株主総会の実務をIRやコーポレートガバナンスの面から考える(30)~2の2 参考書類─役員選任の件(2)法定記載事項その1
ここでは、取締役選任議案を中心に見ていきたいと思います。監査役選任議案は、取締役選任議案とほとんど同じですが、若干の点で異なるところがあるので、後で別に異なる点を中心に見ていきたいと思います。
見本として、いわゆる参考書類のモデルをサンプルとして、それに即して説明していくことにします。まずは、サンプルの中で赤字で番号を振った項目ごとに説明しますので、サンプルと照らし合わせながら読んでいただきたいと思います。
①議案(73条1項1号、以下法令名が省略されている場合は会社法施行令)
ここには、通常は、株主総会で決議すべき事項が議案として記載されます。この場合、狭義の招集通知において会議の目的事項の決議事項として記載されている事項と異動がないように注意しなければなりません。そうでないと、議題が異なるという誤解を招く危険が生じます。取締役選任議案における決議事項は次の点です。
(ⅰ)選任する取締役の員数(「○名選任」するということ)
(ⅱ)取締役候補者の氏名
②提案の理由(73条1項2号)
取締役の選任の場合には、人数を含め、選任を必要とする理由が提案の理由に当たると考えられます。
(ⅰ)退任により選任する場合
取締役の退任により、改めて選任を行う場合(再任を含めて)、現任取締役や期中に退任した取締役の退任の理由(任期満了、辞任、死亡など)及び退任取締役の氏名、退任時期(任期満了の場合は「本総会終結の時をもって任期満了となる」)を記載します。また、全員が任期満了の場合には、退任取締役の個々の氏名を省略して「全員」と記載することは差し支えありませんが、この「全員」の後に「○人」と付け加えることで、提案している選任する取締役の員数との関連(同数か、減員か、増員か)を明確にしているのが一般的です。そして、同数選任では必要ありませんが、減員あるいは増員の場合には、その理由を記載することになります。
(ⅱ)増員の場合
新たに取締役を選任する場合には、取締役の任期が1年の場合には、上記の「退任による選任」時に増員ということになりますが、取締役の任期が2年の場合には、任期満了ではない年度の取締役会で新たに取締役を選任することもありえます。そのケースも取締役の人数が増えるわけですから増員に含めます。
この場合、増員の理由を記載します。例えば「経営体制の一層の強化のため」「取締役会の監督機能の強化のため(社外取締役の場合)」「組織体制変更にともない」など
(ⅲ)減員の場合
減員の理由を掲載します。例えば「組織体制変更に伴い」「意思決定の迅速化のため」「経営のスリム化を図り」など
(ⅳ)指名委員会の決定に基づく旨
指名等委員会設置会社では、取締役の選任及び解任に関する議案の内容は、指名委員会が決定するため、その旨を記載します。また、今後、監査等委員会設置会社に移行した会社が任意の委員会に取締役候補者の指名を諮問するケースが生じてきますが、この場合この記載に準じたものとなると考えられます。
※このような取締役選任の提案をする理由というのは、このような取締役を選任したい理由であり、上で説明した取締役の増員や原因の理由を説明するというのは、取締役会の規模をこうするという説明ということになります。そこには、会社が取締役や取締役会をこうしたいという経営方針に基づいて、こうしたいという説明ということになります。それは、また海外機関投資家をはじめ企業の将来に投資を検討している人にとっては知りたい情報というだけでなく、株主が取締役の判断をする際にも必要な情報であるはずです。詳しくは後で検討しますが、ここでは、ひとつのサンプルとして富士電機の参考書類の4ページを参照していただきたいと思います。
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