アドルフ・ヴェネフリ展 二萬五千頁の王国(3)~第2章 揺りかごから墓場まで

「ネゲルハル(黒人の響き)」という作品です。たしかに、「ニュー=ヨークのホテル・ウィンザー」が文様の組合せのようだったのに比べると、画面の下半分は円周上に建物や岩山のような形態が見分けられるようになっています。しかし、それは、物語の一部を切り取って、その中で起こっていることを、その物語の登場人物か、あるいはその人物を物語の中で近くで見ている人間の視点で写しているものには見えません。物語から距離をおいて、鳥瞰的に見渡して、物語の宇宙全体を描いているのか。あるいは、この作品のあちこちに頭に十字をのせた顔が描かれていますが、まるである種の神学の主張するような神が遍在するようなかんじで、あらゆるところに、この顔がいて、その顔があらゆるところから、あらゆるものを見て、それを画面に写し換えたとでもいうような感じがします。言わば、描いているヴェルフリは、物語でも現実世界でもこっち側でなく、あっち側に行ってしまって、そこからこっち側を描いているような感じです。それが、色鉛筆によって彩色されていると、絵の具と違って原色に限定されて、色を混ぜたり、グラデーションを施すことがほとんどないので、均一に塗られていると、極彩色に塗り分けられるようです。しかし、色鉛筆の色は、絵の具のような鮮やかさがなくて、彩色された極彩色はくすんだような、色褪せたような仕上げになっています。そのような色彩の感じられ方で、文様化された宇宙のような画面は、仏教の曼荼羅に似たものに見えてきます。「デンマークの島 グリーンランドの南=端」という作品では、山の形をした宇宙、まるで須弥山のかたちをなぞった曼荼羅のようです。また「氷湖の=ハル〔響き〕.巨大=都市」という作品では、おそらく湖を上から鳥瞰的に見下ろして、湖を楕円に文様化して、全体を描いていますが、まるで胎蔵界曼荼羅のようです。


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