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2017年12月29日 (金)

ジャズを聴く(46)~アイク・ケベック「春の如く」

Jazquebec  テナー・サックス奏者。ここでは、実際の響きを具体的に言葉にして、読んだ人がその音楽を響きとして想像できるように心掛けているつもりだが、ここでは比喩的な言い方を許してもらいたい。このページで取り上げているミュージャンの大半はライブ演奏では「俺の演奏を聴け」とばかりに、自分の主張を音楽で表現したり、音楽自体が重要であるというようなことで、音楽を創ることに全身全霊をかけ、聴き手にも相応の緊張を求めている。ある意味、自分が神のように自由にやりたい放題の演奏をして、聴き手に押し付けるところもある。しかし、これに対してケベックの場合には、ライブに集う人々の間に楽しい時間や空間をつくる手段として演奏しているような音楽をやっているように思える。例えば、ライブハウスのテーブルについて、とくに音楽を聴いていなくて酒を飲んでいる人を否定することなく、音楽で、その人が気持ちよく酒を飲めるような雰囲気に自然となっていることでよしとする。そういった性格の音楽をやっているプレイヤーではないかと思う。
 ケベックの音楽スタイルは、中間派といわれ、彼が音楽活動していた時には、時代のジャズであったバップに比べて、昔のハーレム・ジャズとかスィングとかを引き摺ったアナクロと言われるようなスタイルだった。それは、例えばアドリブで走ったりしないで、彼の吹くフレーズのひとつひとつがメロディックで親しみ易く、それを聞きやすくするために野太い音でメロディがはっきりと分かるように朗々と吹いている。それだから、聴きようによっては昭和の歌謡曲ムードをキャバレーで演っているようにも聴こえる。そういう通俗性がある。しかし、そういうコテコテさに陥ってしまう一歩手前のところでの寸止めの一線をケベック自身がわきまえていて、その一線を越えないでとどまっているところで下品にならず品格を保っている。例えば、ブロウを派手にブチかましてオーバーブローになることはなく、サブトーンですすり泣くような吹き方をするときでも抑制がきいているので、悠々としたハートウォームなトーンとして聴こえてくる。そのため、聴き手はリラックスして、安心して身を委ねることができる。
 このように書くと、単に心地好いだけのムード音楽と受け取られてしまうかもしれないが、ケベックの演奏には抑制が効いており、その土台には自己の音楽を冷静で客観的に見る視線と、過剰を律する自己に対する厳しい姿勢があって、それが彼の演奏に品格を与えている。
T MIGHT AS WELL BE SPRING   1961年12月29日録音
Jazleeknitz_har  It Might As Well Be Spring
 A Light Reprieve
 Easy Don't Hurt
 Lover Man
 Ol' Man River
 Willow Weep For Me
 Ike Quebec (ts)
 Freddie Roach (org)
 Milt Hinton (b)
 Al Harewood (ds)
 『春の如く』という邦題と、緑色の基調のジャケットデザインが、このアルバムの雰囲気に寄り添うようで、見事に印象を表わしている。
 最初の「It Might As Well Be Spring」は、ゆったりとしたオルガンのイントロに導かれるように入ってくるケベックのサックスの音。あまりにも低くゆったりと吹かれる。それは、ジョン・コルトレーンやソニー・ロリンズの演奏に慣れた耳には、いかにも一時代前の古臭くも聞こえる演奏は、却って新鮮で衝撃的に響く。ドロドロといっていいほどのスローテンポの演奏で、野太いテナーサックスの音色、溜めに溜めたようなグルーヴ感。スタンダードナンバーのブルージーなテーマを、ケベックのサックスで聴くと、まるでひとむかし前の切ない歌謡ムードを想わせる。それは、ジャズが通俗的な大衆音楽であることを、今さらながらに想い起させる。そのあとに続くアドリブパートもビバップのようなハイテンションになることなく、少しテンポは上がるものの、大らかでリラックスしたトーンが一貫している。しかも、ケベックの吹くフレーズはメロディックで朗々としている。バックも、ケベックに寄り添うように、フレディ・ローチのオルガンは冒頭の「ショワー」というシャワーのようなサウンドは、聴く者を一気に、この世界に招き入れてしまうもので、ゆったりと気持ちの良いテンポを形づくっていて、ミルト・ヒントンのベースは、ゆったりと大股で歩くように「ズンズン」と弾かれている。ケベックを中心に4人の奏者が、ビバップより以前のハーレムジャズをルーツにする中間派と呼ばれるスタイルで一貫していて、居直ったような自信に溢れる演奏をしている。
 次の「A Light Reprieve」は、アップ・テンポの曲になり、若干ドラムスが煽るようなところ見せるが、ケベックはいっこうに動じることなく悠々とした演奏を崩さない。
4曲目の「Lover Man」もスタンダード・ナンバー。1曲目に輪をかけたスローな曲で、バラードのように立ち止まって歌うというのではなく、そのスロー・テンポでもグルーヴするノリは超絶的と言えるかもしれない。1曲目と同じように野太い音でサブトーンというよりはブレス漏れになりそうなほどのしのび泣くようなソウルフルなサックスの暖かい響きで、歌心あふれるフレーズを次から次へと繰り出してくる。
 次の5曲目の「Ol' Man River」は、このアルバムでもっとも急速なナンバーで、スイングするケベックは緊張感の高い演奏を展開し、後半にはリズム・セクションもそれにつられて徐々に盛り上がってくるのだが、どこか鷹揚としているように聴こえてくる。
このアルバムは全体としてスローテンポのゆったりとしたナンバーがほとんどで、ケベックのアナクロな野太い音に酔うようにして、リラックスして身を委ねていたい。

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