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2016年8月 9日 (火)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(27)~2の2 参考書類─剰余金処分の件(7)配当の開示を考える

●配当に関する積極的な開示に対する考え方

配当に対する考え方を開示する企業が増えて、企業それぞれで様々な実例が出てきています。それは、ひとつには指名等委員会設置会社や、それ以外の会社でも定款で配当に関する決議権限を取締役会に託す規定を設けた会社は、株主総会で配当議案を上程しなくてもいい代わりに、取締役会での配当に関する決議を報告するとともに、どのような方針で配当を決めるのかを事業報告で開示しなければならないことになっていることも原因していると考えられます。そして、さらに、金商法による有価証券報告書で配当に関する方針の記載が義務付けられ、上場会社は証券取引所の規則で決算短信に定性的情報として、配当に関する方針を記載するようになっています。これらのことから、参考書類においても配当に関する方針を、それとして記載したり、配当議案の提案理由の中で、配当に関する方針を挿入するなどして、記載する事例が増えてきています。例えば、次のような事例はどうでしょうか。

事例サンプル

当社は安定的な配当の継続を重視し、業績動向及び配当性向などを総合的に勘案して利益配分を決定しており、また、企業として財務体質の強化と将来の利益確保に備えるべく内部留保にも努めております。配当につきましては、単体ベースでの配当性向30%を目処に、連結業績も十分考慮した上で、将来の事業展開及び収益水準を勘案し決定しております。
 当期の剰余金の処分につきましては、上記の基本方針に基づき、以下の通りといたしたいと存じます。
 なお、当期の期末配当につきましては、業績が堅調に推移いたしましたので、株主の皆様からのご支援にお応えするため、次の通り1株につき●円とさせていただきたいと存じます。これにより、中間配当金を加えました年間配当金は、前期に比べ1株につき●円増配の●円となります。

上記の事例で、前半の部分が配当に関する方針として、現在のひとつのスタンダードなものと言えるのではないでしょうか。
 しかし、これで、株主から配当が少ないといわれた時に、この方針に従っているからというのは、回答になるでしょうか。それで押し通すことも可能かもしれませんが、この場合に、例えば30%という配当性向が低いのではないか、と問われたときに配当性向を30%とした理由が、ここでは説明されていません。実際のところ、配当性向の数値は開示しても、その根拠まで開示しようとしている企業はありませんし、あえて試みようとして配当性向とは別の、独自の指標をつくったエーザイのような先進的な会社を別としても、です。
 ここで、配当性向を30%とした理由をちゃんと考えて説明しようとすれば、会社の経営方針に遡ることになるはずです。株主への分配、株主還元を会社としてどうしていくかということであれば、資本政策の大部分と重複するものです。かりに、剰余金の処分以降のところに限って考えていってみれば、ある事業年度において、会社が利益を残したとします。これをどのように分配するか。それを将来の事業展開や製品開発の計画があって、そのための投資とするということであれば、それは経営における再投資の、いわば中期経営戦略です。また、従業員に利益を還元して、モチベーションを高めたり、優秀な人材を引き留めたり、逆に賃金水準を高めることで引き寄せたりすることもあるでしょう。この場合は、ステークホルダーに対する方針として従業員を重視するという経営方針とも大きく関わることです。また、少なくない企業が内部留保を分厚く蓄えていること自体を海外の投資家から非効率と批判されることもありますが、その理由についても、上記の事例のように一応の理由をあげていますが、それではどの程度まで内部留保として確保すればいいと考えているのかという方針は、配当性向の数値は出しているにもかかわらず、内部留保率(と限る必要はありませんが)のような数値を明らかにはしていません。しかし、投資家は、そういうことを一番知りたいのです。つまり、剰余金を分配する際に、どのように考えるかということを株主に説明しようとすれば、中長期の経営戦略やステークホルダーに対する基本方針まで説明しなければならない、そこまでは遡らないとしても説明には当然そこまでの根拠があるはずで、それを偲ばせるものであるわけです。ということは、配当性向を30%として配当金を株主に分配した後、会社の姿はこうなっていくということがビジョンとしてイメージできるものであるということです。
 また、ここで考えてみたのは剰余金を生んだ後のことですが、そもそも会社がたくさんの利益を計上して、剰余金が増えれば、分配すべきパイが大きくなるわけで、そのために会社が何をしていくかというのは、実は配当金額に大きく関わることであるはずです。ここでは、その方針の説明を省いたところで考えました。

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