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2017年12月23日 (土)

中村隆英「日本の経済統制:戦時・戦後の経験と教訓」

中村隆英「日本の経済統制:戦時・戦後の経験と教訓」を読んだ。

著者は、対象とする日本の経済統制を世界恐慌の影響から脱するために、経済体制を整備し、力を結集させようと、まずはカルテルやトラストという経済界の自主統制から始まるという。しかし、日中戦争の開始に伴い第一次世界大戦のドイツがとった国家総力戦体制に軍部が傾いていったことから本格化したという。これには、財閥をはじめとした資本家の私利私欲の亡者のような行動への反発や、現実に2.26事件により高橋是清といった経済統制の動きに対して歯止めとなっていた人たちがテロの対象となって力を失ったこと、社会主義思想を持った人たちの多くが同調したこと、などが副次的な原因と指摘する。しかし、その本音としての目的は健全な国家財政の制約により軍備の増強が進まない軍部のプレッシャーだった。廣田内閣の馬場財政が軍部に迎合した予算を組んでから、慢性的な通貨不足状態となり、貿易とくに輸入がじり貧となり産業に必要な物資(原材料やエネルギー)の供給が足りなくなると経済が縮小していくことになる。それを抑えるために経済を緊縮させるため、経済統制のしめつけを強化せざるをえなくなる。つまり、統制が統制をよんでいく。しかし、物資は軍備に回され、戦争の長期化に伴い労働力も軍隊にとられ、生産に必要な要素が枯渇していった。著者は昭和17年の時点で制海権をアメリカに奪われ、海上輸送体制が崩壊した時点で経済の自立は失われ、この時点で戦争の継続はおろか、まともな生活すらできない、つまり国としての生存の実体を失ったと指摘する。

その反面、この戦時体制の経済統制が戦争後の復興をすすめたシステムが定着したという。復興の鍵となった傾斜生産方式は戦前の企画局の政策そのままであるというし、いわゆる日本的経営の特徴は、このとき確立したものだと指摘する。

著者の議論は説得力はある。しかし、その議論にしたがえば、日本の経済復興や高度経済成長はレッセ・フェールの自由な経済活動を否定するような統制経済で、限られた資源のなかで輸出によって外部から富を奪取していく総力戦だったというわけで、日本的経営というのは、その総動員体制を経済活動で進めるために適したのだった、ということになる。それは、ある程度は言えると思うが、そうであれば、自由な経済の競争とか、グローバルの豊富な市場に適応した活動とは、正反対もしくは敵対的なシステムが日本的経営という結果を導くことになると思う。確かに、アジア諸国が権威主義的な体制で経済成長を遂げた際に、日本の経済成長を参考にしたのは、日本の経済のもつ本質的に統制的だった性格を敏感に読み取ったからかしれないと思った。

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