主提案による候補者の場合には重要な情報となります。

⑤公開会社かつ他の会社の子会社であるときの記載事項(74条3項1号、2号)

ここでのサンプルにはありませんが、このような場合の記載事項が法定されているので、ここに挙げておきます。この記載については、候補者一覧表の中の略歴の一部として記載した上で、注記するケースもあります。

(ⅰ)候補者が親会社等(他の子会社も含む)の業務執行者である場合は、当該親会社等における地位及び担当

業務執行者とは業務執行取締役及び使用人等であり(2条3項6号)、親会社等での地位及び担当を記載することが必要です。

(ⅱ)候補者が過去5年間に親会社等(他の子会社を含む)の業務執行者であったことを当該親会社が知っている場合には、当該親会社等における地位及び担当

すでに親会社等の業務執行者ではない場合でも、過去5年間に親会社等の業務執行者であったことを当該親会社が知っていた場合には、親会社等における地位及び担当を記載します。

⑥候補者と株式会社との間に特別の利害関係があるときは、その事実の概要(74条2項3号)

上場会社では、候補者と会社との間に特別の利害関係があるときは、その事実の概要の記載が求められます。これは、候補者が取締役となった場合に職務執行に影響を及ぼすおそれのある重要な事実を記載するという意味です。
 「特別の利害関係」とは取締役候補者と会社との間に競業や自己取引の関係がある場合等を指し、候補者個人と会社との間の関係だけでなく、候補者が代表となっている会社と会社との関係も考慮され、この利害関係が取引関係である場合には、取引の相手方や相手方との取引内容等を記載します。具体的に会社と候補者との利害関係としては、会社の財産の譲受(譲渡)や金銭の貸借など純個人的なもののほか、重要な取引関係、競業取引、利益相反取引、債務保証、係争等が考えられます。また、会社と候補者が役員を兼職する会社との間に、同様の関係等がある場合も同じです。ただし、相手方が100%子会社の場合には、この利害関係は生じないと解されています。
 この記載は、候補者一覧表の欄外に注記として記載されるのが一般的です。なお、特別の利害関係がない場合は、該当がない旨を同じ注記欄に記載します。

2016年8月24日 (水)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(31)~2の2 参考書類─役員選任の件(3)法定記載事項その2

③候補者の氏名、生年月日及び略歴(74条1項1号)、所有株式数(74条2項1号)、重要な兼職の状況(74条2項2号)、現任の取締役であるときの地位及び担当(74条2項4号)その他

Row531 サンプルでは複数の候補者まとめて一覧表にして記載していますが、これらの記載事項はその中で記載されています。それ以外の項目も含めて、項目を見ていきましょう。

(ⅰ)氏名

候補者の氏名は、戸籍上の氏名を記載します。氏名の漢字もこれに従います。例えば戸籍で旧字を使用している場合には、旧字で記載します。とくに、代表取締役の場合には、就任後の役員変更登記には印鑑証明書の添付が必要となるため正確な表記に注意しなければなりません。
 なお、海外機関投資家等の強い要望から、氏名にふりがなを付すことが一般的となっています。

(ⅱ)生年月日

候補者の氏名と同様には、戸籍上の生面月日を記載します。とくに、代表取締役の場合には、就任後の役員変更登記には印鑑証明書の添付が必要となるため間違いによる異同が生じないように注意しなければなりません。生年の記載は元号でも西暦でもかまいませんが、略歴の年月日の記載方法と揃えることに注意します。生年月日が西暦で、略歴が平成○年という記載では戸惑いが生まれます。「○年○月○日」という日付のみ記載もありますが、「○年○月○日生」と記載する例も少なくありません。

(ⅲ)略歴

候補者の氏名、生年月日は人物の同一性を確認するために当然のことですが、略歴は候補者が取締役にふさわしい資格を備えているかを判断するために重要な事項です。略歴の内容としては、明確な定めはなく、候補者の地位、在任年数、経歴等によって適宜記載するということで、各企業で判断しています。実際には、入社年次、歴任した重要な役職及びその就任年月日などを記載するのが一般的です。具体的には、次のようなことが最小限の内容となると考えられます。

A)現任の役付でない取締役及び新任の取締役候補者については、歴任した部長職以上の異動を記載する。

B)現任の代表取締役及び役付取締役については、その取締役としての地位及び担当の異動を記載する。なお、地位及び担当の記載については、事業報告に記載している旨を記載することで、参考書類における記載を省略することができる(73条3項)。

C)中途入社の者については、少なくともその直前の地位または職名をその会社とともに記載する。

D)最終略歴は、参考書類の作成時点での略歴の記載となる。この場合、「現在に至る」あるいは「(現任)」の文言を付加する。

なお、略歴というのはあくまでも過去の実績であり、取締役としての能力とは関係がないという意見もあります。つまり、日本企業に多い内部昇格による取締役就任という特有の環境を反映したもので、従業員としての経歴や能力は、経営者として求められるものとは異質という考え方によれば、候補者が取締役として何ができるかという能力や姿勢が経歴では判断できないという意見です。これについては、後でまとめて考えていきたいと思います。

(ⅳ)候補者の有する当該株式会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)

これは上場会社は記載しなければならない事項ですが、持ち株数は会社への関与の程度を明らかにする情報の一つであり、オーナー経営者かどうかを判断する材料にもなるので、候補者が実質的に所有する株式数を記載します。また、書類株式を発行している会社では、株式の種類及び種類ごとの所有株数を記載しなければなりません。
 この所有株式数については、いつの時点の株式数を記載するかについては、とくに規定されていません。一般的には株式名簿により株式数の確認ができる事業年度の末日時点の株式数を記載します。事業年度末日後に株式を取得した新任候補者に配慮して、この記載を参考書類の作成時点まで繰り下げている例もありますが、その場合には他の候補者の所有株式数も同じ時点のものに揃えます。また、役員持株会での持分があれば、それも加えて記載する例もあります。

(ⅴ)候補者が当該株式会社の取締役に就任した場合において施行規則121条7号に定める重要な兼職(事業報告に記載すべき重要な兼職)に該当する事実があることとなるときは、その事実

これは上場会社は記載しなければならない事項ですが、ここでいう「施行規則121条7号に定める重要な兼職」とは、事業報告に記載すべき重要な兼職のことで、事業報告の記載との整合性が図られています。この重要な兼職の状況を記載事項としているのは、公開会社では候補者が取締役となった場合に、精力を集中できるかという判断や利益相反が生ずる可能性を明らかにすると考えられます。
 この「重要な兼職」の判断時点は、株主総会参考書類の作成時点とされています。ここでいう「候補者が当該株式会社の取締役に就任した場合」とは、株主総会参考書類の作成時点において、候補者が会社の取締役に就任したと仮定した場合という意味です。候補者の兼職先での地位の異動の可能性もあるので、実務においては、参考書類を作成する時点で候補者が取締役に就任した場合を想定して記載することとなります。候補者が就任時までに、または就任後間もなく、現在の重要な兼職から退任する予定が明らかとなっている場合は、記載は不要と考えてもいいでしょうし、逆に、重要な兼職となる他の会社等の兼職への就任が予定されている場合には、その就任予定を記載することも考えられます。
 「重要な」兼職であるか否かの判断については、兼職先の会社が取引上重要な会社であるか否か、候補者が兼職先の会社において重要な職務を担当するか否か等を考慮して判断すべきとされています。
 重要な兼職の参考書類への記載は、他の略歴とあわせて略歴中に記載する方法と、略歴と区分して「重要な兼職の状況」と小見出しを付し別途記載する方法があります。いずれの方法をとっても、事業報告の役員の状況に記載の「重要な兼職の状況」との整合性に注意しなければなりません。

(ⅵ)候補者が現に当該株式会社の取締役であるときは、当該株式会社における地位および担当(74条2項4号)

これは上場会社は記載しなければならない事項ですが、候補者が現に会社の取締役である時は、会社における地位及び担当の記載が求められます。一般的な記載方法は、略歴と合わせて記載して、「略歴、当社における地位及び担当」として、現在の地位及び担当のところで、「現在に至る」か「(現任)」を付け加えて、それと分かるようにしています。
 また、同じ事項を事業報告に記載している場合には、株主総会参考書類にその旨を記載して、省略してしまうことも可能です。

(ⅶ)法定以外の記載事項

以上が法定で記載しなければならない事項ですが、この候補者の一覧表では、それ以外に、よく記載されているものがあります。それを以下で見ていきたいと思います。

A)候補者番号

書面投票は議決権行使書に賛否をかきこむことで投票しますが、取締役選任議案の場合は候補者が複数いれば、それぞれの候補者について賛否を投票するため、行使書面には候補者ごとに投票欄が設けられています。その際、議決権行使書は通常はハガキというスペースの制約を受けるため、株主総会参考書類に記載の候補者一覧に候補者番号の欄を設けて、各候補者に番号を付して、行使書面には、その番号に対しての賛否を記入する方法がとられています。

B)新任候補者であることの表示

取締役候補者が、現任の再任ではなく、新任である場合には、その旨を記載することが多い。または、氏名欄や候補者番号欄に「*」印等を付けたうえで、注記で説明する方法もあります。

C)候補者の記載順序

とくに順番に関しての定めはありませんが、株主が候補者の一覧表を見るときに識別し易いように次のような順番で記載するのが一般的です。

・現在の序列に従う方法:再任候補者を現在の序列で記載した後、新任候補者を就任後の予定序列に従って記載する。

・新たな序列に従う方法:株主総会後の取締役会での予定序列に従って記載する。

・五十音順に従う方法:候補者氏名の五十音順に記載する。 

2016年8月23日 (火)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(30)~2の2 参考書類─役員選任の件(2)法定記載事項その1

Row531 ここでは、取締役選任議案を中心に見ていきたいと思います。監査役選任議案は、取締役選任議案とほとんど同じですが、若干の点で異なるところがあるので、後で別に異なる点を中心に見ていきたいと思います。
 見本として、いわゆる参考書類のモデルをサンプルとして、それに即して説明していくことにします。まずは、サンプルの中で赤字で番号を振った項目ごとに説明しますので、サンプルと照らし合わせながら読んでいただきたいと思います。

①議案(73条1項1号、以下法令名が省略されている場合は会社法施行令)

ここには、通常は、株主総会で決議すべき事項が議案として記載されます。この場合、狭義の招集通知において会議の目的事項の決議事項として記載されている事項と異動がないように注意しなければなりません。そうでないと、議題が異なるという誤解を招く危険が生じます。取締役選任議案における決議事項は次の点です。

(ⅰ)選任する取締役の員数(「○名選任」するということ)
 (ⅱ)取締役候補者の氏名

②提案の理由(73条1項2号)

取締役の選任の場合には、人数を含め、選任を必要とする理由が提案の理由に当たると考えられます。

(ⅰ)退任により選任する場合

取締役の退任により、改めて選任を行う場合(再任を含めて)、現任取締役や期中に退任した取締役の退任の理由(任期満了、辞任、死亡など)及び退任取締役の氏名、退任時期(任期満了の場合は「本総会終結の時をもって任期満了となる」)を記載します。また、全員が任期満了の場合には、退任取締役の個々の氏名を省略して「全員」と記載することは差し支えありませんが、この「全員」の後に「○人」と付け加えることで、提案している選任する取締役の員数との関連(同数か、減員か、増員か)を明確にしているのが一般的です。そして、同数選任では必要ありませんが、減員あるいは増員の場合には、その理由を記載することになります。

(ⅱ)増員の場合

新たに取締役を選任する場合には、取締役の任期が1年の場合には、上記の「退任による選任」時に増員ということになりますが、取締役の任期が2年の場合には、任期満了ではない年度の取締役会で新たに取締役を選任することもありえます。そのケースも取締役の人数が増えるわけですから増員に含めます。
 この場合、増員の理由を記載します。例えば「経営体制の一層の強化のため」「取締役会の監督機能の強化のため(社外取締役の場合)」「組織体制変更にともない」など

(ⅲ)減員の場合

減員の理由を掲載します。例えば「組織体制変更に伴い」「意思決定の迅速化のため」「経営のスリム化を図り」など

(ⅳ)指名委員会の決定に基づく旨

指名等委員会設置会社では、取締役の選任及び解任に関する議案の内容は、指名委員会が決定するため、その旨を記載します。また、今後、監査等委員会設置会社に移行した会社が任意の委員会に取締役候補者の指名を諮問するケースが生じてきますが、この場合この記載に準じたものとなると考えられます。

※このような取締役選任の提案をする理由というのは、このような取締役を選任したい理由であり、上で説明した取締役の増員や原因の理由を説明するというのは、取締役会の規模をこうするという説明ということになります。そこには、会社が取締役や取締役会をこうしたいという経営方針に基づいて、こうしたいという説明ということになります。それは、また海外機関投資家をはじめ企業の将来に投資を検討している人にとっては知りたい情報というだけでなく、株主が取締役の判断をする際にも必要な情報であるはずです。詳しくは後で検討しますが、ここでは、ひとつのサンプルとして富士電機の参考書類の4ページを参照していただきたいと思います。

2016年8月22日 (月)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(29)~2の2 参考書類─役員選任の件(1)

●役員の選任について

株式会社は株主の出資によってつくられたもので、株主総会が最高の決定機関ですが、実際の会社の経営にあたっては専門の知識・経験を有する経営者が株主の信任を受けて従事します。そのメンバーが取締役であり、監査役といういわゆる役員です。その役員を誰にするかということによって、実際の経営が左右されるわけですから、株主総会において株主の総意により選任されるなど会社法で厳しく規定されています(主な内容については「役員の選任について」を参照)。そこで、株主は取締役を株主総会で選任のための判断ができるような情報を取得している必要があります。そこで、会社法施行規則では参考書類において取締役と監査役の選任に関する記載事項を、これだけは記載しなければならないとして、規定しています。
 他方、株式会社の経営を考えた上で、取締役の選任というのは会社の成長や存続に重大な影響を与えるもので、株主以外のステークホルダーにも大きく係わるものです。また、これからその会社に投資をしようとする人にとっても、その判断の際に多大な関心を払うことなるものです。そういう視点でみれば、役員の選任について法律に従っているという最低基準を満たしているだけで十分なのか、これは参考書類における法定の記載事項だけで十分なのかという議論も含めて、最近大きく取り上げられてきています。私も、このような議論を踏まえて企業が積極的になることは、リスクはありますが、企業にとって決してマイナスにはならないと考えます。したがって、これについては、法定の参考書類の議論の中でも少しずつ触れながら、最後にまとめて言及します。
 それでは、次回から法定の記載事項から見ていきましょう。

2016年8月18日 (木)

オリンピックのレスリングの魅力がわからない(つまんない)

オリンピックの中継放送でレスリングを見た。日本人が金メダルをとったのはおめでとうだけれど・・。この競技、ゲーム面白いの?スポーツなのに、全然動きがないし、躍動感も、身体の動きの激しさや美しさもかんじられない。何が魅力なの?放送を中継している解説者も見ている人のことを全く無視して、レスリングの業界の人なのだろうか個人的な応援ばかりしている(伊調さんのゲームの終盤の逆転は明らかに相手の戦略ミスで、最後の1分間逃げていればよかったのにそうしなかったのは、伊調さんの仕掛けとか、何か作戦があったのか、そういうゲームとしての興味にこたえるくらいことは解説者として当然、期待されていることだろうけれど、歓声をあげるくらいしかしないのであれば、邪魔でしかないし、競技としてのつまらなさに、話す話題もないのかとして、つまらなさに拍車をかけている)し、つまんなかった。日本人がメダルをとっているので、見る人はいるかもしれないが、そうでなければ誰が見るの?と思う。テレビ局もよく分かっているのか、ゲームそのものよりも優勝者のインタビューと表彰式の映像ばかり流していた。卓球もそう。オリンピックは、スポーツのイベントだよね。表彰式とインタビューのイベントではないよね。みんな、そっちの方が好きなのだろうか。たとえば、イチローのインタビューなんか見るより、彼のバッティングの流れるような動きを何百倍も魅力的で、そっちの方を見ていたいと思うけれど、レスリングも卓球もそういうところがない。私の個人的な好みなのかもしれないけれど

2016年8月10日 (水)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(28)~2の2 参考書類─剰余金処分の件(8)配当の方針の開示の試み

●ある視点からの配当に関する方針の開示

現時点では、実現が難しそうなことを建前論でしかないという批判を覚悟の上で、書き連ねてきました。ここまで述べてきたのは、ややもすると実際に企業現場で為されている努力をことごとく批判して、批判のための批判で、建前とし正論を立てているに過ぎない、とい受けられれても仕方のない内容となっています。それでは、実務の視点でページを作成している意味がなくなりますので、ここで、ひとつの試みをしたいと思います。配当の関する方針といっても企業によって、措かれた環境や経営の方向性など千差万別なので、全般的なモデルをつくるのは不可能と思われるので、ひとつの立場の上に立って事例としてのモデルを試みにつくってみたいと思います。 

当社経営の状況に対する基本認識と株主の皆様に対する基本姿勢 

資本政策の基本方針

当社グループは1950年の会社設立以来、製造業向けに計測・制御機器を提供することで産業界に貢献し、事業を成長させてきました。当社グループの機器は製鉄所をはじめとして様々な工場の生産ラインで稼動し、日本の工業製品の高い品質を支える一翼を担っているものと自負しております。もし、何らかの事故などにより当社の製品やサービスの供給がストップした場合には、各地の工場の稼動に関して大きな影響を受ける懸念があり、当社グループにとって、経営の安定はユーザーのニーズであり、当社グループの強みである顧客の信頼の大きな基盤となっているものです。
 このような当社グループの業態の要請から、安定した経営基盤を確保した上で、持続的な成長に努めていくことが当社グループの基本的な経営姿勢となっております。
 資本政策に関しても、このような経営姿勢の一環として位置づけております。それは、収益性を向上させ、効率を上げることにより資産回転率を改善することにより資本効率を改善して、株主価値を高めていくというものです。とくに、当社で力を入れるのは、総資産に対する売上高の比率を高くしていくことです。これにより資本回転率が向上するだけでなく、派生して収益性も高まることになって、最終的にROEの改善に結実するからです。さらに、IRの推進と配当政策等の株主還元を総合的に進めることによって、少なくとも株主資本コストを上回るように、株主価値を持続的に向上させて、ついには最大化を目指していくものであります。

Inv5_3

 当社の現状  

Row5324_2  当社グループは、堅実な財務政策と企業努力の積み重ねにより、内部留保を厚くし、自己資本比率を高い水準で維持してきました。(下のグラフは最近5年間の自己資本比率の推移を示しています。)その主な理由(メリット)として、次の3点が上げられます。 

①受注から売上までのリードタイムが半年~数年と長期間で、売上を現金として回収するには更に期間を要し、その間の仕入れの負担のような安定した事業運営には、現金の備えを手厚くする必要があったこと。

②当社はもともとユーザーが資本を出し合って設立された会社で、B to Bの事業形態をとっているため、事業を拡大するための戦略の一環として資本政策を機動的に行ってきたことから、保有している投資有価証券が多くなっていること。

③安定した財務基盤をベースに長期的な視野にたった研究開発や事業展開ができることで、他社が入ることのできないような開拓の困難な市場にフロンティアとして入ることを可能にしていること。

④外注や仕入先への支払を現金払いとすることにより、業者の経営の安定と信頼関係の強化を図り、協同で技術開発やコスト削減を進めるなど、質の高い協力体制をかためることができていること。 

Row5325 その一方で、自己資本利益率(ROE)は、上図の通り低い水準を続けています。これは、ちょうど資本コストと同じ程度の水準となっているため株主価値が創出されていない状態にあります。これを補完する機能も含め、配当政策は資本政策の一環として併せて株主価値向上を総合的に図って、企業努力を続けています。

 

資本政策上の課題

①売上高純利益率の改善

当社のROE改善のための最も大きな課題は、一般に日本企業が欧米の企業に対してROEが低いと言われる最も大きな要因として指摘されている、本業での「儲ける力」が強くなくなってきているということです。端的に言えば、そのためにすべき最大の課題は売上高の伸長です。ROA、つまり総資産に対する売上高を増やしていくことです。これは、当社の本業である事業の成長をより強く進めることに他なりません。現状では、総資産額よりも年間売上高が少ないという、資産が回転していない状態にあり、また、利益を伸ばすためにはそのベースである売上高を増やすことがまず必要になります。それゆえ、売上高の伸長は最大の経営課題であります。なお、詳細については事業計画を参照してください。 

②総資本回転率の改善

総資本回転率の改善についても主要な課題は売上高の伸長です。しかし、それだけでなく資産効率の向上ということで、キャッシュフローの創出にも関わることとして、次の2点を課題として注力していきます。

・売上債権回収の促進

・棚卸資産削減施策の継続⇒より一層の適正在庫として回転率4回転以上を目標

③最適資本構成の模索

一般に、日本企業は自己資本比率を高めて財務の安定性を重視しているのに対して、欧米の企業は財務レバレッジを高めてROEを高めていると言われています。当社も高い自己資本比率で財務の安定性を重視しています。これには、受注から現金回収までのリードタイムが長期間で、その間の運転資金を確保しなければならないことと、事業の将来のために一定以上の規模で開発投資を継続させる必要があるためです。しかし、最適資本構成は常に模索しており、内部留保の調整弁として、株主に対する配当政策も活用しています。 

利益還元に関する基本方針 

Row5326 当社グループは株主価値の最大化を目指し、その持続的な向上に努めています。基本的には業績及び収益の向上によりROEの向上による株主価値創造に努め、そして業績及び収益の向上により得た現金を株主に対して継続的かつ安定的な利益還元を行う株主還元をこれに補完させることで、トータルとして株主資本コストを上回る価値創造を図って努力を続けています。とくに、中長期的な視点で投資してくださる株主の皆様には、創業期を過ぎ急激な事業の成長というよりは、長期にわたり事業を継続してきたという会社の性格から、中長期の視点で投資してくださる株主の皆様には、持続的に事業を成長させることにより配当額を増やし続けていくことによるトータルとしてリターンを考慮していただけるものと考えております。
 現在の指標としての配当性向は、このような政策的な考慮に基づき、株主の皆様の期待値の側面もある資本コストを越えるリターンを図り、当社グループの状況とのバランスを勘案した末のものであります。
 実際の株主還元としては、剰余金の配当と自己株式取得の二本立てで進めます。このうち利益の還元は基本的に剰余金の配当をもって行い、中間と期末の年2回の配当を行います。そして、経営環境の変化に対応して自己株式の取得を機動的に行います。  

剰余金の配当についての基本方針

 株主還元の基本方針に則って、株主に対する配当は安定配当性向を原則として、単体業績に対して配当性向35%以上を堅持することを方針としています。これは、現時点において当社の自己資本利益率(ROE)が高い水準にあるとは言えない状態にあるため、配当金により株主へのリターンを補完する意図によるものです。現在の状況では配当性向35%ではおおよそのところで自己資本利益率(ROE)に換算すると1%に相当するものと考えられ、これによって株主に対して資本コストを上回るリターンを確保できると考えられるためです。さらに、過去の配当実績を見てもらうと、配当性向35%を大きく上回るケースが多くなっていますが、一定程度額以上の配当を続けることで安定した株主へのリターンと内部留保から供出により長期的な最適資本構成化も進めています。

2016年8月 9日 (火)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(27)~2の2 参考書類─剰余金処分の件(7)配当の開示を考える

●配当に関する積極的な開示に対する考え方

配当に対する考え方を開示する企業が増えて、企業それぞれで様々な実例が出てきています。それは、ひとつには指名等委員会設置会社や、それ以外の会社でも定款で配当に関する決議権限を取締役会に託す規定を設けた会社は、株主総会で配当議案を上程しなくてもいい代わりに、取締役会での配当に関する決議を報告するとともに、どのような方針で配当を決めるのかを事業報告で開示しなければならないことになっていることも原因していると考えられます。そして、さらに、金商法による有価証券報告書で配当に関する方針の記載が義務付けられ、上場会社は証券取引所の規則で決算短信に定性的情報として、配当に関する方針を記載するようになっています。これらのことから、参考書類においても配当に関する方針を、それとして記載したり、配当議案の提案理由の中で、配当に関する方針を挿入するなどして、記載する事例が増えてきています。例えば、次のような事例はどうでしょうか。

事例サンプル

当社は安定的な配当の継続を重視し、業績動向及び配当性向などを総合的に勘案して利益配分を決定しており、また、企業として財務体質の強化と将来の利益確保に備えるべく内部留保にも努めております。配当につきましては、単体ベースでの配当性向30%を目処に、連結業績も十分考慮した上で、将来の事業展開及び収益水準を勘案し決定しております。
 当期の剰余金の処分につきましては、上記の基本方針に基づき、以下の通りといたしたいと存じます。
 なお、当期の期末配当につきましては、業績が堅調に推移いたしましたので、株主の皆様からのご支援にお応えするため、次の通り1株につき●円とさせていただきたいと存じます。これにより、中間配当金を加えました年間配当金は、前期に比べ1株につき●円増配の●円となります。

上記の事例で、前半の部分が配当に関する方針として、現在のひとつのスタンダードなものと言えるのではないでしょうか。
 しかし、これで、株主から配当が少ないといわれた時に、この方針に従っているからというのは、回答になるでしょうか。それで押し通すことも可能かもしれませんが、この場合に、例えば30%という配当性向が低いのではないか、と問われたときに配当性向を30%とした理由が、ここでは説明されていません。実際のところ、配当性向の数値は開示しても、その根拠まで開示しようとしている企業はありませんし、あえて試みようとして配当性向とは別の、独自の指標をつくったエーザイのような先進的な会社を別としても、です。
 ここで、配当性向を30%とした理由をちゃんと考えて説明しようとすれば、会社の経営方針に遡ることになるはずです。株主への分配、株主還元を会社としてどうしていくかということであれば、資本政策の大部分と重複するものです。かりに、剰余金の処分以降のところに限って考えていってみれば、ある事業年度において、会社が利益を残したとします。これをどのように分配するか。それを将来の事業展開や製品開発の計画があって、そのための投資とするということであれば、それは経営における再投資の、いわば中期経営戦略です。また、従業員に利益を還元して、モチベーションを高めたり、優秀な人材を引き留めたり、逆に賃金水準を高めることで引き寄せたりすることもあるでしょう。この場合は、ステークホルダーに対する方針として従業員を重視するという経営方針とも大きく関わることです。また、少なくない企業が内部留保を分厚く蓄えていること自体を海外の投資家から非効率と批判されることもありますが、その理由についても、上記の事例のように一応の理由をあげていますが、それではどの程度まで内部留保として確保すればいいと考えているのかという方針は、配当性向の数値は出しているにもかかわらず、内部留保率(と限る必要はありませんが)のような数値を明らかにはしていません。しかし、投資家は、そういうことを一番知りたいのです。つまり、剰余金を分配する際に、どのように考えるかということを株主に説明しようとすれば、中長期の経営戦略やステークホルダーに対する基本方針まで説明しなければならない、そこまでは遡らないとしても説明には当然そこまでの根拠があるはずで、それを偲ばせるものであるわけです。ということは、配当性向を30%として配当金を株主に分配した後、会社の姿はこうなっていくということがビジョンとしてイメージできるものであるということです。
 また、ここで考えてみたのは剰余金を生んだ後のことですが、そもそも会社がたくさんの利益を計上して、剰余金が増えれば、分配すべきパイが大きくなるわけで、そのために会社が何をしていくかというのは、実は配当金額に大きく関わることであるはずです。ここでは、その方針の説明を省いたところで考えました。

2016年8月 8日 (月)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(26)~2の2 参考書類─剰余金処分の件(6)IRガバナンスの視点で剰余金処分を考える

●IRやガバナンスの視点で考える

●剰余金の配当は株主からはリターンに直接係わる重要議案

言うまでもなくある企業に株式投資をした場合に、得ることのできるリターンは株価の上昇(キャピタルゲイン)と配当(インカムゲイン)の二つです。もちろん、企業への投資には様々な動機があり、この二つのリターンだけが目的であるとは必ずしも限りませんが、少なくとも投資ですから経済的なリターンが動機に含まれないということはありえないと言えます。
 このうち、株価については、企業の業績はもちろんですが、それだけでなく景気変動や為替を含めた金融事情などのマクロ的な要因、それらに対していみじくもケインズが言ったように、株式投資は美人コンテストと同じで、皆は美人に投票するのではなく、皆が美人と思うだろうと予想される人に投票するというように株式市場において様々な思惑が交錯し、変動するものと考えられます。したがって、企業が努力しただけでは株価が上昇するとは、必ずしも限りません。翻って、投資した株主が、企業に努力を求めたり、経営戦略に意見を述べることはできても、それが株価に反映するものではありません。
 しかし、これに対して配当については、株主総会の議案であるかぎりにおいては、議場で修正動議を提出したり、賛否の投票をすることによって、直接、そのリターンの決定に参加することができるものです。また、この配当議案の根拠となるのは企業業績や将来の成長可能性であり、この議案を契機として株主と企業の間で対話を始めることもできるわけです。だから、配当が少ないと判断すれば、株主は投票で否の意思表示ができるわけです。

●会社からは議案の説明を契機に資本政策や経営方針を株主に理解を得ることができる

これは、株主に対して会社の側からは配当に対する考え方を株主に理解してもらえれば、株主総会の場においても会社提案に対して一定の理解を得ることを、前以て期待できるということでもあります。これは、今後、企業相互の株式持合いの解消が加速し、海外からの投資が増えていく方向にあり、企業の配当を含めた資本政策に対して厳しい視線が注がれることになるだろうと予想される中で、これに積極的な開示の姿勢を示す企業は、株式市場での資金調達だけでなく、M&Aや、はてまた市場での企業防衛の見地からも得るメリットは小さくないと考えられます。

●安定配当という欺瞞

これまで、企業が配当に関する方針を積極的に説明することなく済まされてきたのは、ひとつには、株式の持ち合いなどによって株主総会での定足数が足りていたため議案に対する賛成を計算できたことと、各企業が横並びのように一定額を配当する、いわゆる「安定配当」が行なわれてきたことが理由として挙げられます。各企業が同じような配当をするため、配当によって投資先である企業を差別することが難しいため、投資する側としては配当に対する期待が相対的に低かったと言えるかもしれません。これは高度経済成長といった日本経済が右肩上がりで成長していた時代に、どの企業に投資しても、それなりのリターンが得られた時代のことで、現在のような低成長に入って、企業によって業績や将来性に大きな差が現れてきたときに、現実的とは言えなくなっていると考えられます。
 そもそも「安定配当」の由縁を考えてみると、昭和初期の戦時体制で自由な資本主義経済を否定して投資資金の流れを国家が集中管理しようとする計画経済の思想の下に作られた制度なのです。かいつまんで言うと、株式に投資される資金の流れを銀行預金の方に持って行くために、企業の株主へのリターンを国家が法律で規制してしまって、銀行を国家が管理することによって軍費を調達したというものです。これは、敗戦後も継続し、戦後復興や高度経済成長で鉄鋼や石炭産業への投資を集中させる経済政策ための資金を供給するために機能したといいます。つまり、安定配当ということは、もともと結果的ではあるにせよ、企業が投資家を蔑ろにした制度が現在まで温存されたものと言うこともできるのです。
 だから、安定配当の本来的な存在理由を顧みれば、企業が株主へのリターンとして安定配当を標榜しようとすれば、本来的な安定配当の意味合いではなく、株主を蔑ろするものでないことを明らかにしなければならないと考えてもいいのではないでしょうか。
 なお、安定配当について詳しい説明は「安定配当について」の先日の投稿を参照してください。

2016年8月 7日 (日)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(25)~2の2 参考書類─剰余金処分の件(5)安定配当を考える

●安定配当について考える

●安定配当とは何か

企業から株主に支払われる1株当たり配当金を長期にわたって一定額に保たれることを言います。通常、株主に支払われる配当金は、株式を発行している企業の業績によって変わってくるのが原則です。これに対して、安定配当は、企業の利益の変動にもかかわらず、一定の金額を配当するものです。一般に安定配当は、企業にとっては株主構成や株価の安定に寄与し、株主にとっては固定収入源として計算できるメリットがあると言われています。

●日本企業の安定配当の由縁を考える

①ルーツは第2次世界大戦前

1937年の日中戦争により、日本国内は戦時体制に入りました。この時、小国であった日本にとって戦争遂行のための財源確保のために、企業の配当を通して消費に回された資金の流れを、資本を蓄積し、それを軍需産業へ集中的に配分することを行います。そのために、商法改正により株主の権限を制約します。さらに翌年の国家総動員法により企業の配当を制限し、増配企業には主務大臣への届け出が義務化されました。配当と利益の連動は切断され、資本家から企業を解放するとして、取締役は従業員出身者が占めることとなり、資本市場への依存度を下げ間接金融による資金還流のコントロールが始まりました。これがメインバンク制の源流と考える人もいます。当時の世界的なインフレを避けるため価格統制を行ったことにより企業の利潤が低下し、「経済新体制確立要綱」が示され、企業の目的は資本の要求に基づく利潤の追求から計画生産の達成に移りました。そのために経営者を株主の要求から解放し、増産に専念させる。限界ある国内の資源を効率的、集中的に軍需産業に振り向ける措置であり、この結果日本企業特有の従業員重視の経営スタイルや負債中心の財務構造はこのような事情で形成されたと考えられます。

②戦後復興によりエスカレート

敗戦により日本国中の資本蓄積は破壊された戦後の復興には、さらなる集中的資源配分が必要とされました。そこで、戦後の復興政策では戦時体制の資金提供者、経営者、従業員の企業内におけるパワーバランスをむしろ進展させ、銀行の監督下による企業再建を推進しました。いわゆる傾斜生産方式です。そこで、日本企業は株主資本に報いるというインセンティブを失い、国家指導の強い管理下で資源配分を余儀なくされるという市場原理とは全く異なる価値観によって経営理念が形成されていったことになります。
 この間、配当に対して政府による法的な規制が課せられ、企業は自由に配当を決められない状況が続きました。

③経済成長と株式の持ち合い

昭和25年の朝鮮戦争勃発に伴う特需が戦後復興のスタートとなりましたが、政府は経済自立のために産業合理化を推進する方策を打ち出し、鉄鋼業を中心として、そのための設備投資を進める政策を取ります。いわゆる傾斜生産方式と呼ばれるその政策は、鉄鋼業に集中的に投資を行い鉄材をエネルギーである石炭に振り向け増産した石炭を鉄鋼に振り向け、鉄鋼を材料とする機械や耐久消費財の製造に波及させていくというものでした。これらは、いずれも大型の長期投資を必要とする産業であったため長期資金の確保が必要となりました。
 これらの資金の源は家計に求める他はありません。一方では企業に巨大な資金需要がありながら、当時の家計には余剰資金は不足していました。そのため株式等に投資して長期資金を提供する余裕はなく、そのため、銀行が預金の形で家計から資金を吸収するための様々な制度設計(金融規制)がなされました。その結果、企業の長期資金の調達方法が主として銀行経由が主となっていきました。
 一方、財閥解体等の政策で持ち株会社の解体によって放出された株式の保有者はそれらの会社の社員が中心でしたが、徐々に市場で売却され、株式市場が押し下げられる結果となり株式市場は低迷します。そこで、各企業は安定株主対策を講じます。いわゆる持ち合いです。これを可能としたのは、資金調達の場として株式市場の必要性が低かったためといえます。

④抑えられた資本コストと政策目的の株式保有による期待リターン

高度経済成長の原動力となったのは企業の旺盛な設備投資活動でした。この設備投資により増産した製品はアメリカ等の海外市場に輸出され、さらなる生産量の増産を生み出していきます。その際に、資金は間接金融で限られた余剰資金を政策的に集中して低金利で投下されました。一方株主資本コストも人為的に抑えることで、設備投資の促進、国際競争力に資することとなりました。つまり、メインバンク制度、株式の持ち合い、生命保険や事業法人による政策的目的による株式保有という投資による財務リターンを主目的としない株式保有は投資の期待値を抑えることで資本コストを低く抑えることができました。
 その一環として安定配当を捉えることができます。その実際的な理由は、株主としてのメインバンクが株式を安定保有するための条件としても貸出の実効金利を下回らない配当利回りを要求したことです。また、生命保険などの株主は市場で頻繁に株式を売買してキャピタル・ゲインを求めないため配当が事実上経営的に投資リターンの中心であったため株式投資の元本を簿価で捉え、10%の配当が安定的に得られる仕組みは、株式を疑似確定利付証券として位置付けられることができたわけです。
 安定配当の理由は、これだけに限定されるものではありませんが、ひとつの考え方として受け取っていただきたいと思います。

2016年8月 6日 (土)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(24)~2の2 参考書類─剰余金処分の件(4)配当政策を考える

●配当政策の面から見た配当金の考え方

配当に関する企業の戦略を配当政策といいます。この配当政策は、各企業の置かれた環境や経営状態によって違います。その際に考慮される要素や配当のメリットを以下に簡単に上げていきます。

①企業のライフサイクルによって配当政策は異なる

一般に、高配当=低成長(キャッシュを投入すべき投資案件が少ない)、低配当=高成長(キャッシュを投入すべき投資案件が多く、配当にキャッシュを回せない)という傾向が見られます。グーグルに配当金を要求する株主は少ないでしょう。逆にP&Gのように数十年にわたって配当の増配を続けている企業もあります。

②安定配当による効果

経営者の中には、会社の業績に連動した配当よりも安定した配当を目指す傾向の人も多い。減配は資本市場に嫌われ、株価が下がるケースも多いので、いったん配当を引き上げたら簡単には引き下げられないと経営者は分っているので、保守的に安定配当を目指すというわけです。特に日本では配当金の変動と株価の変動の相関関係が強いと言われています。日本における配当の株価への影響度は、米国と比べ3倍とも言われています。投資家には配当選好の強い投資家がいるので、そうした顧客ニーズに合わせて配当することで株価に良い影響がでて、結果として配当が価値を創造することもあるわけです。

③アナウンスメント効果

例えば、増配は将来にわたっての持続的な収益向上に経営陣が強い自信を示した証と解釈されて、株価が上がることがあります。また、業績が落ち込んだ時に、配当を減配としないでいると、経営陣は業績悪化は一時的で回復への自信がある証拠と解釈されて株価の低下を抑えることがあります。これをアナウンスメント効果と呼びます。

④配当割引モデル

投資家の中には、投資家が享受する株式投資からの便益、あるいは価値は未来永劫の流列の中では、究極的には投資家の受領する配当金の流列に帰結するという企業価値評価の考え方を持つ人もいます。この評価モデルを配当割引モデルといいます。これは株式を売却しない限り、投資家が現実に投資の果実として受け取るのは現金配当だけという前提で、こうした手法を使う投資家は基本的に配当を好みます。

⑤残余利益配当方針

結局のところ、余剰利益のうちいくら配当として現金払いするかは、投資機会と最適資本構成によるという考え方です。投資家は自分で再投資する以上の投資案件があれば低配当を受け入れます。一方で、企業に本業への投資機会がなく、自己資本を高める最適資本構成上の必要性もなければ、投資家は高配当を要求するわけです。ただし、一般に、企業サイドに本業で良質な(資本コストを上回る)投資案件があれば、できるだけ投資案件を利益や内部留保でまかない、もしそれで当期利益が余れば残りを配当するというのが、この方針の基本になります。ファイナンス理論に長けた機関投資家はこの方針に賛同する傾向にあります。

2016年8月 5日 (金)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(23)~2の2 参考書類─剰余金処分の件(3)配当とは何か?

●配当とは何か? 

企業は企業価値の向上に資する積極的な投資を可能な限りまかなったうえで、なお余剰資金がある場合には、企業は毎年、純利益や利益余剰金から株主還元を行います。株主還元には、一般的には、配当と自己株式の取得の2つがあります。企業が基本的に当期純利益の一部を現金で株主に分配することを配当といいます。
 この当期純利益に対する配当の割合を配当性向と呼び、配当を株価で除したパーセンテージを配当利回りと呼びます。

配当性向(%)=配当金÷当期純利益
  配当利回り(%)=配当金÷株価

●剰余金の配当についての会社法の基本的な考え方

会社法では453条で「株式会社は、その株主に対し、剰余金の配当をすることができる。」と規定され、旧商法において「利益の配当」とされていたのと異なり、「株式会社の配当財産を株主の有する株式数に応じて分配する行為」として規定されました(会社法454条3項)。旧商法の下では、株主に対する会社財産の分配を行う場合は、株主総会決議による利益処分としての「利益配当」及び取締役会決議による「中間配当」に限られていましたが、会社法では所定の財源規制の下、1事業年度中に回数の制限なしに実施することができるようになりました。
 これに対する株主の「剰余金の配当を受ける権利」(会社法105条1項1号)は、従来からの株主の権利(自益権)のうちでは最も基本的なものの1つとして位置づけられていますが、一方では、株主有限責任原則の制度的裏づけとしての会社債権者保護のため、分配可能額の制限等の財源規制が課せられています。

①剰余金の配当の決定
 剰余金の配当は、その都度株主総会決議で行うというのが会社法の原則です(会社法454条1項)。ただし、次の2点については例外として取締役会の決議により決定することができます。

(ⅰ)中間配当

    取締役会設置会社は、1事業年度の途中において1回に限り取締役会の決議によって剰余金の配当をすることができる旨を定款で定めることができる(会社法454条5項)。いわゆる中間配当です。

(ⅱ)分配特則規定

    次の2つの要件を満たす場合は、株主総会によらず、取締役会決議で剰余金の配当等を行なうことができる旨を定款に定めることができる(会社法459条1項)。

・取締役の任期が1年以内であること
 ・会計監査人及び監査役会(または監査委員会)が設置されている株式会社であること

なお、実際に取締役会の決議によって剰余金の配当を行う場合には、事業報告において、「取締役会に与えられた剰余金の分配に関する権限の行使に関する方針」を記載しなければなりません(126条10号)。これは、剰余金をどのような方針で内部留保に充て、また株主に分配するのか、さらには株主資本の各項目をどのようにするかなど、全般的な方針を明らかにすべきものと考えられています。

②分配可能額

剰余金の配当により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、剰余金の配当の効力を生ずる日(金銭の支払い開始の日)における分配可能額を超えてはならないとされています(会社法461条1項8号)。その額の算定方法は会社法446条に定められていますが、基本的な計算式は次のようなものです。(実際には、ここに様々な検討事項が付加されて計算されますが、ここでは基本的な原則に留めておきたいと思います)

剰余金の額(基本部分)=資産の額+自己株式の帳簿価額の合計額-負債の額-資本金及び準備金の合計額-(資産の額+自己資本の帳簿価額の合計額-負債の額-資本金及び準備金の合計額-その他資本剰余金の額-その他利益準備金の額)

=その他資本剰余金の額+その他利益剰余金の額

2016年8月 4日 (木)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(22)~2の2 参考書類─剰余金処分の件(2)法定記載事項

●法定記載事項+α

ここでは、株主総会で決議する場合の議案の記載事項について述べてきたいと思います。見本として、いわゆる参考書類のモデル(株懇モデルを下敷きにしたものです)をサンプルとして、それに即して説明していくことにします。まずは、サンプルの中で赤字で番号を振った項目ごとに説明しますので、サンプルと照らし合わせながら読んでいただきたいと思います。
 無配の場合や剰余金をすべて次期に繰り越す場合などにより、剰余金の処分がない場合は、株主総会への議案として付議する必要はありません。したがって、株主総会参考書類に記載すべき事項はありません。この場合、無配であれば、事業報告の「事業の経過及び成果」あるいは「対処すべき課題」などにおいてその旨を説明するという記載方法がありえます。
 指名等委員会設置会社や定款に「剰余金の配当等を取締役会の決議により行うことができる」旨の規定を設けた会社は、株主総会に剰余金の配当を付議する必要はないので(ただし、あえて株主総会に諮ることも可能)、株主総会参考書類に記載する必要はないが、事業報告において、「剰余金の配当の決定に関する方針」を記載することを求められます。

①議案(73条1項1号、以下法令名が省略されている場合は会社法施行令)

ここには、通常は、株主総会で決議すべき事項が議案として記載されます。この場合、狭義の招集通知において会議の目的事項の決議事項として記載されている事項と異動がないように注意しなければなりません。そうでないと、議題が異なるという誤解を招く危険が生じます。剰余金の配当を行う場合の決議事項は次の点です(会社法454条1項)。
 (ⅰ)配当財産の種類及び帳簿価額の総額
 (ⅱ)株主に対する配当財産の割り当てに関する事項
 (ⅲ)当該剰余金の配当がその効力を生ずる日
 剰余金の配当について、内容の異なる2以上種類株式を発行している時は、その内容に応じて、株式の種類ごとに配当財産の割り当てに関する事項を定めることができます(会社法454条2項)。また、配当以外の剰余金の処分を行う場合の決議事項は次の通りです(会社法452条)。
 (ⅰ)増加する剰余金の項目
 (ⅱ)減少する剰余金の項目
 (ⅲ)処分する各剰余金の項目に係る額

②提案の理由(73条1項2号)

サンプルを見ていただくと、剰余金処分という議案の中に、期末配当金の処分と、それ以外の剰余金の処分が含まれています。これらは、以前の旧商法においては利益処分という流れの中で一緒にして検討することができましたが、現在の会社法の計算では剰余金という枠の中で別々に検討すべきはずです。だから、本来は別の決議事項です。しかし、これまでの慣例もあり、また、積立金を取り崩して配当をする場合、二つの議案を同時にまとめて決議するのが適当になるので、まとめてひとつの議案としていると考えられます。そのような経緯を考慮すれば、提案の理由は、それぞれに記載する必要があります。ただし、さきの場合のような理由が重複している場合であれば、まとめて記載することも可能です。

(ⅰ)剰余金の配当

この場合の議案の提案理由として、配当性向などの配当方針を詳述して、この方針に従って配当を実施する旨を記載する事例が増えてきました。また、サンプルのように経営の状況の説明を提案理由としている事例が一般的と言えます。

(ⅱ)その他剰余金の処分

議案の内容とする剰余金の処分をなぜ行なうのかということが、提案の理由にあたります。

事例サンプル
・増配の場合

当社は安定的な配当の継続を重視し、業績動向及び配当性向などを総合的に勘案して利益配分を決定しており、また、企業として財務体質の強化と将来の利益確保に備えるべく内部留保にも努めております。配当につきましては、単体ベースでの配当性向30%を目処に、連結業績も十分考慮した上で、将来の事業展開及び収益水準を勘案し決定しております。
 当期の剰余金の処分につきましては、上記の基本方針に基づき、以下の通りといたしたいと存じます。
 なお、当期の期末配当につきましては、業績が堅調に推移いたしましたので、株主の皆様からのご支援にお応えするため、次の通り1株につき●円とさせていただきたいと存じます。これにより、中間配当金を加えました年間配当金は、前期に比べ1株につき●円増配の●円となります。

・減配の場合

当社は、株主の皆様に対する安定的な利益還元を経営の重要課題の一つとして認識しております。経営基盤の強化と利益率の向上に努めるとともに、安定的な配当の継続を基本に業績などを勘案したうえ配当金額を決定していく方針です。
 上記方針に基づき、当期の期末配当につきましては、業績の大幅な悪化及び希望退職の募集等を勘案し、前期の期末配当に比べ●円減配し、以下のとおりとしたいと存じます。
 なお、中間配当として1株につき●円を実施させていただいておりますので、年間配当金額は1株につき●円となります。

・配当を実施するために積立金を取り崩す場合

利益処分につきましては、株主の皆様への継続的な安定配当を基本とし、業績の推移と中長期事業計画を勘案して実施しております。
 当期の会社を取り巻く経営環境は極めて厳しい状況となり、多額の当期純損失を計上することとなりました。
 この結果、繰越利益剰余金がマイナスとなりましたが、収益改善計画を実施することにより次期以降の収益回復が見込めることから、当期の剰余金の処分は、安定配当維持の観点から、別途積立金を取り崩すこととさせていただき、当期の期末配当につきましては、当社普通株式1株につき●円とさせていただきたいと存じます。
 引き続き、収益の改善に全力で取り組み、安定配当に努めてまいりますので、株主の皆様におかれましては、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

③剰余金の配当(会社法452条)

(ⅰ)剰余金の配当議案の項目

剰余金の配当議案がその事業年度に係る期末配当に関するものである場合には、その旨を明確にするために、「期末配当」である旨を記載するのが一般的です。このとき、中間配当を行なった場合には、期末配当における1株あたりの配当額の記載に加えて、中間配当と併せた年間の1株当たりの配当額を併記します。

(ⅱ)配当財産の種類及び帳簿価額の総額

一般的には配当金は金銭によるものとなりますので、「金銭といたします。」と記載するケースが多いようです。このサンプルでは、帳簿価額の総額は(2)のところで配当財産の割り当てとともに記載されています。

(ⅲ)株主に対する配当財産の割り当てに関する事項

株主に対する配当財産の割り当てに関する事項は、このサンプルでは、「当社普通株式1株につき金●円といたします。」と記載されているところで。その後に、帳簿価額の総額として金銭での配当総額を記載しています。
 このとき、「1株当たりの配当額」、「配当総額」及び「配当の効力発生日」の記載は、計算書類の(連結)注記表の(連結)株主資本等変動計算書に関する注記の「剰余金の配当に関する事項」の記載内容と整合がとれていることに注意しなくてはなりません。

事例サンプル
・優先株の配当の場合

当社普通株式1株につき、●円と致したいと存じます。
 また、A種種類株式については、定款の定めに従い、1株につき●円と致したいと存じます。

・配当財産の割り当て欄で増配を記載している場合

(2)株主に対する配当財産の割当てに関する事項およびその総額

当社普通株式1株につき金●円  総額●●●円

業績等諸般の事情を勘案するとともに、株主の皆様の日頃のご支援にお応えするため、前事業年度と比べ1株につき●円増配させていただきたいと存じます。なお、中間配当として1株につき●円を実施させていただいておりますので、年間配当金額は1株につき●円となります。

(ⅳ)当該剰余金の配当がその効力を生ずる日

配当金の効力発生日は、総会日の翌営業日(金融機関の営業日)とするのが一般的です。ただし、配当金の効力発生日は基準日から3か月以内でなければなりません。

④その他剰余金の処分(会社法452条)

株主総会の決議によって、損失の処理、任意積立金の積立その他の剰余金の処分をすることができます。次の3点の決議事項を記載します。
 (ⅰ)増加する剰余金の項目
 (ⅱ)減少する剰余金の項目
 (ⅲ)処分する各剰余金の項目に係る額
 この場合、減少する剰余金の項目と増加する剰余金の項目のそれぞれの金額が一致していることの確認を怠らないようにします。

2016年8月 3日 (水)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(21)~2の2 参考書類─剰余金処分の件(1)

●剰余金の処分について

剰余金処分の議案について、昔話から始めたいと思います。平成17年に制定された現在の会社法となる前は、商法の中に会社法の部分があって、その規定に従っていましたが、現在の会社法が性質したときに内容が大幅に変わりました。その変ったもののひとつに、この剰余金処分についての内容があります。そのことを詳しく説明し始めると長くなってしまうので、ここでは剰余金処分議案の参考書類への記載に限り、その関連したところについて、少し説明したいと思います。そうすると、現在の記載事項の意味がよく理解できると思うからです。
Row5322_2  図で示したのが、旧商法のころの剰余金処分議案です。現在とは議案のタイトルからして違っていることに気づくことと思います。「剰余金処分」ではなく、「利益処分」というタイトルで、議案に関する説明があり、その計算については計算書類の中に貸借対照表、損益計算書に続いて、図にあるような利益処分案という計算表が添付されて、株主総会においても、議案の説明において、この利益処分案の計算表の説明が行なわれていました。これは、企業単体の単年度の利益、現在の損益計算書でいえば、税引き後の当期純利益を、この利益処分案の計算表の一番上の当期未処分利益として、それについて、現在で言えば剰余金(この表では「利益準備金」「別途積立金」「次期繰越利益」)に繰り入れたり、株主への配当、そして役員賞与に割り振ることを一つの議案として、株主総会に諮っていました。つまり、事業年度にあげた利益について、その年度で、その利益をどうするかを株主総会で株主が決めていたのです。
 これは、現在では単年度の利益は、いわば自動的に剰余金に繰り入れられて、長年にわたって利益を続けてきた企業であれば剰余金が毎年の繰り入れによって蓄積されてきたわけで、その剰余金の総額の中から、今年度はどの程度を株主に配当として支払うかという議案に変わりました。
 ここまでの説明だけでは、何が変わったのか、大きな違いは分かり難いかもしれません。そこで、2点に絞って説明しますと、一つは、ここに役員賞与が入っているということ。つまり、役員賞与は単年度の利益を株主の配当と分け合うかたちで配当金といっしょに決められていたということです。だから、このころは役員賞与支給の件という議案はなかったし、業績連動賞与というような役務の対価として賞与を給与のように考えることはなかったのです。
 そしてもう一つ、こちらが本題となりますが、利益処分は企業単体の年度の利益の処分ということですから、その単年度の利益を超えた配当というのは原則としてできないということなのです。単年度利益を超えた配当は企業の経営を不安定化される無理に政策として“タコ足配当(タコが自分の足を食べてしまうことになぞらえて)”と言われ違法なものとされました。したがって、内部留保を多く積み上げた企業に対して、その積年の蓄積を配当として一気に株主に還元するということは原則的にできなかったのです。そして、さらに、その利益処分案の計算表をみても分かるように、企業単体の利益から計算式が始まるわけなので、そこに連結決算での利益を基準に考えるという発想は入り込む余地がなかったと言えます。この表に連結の数値が混入すれば、かえって辻褄が合わなくなって、しまいます。
 これは、どうしてかというと、会社の計算に関する基本的な原則は別にして、株主総会の手続きに限って説明すると、この利益処分に先立って計算書類の承認議案が前提されていたのです。現在の大部分の上場会社では、会計監査人による監査報告で承認されているので、報告事項になっていますが、本来は、会社の年度の成績が数値になって表わされたものを所有者である株主が確認し承認するというのは当たり前のことです。それを、まず計算書類の承認という議案で諮って、そこで承認された年度利益について、今度はその利益を株主と経営者との間で分配することについて決めていたのです。したがって、この議案に関する権限を取締役会に託して、株主総会の議案から外すということは思いもよらないことだったと言えます。
 このような旧商法における剰余金処分議案と比べてみると、現在の剰余金処分議案の特徴と意味が理解できるのではないかと思います。以前の旧制度から、現在の制度に、ことのように大きく変化してしまった理由については、剰余金処分に限っての説明はむずかしく、他の部分も含めての大きな変化の一環として位置づけられると思いますが、概要を簡単に言えば、経営と所有の区別の考え方が大きく変化してきたことが大きいのではないかと思います。経営と所有の区別が進んで経営者は経営の効率性を自身のやり易さに方向に進んで、所有者である株主から委託されている立場に反する方向に行ってしまう恐れが出てきた。しかも、企業が巨大化し複雑になってくると株主はそれをチェックすることができない。例えば、単年度で経営者が株主よりも自身を優先した利益処分をしても(例えば配当に回す分を会社の内部留保にして多少経営をサボっても財務の安定性を高めて大丈夫にしようとした、つまり保身です)株主はすぐに分からない、それが何年か後にわかっても、それを配当しなおせということもできない。そこで、経営を業務執行と切り離して、株主の立場に立てるような会社の業務執行から独立した社外取締役を経営陣にいれることで、専門的な者による経営の監視を強め、単年度でみるのではなく中長期的にチェックをしてもらう、つまりはコーポレートガバナンスということが重視されるようになった。その分、変化の激しくなった経営環境の中で迅速に多額の投資を資本の中から行なうことによって市場での厳しい競争で有利に立つこともできるようにした。剰余金の処分は年に一回で、それに間に合わない緊急性の高い判断を迫られる可能性もあるので、それは取締役会でも判断できるようにして、それに伴うリスクはコーポレートガバナンスで補うことにした。そういう全体の流れのなかで剰余金処分の議案が株主総会に上程される方法が改められたということです。
 なお、剰余金処分について、法定の規制や、配当可能利益の計算方法、取締役会に決定権限を委託することなどについてなど、「剰余金の処分」のページを別に設けて、全般的に説明を行ないますので、そちらを参照して下さい。
Row532_2

2016年8月 2日 (火)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(20)~2の2 参考書類


 株主が書面によって議決権を行使するには、決議について適確な判断をするために必要な事項を知らされなければなりません。そこで、株主総会の招集通知に、議決権行使についての参考となるべき事項を記載した書類、つまり参考書類を添付しなければならないものとされています。(会社法288条、301条)その懈怠については、罰則の制裁があるほか、招集通知の法令違反として決議取消自由になる可能性があります(会社法831条1項1号)。そして、その内容は、会社法施行規則に、参考書類に記載しなければならない事項として、それぞれの議案ごとにそれについての説明等があげられています。
 なお、上場会社であっても株主の数が1,000人以下の場合や金商法の規定に基づいて委任状により議決権行使を第三者に代理させることを勧誘している企業は、書面投票を実施していないため、参考書類を作成しません。その代わりに金商法施行令36条の2第1項に基づいて委任状勧誘内閣府例によって定める委任状勧誘に関する参考書類を作成し株主に交付します。内容は会社法に基づく参考書類とほとんど同じです。

●参考書類の一般的な記載事項

Row53_2 参考書類は会社法施行規則に従って作成します。それによると、参考書類に記載しなければならない必須事項は次の通りです。(施行規則73条1項)

 ①議案
②提案の理由
③総会に提出する議案等について監査役の監査の結果、法令・定款違反等があった場合の調査結果

上記以外に、株主の行使について参考となると認める事項について記載することが出来ます。(同条2項)つまり、必須事項以外でも株主が議案に関して判断する参考となるものであれば追加して記載してかまわないということです。
 株主総会参考書類は、株主総会に出席しない株主が議決権を行使するための参考とする資料となるものですから、株主が判断するために必要な情報が記載されていなければなりません。そこで、重要な議案については施行規則の中で記載事項が定められています。具体的には議案ごとに別に見て行きますが、全体として次の通りです。

・役員等の選任に関する議案(施行規則74~77条)
 ・役員等の解任等に関する議案(施行規則78~81条
 ・役員の報酬等に関する議案(施行規則82~84条)
 ・計算関係書類の承認に関する議案(施行規則85条)
 ・合併契約等の承認に関する議案(施行規則86~92条)
 ・株主提案(施行規則93条)

参考書類の冒頭部分を取り出してみましたが、その下の行の「剰余金の処分に~」の部分が②提案の理由になります。具体的に冒頭の標題部分について見て行きましょう。

(1)タイトル

冒頭の標題です。通常は「株主総会参考書類」と記載します。
 委任状勧誘の場合には、「議決権の代理行使の勧誘に関する参考書類」と、違うタイトルになります。なお、委任状勧誘の場合には、議決権の代理行使の勧誘者(通常は会社の代表者)の記載が加わります。

(2)議題

「第1号議案 剰余金処分の件」が議題で「剰余金の処分に~」というのが上記①議案にあたります。「議題」は株主総会の招集に際しての株主総会の目的となる事項です。これは取締役会で決議され(会社法298条1項2号)、株主に対して会議に前もって通知されなければなりません(会社法299条1条)。例えば、ここの例のような「剰余金処分の件」とか、「取締役○名選任の件」、「定款の一部変更の件」等と記載されます。これに対して、「議案」は「議題」の具体的な提案内容のことであり、決議されるべき事項です。
 そして、議題と議案の違いは次のような効果の違いとなって現れます。

ⅰ)取締役会設置会社では会社側が定めた議題以外の議題は、株主が、1%以上の議決権を持っていないと提出できない(303条1項)。逆に議案は、単独株主でも、株主総会で提案することができる(304条)。

ⅱ)議題に関係ないことについては、役員は説明義務を負わない(314条1項ただし書)。

つまり、「剰余金処分の件」というのは議題ですから、招集通知に記載されているからこと、株主総会で議決できるので、会議場で当日議題として提案されても、取り上げることはできません。これに対して、議案は剰余金を1株あたり○円とするという決議内容を含むので、議場で修正の提案をすることができます。
 参考書類では、「議案」が記載事項とされています。「議題」については記載を明文で規定されているわけではありませんが、「議案」がどの議題に関するものであるかを明確にするために、このように「議題」と併せて記載するのが一般的です。
 この場合、狭義の招集通知の目的事項(決議事項)の記載と食い違わないように中位なければなりません。

2016年8月 1日 (月)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(19)~2の1-2.IRやコーポレート・ガバナンスの面から考え直した招集通知のあり方

狭義の招集通知について、法令で規定された“あるべき姿”と経緯、そして実態について、これまで説明してきました。しかし、このページのタイトルである『IRとしての株主総会』では、これまで説明してきた招集通知で、果たして良いのかについては、何も言及してきませんでした。ここからは、今までの説明をベースに、いよいよ本題として、IRとしての株主総会のための招集通知を考えていきたいと思います。ただし、招集通知の主要な内容である報告事項の内容は事業報告に詳細が説明されていますし、決議事項の内容は参考書類で詳細に説明されています。だから、具体的な報告事項や決議事項の内容や、その説明に関することは、事業報告や参考書類のところでの説明に場を譲ることにして、ここでは全体としての招集通知のあり方について考えていきたいと思います。

●招集通知というのは、そもそもどのような書類か

いままで招集通知について説明してきましたが、それは会社法に規定された株主総会の開催の要件として必要な書類で、そのような前提のもとに、実際の上場会社でどのように作られているのかを説明してきました。
 ここでは、そういう形式的な議論が生まれてくる以前の、そもそも何のために招集通知が必要なのかという原点に立ち戻って考えみたいと思います。これについては、二つの方向から考えて見ましょう。第一に、一般的な会議の招集という点からです。上場会社の株主であれば、最低でも数百人、多ければ数十万人の人数となります。そのような多数の人々が集まって会議をするためには、いちいち各人のスケジュールを調整するなどということは不可能です。また、明日会議を開催するといっても、急に集まることはできないでしょう。だから、主催者が日時と会場を予め決めてしまって、事前に文書で一斉に通知するということは、実際のところ、もっとも効率的なやり方でしょう。早めに通知をすることで、出席者に会議にあわせてスケジュール調整をしてもらい易く出来ることにもなります。例えば、電話や口頭で、ひとりひとりに連絡するのは物理的な手間が大きく、また連絡時間に差がうまれて、中には連絡が遅くなったためにスケジュールの都合がつかなくなるという事態がおこると、その点で不公平が生じます。文書で一斉に郵送すれば、そのような明白な不公正は起こりにくくなります。また、会議のお知らせをする側では文書で送った方が知らせたという証拠も残ります。
 そして、第二に、株主総会という会議の特殊性という点からです。こちらが、これからの議論の出発点にもなるものです。つまり、株主総会という会議は株主が集まって決算とか経営者の選任といった会社の経営にとって重要な事項を議論して決めるために開かれるものです。このような事項を議論するには様々な情報を事前に得て十分検討をした上でないと実のある議論はできないことになります。そのために、予め株主総会の出席者である株主には必要な情報を伝えておかなければなりません。それが広義の招集通知が行なっていることと言えます。
 これはポジティブに捉えれば、会社の経営陣が株主に向けて発したメッセージと言う事ができると思います。このような上場会社が外部に向けて発する書類は、このほかにも決算短信とか有価証券報告書とか、あるいはIR説明会などがありますが、この招集通知は、これらのどれとも異なる特異なものです。その大きく異なる点は、決算短信や有価証券報告書、株式市場とか監督官庁、マスコミそして投資家などといった会社を傍観者の立場から観察する人々を対象としているのに対して、招集通知は会社の所有者である株主、つまりは利害関係にある人々、会社の事業活動に責任がある主体的な当事者、を対象としていることです。そして、それゆえに招集通知は単なる報告だけに終わらず、対象となった人々の行動を伴う、引き起こすものであるということです。
 招集通知に記載されている株主総会の目的事項、つまり、株主総会で決議しなければならない事項は、取締役の選任─どのような人々に会社の経営を委ねるのか─、定款変更─会社の根幹の内容、会社はどのような事業をどのような体制でおこなっていくのかを決める─、あるいは資本政策上の重要事項、そのほかのことです。これらは、すべて会社が、これから将来に向けてどうしていくのかということの核心的な事項です。株主総会で、そのようなことを議論して、決定するためには、その場で「はい、決めてください」と言われても困ります。だから、そのために必要なことを事前に知らしめて、その上で集まって議論をする。招集通知はそのためにある、ということになるわけです。だから、そこには、会社の将来に関することが情報として盛り込まれていなければなりません。そしてさらに、株主総会で議案の提案をしているのはほとんどすべての場合、会社の経営陣です。ということは、会社の経営陣が、これからこうしていきたいということを会社の所有者である株主に向けて所信表明をして、それを承認してもらうためのものに、実質上はなっているということです。株主にとっては、この議論と決議を積み重ねて、それに基づいて経営陣が行動していくことが将来に企業価値を形成することに繋がっていくことになるはずです。当然、その判断はシビアなものにならなければなりません。だから、招集通知には、そのために必要な情報がなくてはならないのです。
 そのような招集通知は、だから決算短信や有価証券報告書に比べて財務情報が豊富でないかもしれませんが、会社の将来を考える上で必要な情報が充実していなければならないと言えます。招集通知が、そういうものであるならば、株主だけでなく、傍観者である投資家にとっても、たいへん興味深い資料となるはずです。
 以上のような視点で招集通知のあり方を考えてみると、IRであるとかコーポレート・ガバナンスの点からも、存在価値の高い書類と言えるのではないでしょうか。

●具体的に、どのような招集通知を作ろうというのか

このページのタイトルを「IRとしての株主総会」と仰々しくしてみましたが、上場企業の株主総会の実情を見渡してみると、傾向が二極分化しつつあるようにも見えますが、実際には株主総会の運営を担当する総務部門や招集通知を作成する法務部門などでは、ほぼ全体的に株主とのコミュニケーションを外部の余計なツッコミと見なして、いかに法的に問題なく避けるかという発想のもとで実施されています。
 そして、一見二極化した一方の極であるIR型の株主総会においては、出席株主とのコミュニケーションを持とうとする努力は真摯に行なわれていると思いますが、ある面ではコミュニケーション自体が目的となっているのではないか、と思われる節があります。そこでは、何のためにコミュニケーションするか、何を対話するのかという視点がもう少し重要なのではないかと思います。
 それは例えば、ある企業に対して潜在的に興味を持っていた投資家が株式を購入し株主、つまり企業の所有者となって株主総会に出席したところが、所有者というわりには株式を購入する以前に公開されていた情報と質の面でも量の面でも、ほとんど変わらず、その企業の個性や魅力を深く知ることもできなかった、というのが大半の株主総会の現状ではないかと思います。株主総会の招集通知も、その一連の流れの中で作成されるものです。だから、たんに招集通知だけの問題ではなくて、株主総会に対する、というより株主に対する企業の姿勢から考えていかなければならないということになります。
 で、ここでは、あまり話を大きくすると議論の収拾がつかなくなりますので、招集通知に絞ります。例えば、株主総会の議題のなかには取締役の報酬という議案があります。これは、会社法の規制により、株主総会での承認が必要とされるものです。それらは役員報酬枠の改定、役員賞与の支給、ストックオプション等の様々な報酬の種類によって、それぞれ個別に株主総会での承認を、その都度得ているのが通常です。ところが、投資家目線で追いかければ、例えば、その議案を提起することによって役員の報酬は全体としてどのようになるのかとか、それが分かると、報酬の役員に対するインセンティブがどうなのかのイメージが湧いてくるでしょう。また、その企業が中長期の経営計画をもっていて、役員報酬がそれに連動したものであったということであれば、企業の中長期のビジョンへの理解が深まるはずです。
 それゆえ、招集通知について、ビジュアル面で図やグラフを多用して見やすくするとか、企業側では、そういうことに議論が傾きがちですが、それよりも、上記のような方向で、理解し易く、いかに伝えるかを考えていくほうが、興味深いものとなるのではないかと思います。
 
ここでは、全体としての方向性について説明し、個々の議案については参考書類のところで、企業の説明については事業報告のところで、具体的に説明していきたいと思います。 

« 2016年7月 | トップページ | 2016年9月 »