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2016年8月24日 (水)

株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(31)~2の2 参考書類─役員選任の件(3)法定記載事項その2

③候補者の氏名、生年月日及び略歴(74条1項1号)、所有株式数(74条2項1号)、重要な兼職の状況(74条2項2号)、現任の取締役であるときの地位及び担当(74条2項4号)その他

Row531 サンプルでは複数の候補者まとめて一覧表にして記載していますが、これらの記載事項はその中で記載されています。それ以外の項目も含めて、項目を見ていきましょう。

(ⅰ)氏名

候補者の氏名は、戸籍上の氏名を記載します。氏名の漢字もこれに従います。例えば戸籍で旧字を使用している場合には、旧字で記載します。とくに、代表取締役の場合には、就任後の役員変更登記には印鑑証明書の添付が必要となるため正確な表記に注意しなければなりません。
 なお、海外機関投資家等の強い要望から、氏名にふりがなを付すことが一般的となっています。

(ⅱ)生年月日

候補者の氏名と同様には、戸籍上の生面月日を記載します。とくに、代表取締役の場合には、就任後の役員変更登記には印鑑証明書の添付が必要となるため間違いによる異同が生じないように注意しなければなりません。生年の記載は元号でも西暦でもかまいませんが、略歴の年月日の記載方法と揃えることに注意します。生年月日が西暦で、略歴が平成○年という記載では戸惑いが生まれます。「○年○月○日」という日付のみ記載もありますが、「○年○月○日生」と記載する例も少なくありません。

(ⅲ)略歴

候補者の氏名、生年月日は人物の同一性を確認するために当然のことですが、略歴は候補者が取締役にふさわしい資格を備えているかを判断するために重要な事項です。略歴の内容としては、明確な定めはなく、候補者の地位、在任年数、経歴等によって適宜記載するということで、各企業で判断しています。実際には、入社年次、歴任した重要な役職及びその就任年月日などを記載するのが一般的です。具体的には、次のようなことが最小限の内容となると考えられます。

A)現任の役付でない取締役及び新任の取締役候補者については、歴任した部長職以上の異動を記載する。

B)現任の代表取締役及び役付取締役については、その取締役としての地位及び担当の異動を記載する。なお、地位及び担当の記載については、事業報告に記載している旨を記載することで、参考書類における記載を省略することができる(73条3項)。

C)中途入社の者については、少なくともその直前の地位または職名をその会社とともに記載する。

D)最終略歴は、参考書類の作成時点での略歴の記載となる。この場合、「現在に至る」あるいは「(現任)」の文言を付加する。

なお、略歴というのはあくまでも過去の実績であり、取締役としての能力とは関係がないという意見もあります。つまり、日本企業に多い内部昇格による取締役就任という特有の環境を反映したもので、従業員としての経歴や能力は、経営者として求められるものとは異質という考え方によれば、候補者が取締役として何ができるかという能力や姿勢が経歴では判断できないという意見です。これについては、後でまとめて考えていきたいと思います。

(ⅳ)候補者の有する当該株式会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)

これは上場会社は記載しなければならない事項ですが、持ち株数は会社への関与の程度を明らかにする情報の一つであり、オーナー経営者かどうかを判断する材料にもなるので、候補者が実質的に所有する株式数を記載します。また、書類株式を発行している会社では、株式の種類及び種類ごとの所有株数を記載しなければなりません。
 この所有株式数については、いつの時点の株式数を記載するかについては、とくに規定されていません。一般的には株式名簿により株式数の確認ができる事業年度の末日時点の株式数を記載します。事業年度末日後に株式を取得した新任候補者に配慮して、この記載を参考書類の作成時点まで繰り下げている例もありますが、その場合には他の候補者の所有株式数も同じ時点のものに揃えます。また、役員持株会での持分があれば、それも加えて記載する例もあります。

(ⅴ)候補者が当該株式会社の取締役に就任した場合において施行規則121条7号に定める重要な兼職(事業報告に記載すべき重要な兼職)に該当する事実があることとなるときは、その事実

これは上場会社は記載しなければならない事項ですが、ここでいう「施行規則121条7号に定める重要な兼職」とは、事業報告に記載すべき重要な兼職のことで、事業報告の記載との整合性が図られています。この重要な兼職の状況を記載事項としているのは、公開会社では候補者が取締役となった場合に、精力を集中できるかという判断や利益相反が生ずる可能性を明らかにすると考えられます。
 この「重要な兼職」の判断時点は、株主総会参考書類の作成時点とされています。ここでいう「候補者が当該株式会社の取締役に就任した場合」とは、株主総会参考書類の作成時点において、候補者が会社の取締役に就任したと仮定した場合という意味です。候補者の兼職先での地位の異動の可能性もあるので、実務においては、参考書類を作成する時点で候補者が取締役に就任した場合を想定して記載することとなります。候補者が就任時までに、または就任後間もなく、現在の重要な兼職から退任する予定が明らかとなっている場合は、記載は不要と考えてもいいでしょうし、逆に、重要な兼職となる他の会社等の兼職への就任が予定されている場合には、その就任予定を記載することも考えられます。
 「重要な」兼職であるか否かの判断については、兼職先の会社が取引上重要な会社であるか否か、候補者が兼職先の会社において重要な職務を担当するか否か等を考慮して判断すべきとされています。
 重要な兼職の参考書類への記載は、他の略歴とあわせて略歴中に記載する方法と、略歴と区分して「重要な兼職の状況」と小見出しを付し別途記載する方法があります。いずれの方法をとっても、事業報告の役員の状況に記載の「重要な兼職の状況」との整合性に注意しなければなりません。

(ⅵ)候補者が現に当該株式会社の取締役であるときは、当該株式会社における地位および担当(74条2項4号)

これは上場会社は記載しなければならない事項ですが、候補者が現に会社の取締役である時は、会社における地位及び担当の記載が求められます。一般的な記載方法は、略歴と合わせて記載して、「略歴、当社における地位及び担当」として、現在の地位及び担当のところで、「現在に至る」か「(現任)」を付け加えて、それと分かるようにしています。
 また、同じ事項を事業報告に記載している場合には、株主総会参考書類にその旨を記載して、省略してしまうことも可能です。

(ⅶ)法定以外の記載事項

以上が法定で記載しなければならない事項ですが、この候補者の一覧表では、それ以外に、よく記載されているものがあります。それを以下で見ていきたいと思います。

A)候補者番号

書面投票は議決権行使書に賛否をかきこむことで投票しますが、取締役選任議案の場合は候補者が複数いれば、それぞれの候補者について賛否を投票するため、行使書面には候補者ごとに投票欄が設けられています。その際、議決権行使書は通常はハガキというスペースの制約を受けるため、株主総会参考書類に記載の候補者一覧に候補者番号の欄を設けて、各候補者に番号を付して、行使書面には、その番号に対しての賛否を記入する方法がとられています。

B)新任候補者であることの表示

取締役候補者が、現任の再任ではなく、新任である場合には、その旨を記載することが多い。または、氏名欄や候補者番号欄に「*」印等を付けたうえで、注記で説明する方法もあります。

C)候補者の記載順序

とくに順番に関しての定めはありませんが、株主が候補者の一覧表を見るときに識別し易いように次のような順番で記載するのが一般的です。

・現在の序列に従う方法:再任候補者を現在の序列で記載した後、新任候補者を就任後の予定序列に従って記載する。

・新たな序列に従う方法:株主総会後の取締役会での予定序列に従って記載する。

・五十音順に従う方法:候補者氏名の五十音順に記載する。 

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