ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち(1)
2016年7月 国立新美術館。梅雨後半の不安定な大気の状態で一瞬の集中豪雨に、ここ数日来見舞われている。こういうときの外出は傘の持参に迷う。折りたたみの傘は重宝なのだけれど、強い雨では大きい傘が欲しいし、一度使用して塗れてしまった折りたたみの大きさは中途半端で傘置き場で使えない不便さもある。とくに、国立新美術館は地下鉄乃木坂の駅から専用通路があるのに、建物のデザインの都合で一部傘をささなければならない、なんとも利用者の便宜を無視した通路がある。慣れないせいもあるかもしれないが、この美術館は使い勝手が悪いし、空間の無駄遣いが著しい(たとえば、こんなだだっ広い空間に空調を利かせていて、電気代と外気への温室効果を、どう考えているのだろう)、人が歩くことを考慮されていないようなフロアでかなり歩かされる。そんなこともあって、あまり行きたいとは思わない美術館、というのが私の中での位置づけ。今日、寄ったのは、他になかったから、という単純な理由。

そういう点で、内容とか、構成とかいったことは別にして、作品とじっくり向き合える、いい展覧会だと思う。展示作品も60点と、それほど多いとはいえないが、平均点は高いので、見ていると時間を忘れて、意外と時間が経ってしまう。
それでは、内容を少し見て感想を綴っていこうと思う。
いつもは主催者のあいさつを引用するのですが、今回はヴェネツィアのアカデミア美術館のコレクションから所蔵品の一部を展示するというものです。まあこんなものです。“テーマは、ルネサンス期のヴェネツィア絵画です。ルネサンス発祥の地であるフィレンツェの画家たちが、明快なデッサンに基づき丁寧に筆を重ねる着彩、整然とした構図を身上としたのに対して、ヴェネツィアの画家たちは、自由奔放な筆致による豊かな色彩表現、大胆かつ劇的な構図を持ち味とし、感情や感覚に直接訴えかける絵画表現の可能性を切り開いていきました。本展では、選りすぐられた約60点の名画によって、15世紀から17世紀初頭に至るまでヴェネツィア・ルネサンス開花の展開を一望します。ジョバンニ・ベッリーニからクリヴェッリ・カルパッチョ、ティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼまで、名だたる巨匠たちの傑作が一挙来日します。”
私の個人の趣味では、ルネサンスの著名な絵画と16世紀フランスの古典主義からロココ、そして近代の印象派はどうしても苦手で、それらの画家の個性が見分けられないのです。私になりに総括すると、それらの作品は絵画表現の表層に特化しているように見えます。難しげな言い方をしましたが、絵画という画面だけを見ろという作品たちということです。その画面が、ものがたりをもっている(画家の伝記的事実のようなエピソードとは別です)とか、何らかの感情が秘められているということを切り捨てた上で、見えることだけで勝負しているというのが、これらに共通することです。いわゆる感覚重視ということでしょうか。悲しみに打ちひしがれていても、喜びに湧いていても、目の前にあるものは厳然とあるし、そういうように描かれている。その物体に光が当たって、それが視神経につたって、脳がそれを見る。そういう機械的な経路をたどって、いま、画面に在る、そういう絵画です。だから、その技法は、見えたものを、どのように、そのように画面に定着させるかというための方法と言えます。そこからは、だから抽象絵画などは生まれ得ないということができます。見えていませんから。ここで展示されているヴェネツィア絵画にも、そのような点もあります。しかし、フィレンチェの、どこまでも明快で、明るい太陽が隅々まで照らし出して、およそ陰などありえないような作品に比べると、多少の不純な要素が混じっているようで、私の場合は、その不純さにむしろ惹かれるところがあります。そのあたりを、主催者あいさつでヴェネツィア絵画の特徴を述べていましたが、その検証もしながら作品を見ていきたいと思います。
なお、展示は次のような章立てでしたので、それに従って見ていきたいと思います。
Ⅰ.ルネサンスの黎明─15世紀の画家たち
Ⅱ.黄金時代の幕開け─ティツィアーノとその周辺
Ⅲ.三人の巨匠たち─ティントレット、ヴェロネーゼ、バッサーノ
Ⅳ.ヴェネツィアの肖像画
Ⅴ.ネルサンスの終焉─巨匠たちの後継者
« 健常者もいろいろなのに一律で競うオリンピックは強引? | トップページ | ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち(2)~Ⅰ.ルネサンスの黎明─15世紀の画家たち »
「美術展」カテゴリの記事
- 没後50年 鏑木清方展(5)~特集2 歌舞伎(2022.04.06)
- 没後50年 鏑木清方展(4)~第2章 物語を描く(2022.04.05)
- 没後50年 鏑木清方展(3)~特集1 東京(2022.04.02)
- 没後50年 鏑木清方展(2)~第1章 生活を描く(2022.04.01)
- 没後50年 鏑木清方展(1)(2022.03.30)
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち(1):
» 日本初公開・ベッリーニとティツィアーノの大作・ヴェネツィア・ルネサンスの魅力 [dezire_photo & art]
ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たちGreatmasters of the Venetian Renaissance 東京六本木の国立新美術館で、日本初公開のジョヴァンニ・ベッリーニの作品とティツィアーノの大作『受胎告知』を初めとしたヴェネツィア・ルネサンスの傑作が公開されました。... [続きを読む]
« 健常者もいろいろなのに一律で競うオリンピックは強引? | トップページ | ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち(2)~Ⅰ.ルネサンスの黎明─15世紀の画家たち »
コメント