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2018年1月 4日 (木)

ベスト・セレクション再び

 今年最初の投稿は、このごろやっていなかった昨年のベストセレクションを、またやってみたいと思います。簡単に。昨年は、単行本では75冊ほど読みました。その内訳は、ビジネス書と、その関連の経済や社会をテーマとしたもの、趣味の音楽や映画の関係のもの、そしてそれらのベースとなるような思想・哲学に関係するものなどです。ここ何十年もその傾向は変わらないままで、偏りが固定化してしまっています。新刊書も購入していますが、この狭い範囲で新しく書かれたものを読んでいるだけで、旧弊の狭い範囲のなかで目新しいと目に映ったものに手を出している、というのが私の読書傾向です。そんな中で、最近大きな変化がありました。それは小説を読むことが、ほとんどなくなったことです。しかも読んだのは古典ばかりで、新作は、まったく読みませんでした。興味が失せてしまいました。
では、昨年読んだ中から、印象に残った数冊をセレクションしてみます。
「石油の呪い─国家の発展経路はいかに決定されるか」マイケル・ロス
 石油の存在がかえって経済成長を妨げるという、それは原油の輸出が通貨高をもたらし、その他の産業の競争力を削ぐからです。しかし、石油は、こうした経済的側面だけにとどまらず、政治的な側面にも負の影響を与えるのです。本書によれば、1980年以降、産油国は非産油国に比べて民主化が進展せず、より秘密主義的になっています。また、途上国の産油国に限れば、女性の雇用や政治的な進出が進まない傾向が見られ、暴力的な反乱に苦しむ傾向にあります。こうした石油のもたらす政治的な負の側面を、明らかにしたのがこの本です。
「男が痴漢になる理由」斉藤章佳
 全部と言いえないが、多くの痴漢は一種の依存症で、“いじめ”とよく似ている。痴漢をする人は、どこにでもいる普通の男性で、それは、きっかけがあれば、男性なら誰でも痴漢の常習者になるという衝撃的なところから始まります。そそのきっかけの多くはストレスで、ストレスを抱え込んで発散できず、自暴自棄に陥る。その時に、自分より弱い存在を支配したり、押さえつけたりすることで、自分を取り戻す。痴漢は、自分より弱い存在として女性を捉え、いやがることをして、追い詰め、傷つけ、征服し、その結果として優越感を得る。それでストレスは吹っ飛んでしまう。これは“いじめ”のおこる構造とそっくりだと著者はいいます。そのベースには社会的に女性を弱者の立場に抑え込んでいるという構造がある。つまり、社会や人の在り方の歪みが女性をはけ口にしてプレッシャーを及ぼしたあらわれが痴漢であることを明らかにしたのが、この本です。
「奉教人の死」芥川龍之介
 小説を、ひとつだけ取り上げましょう。古い作品です。その中の「おぎん」という短編です。あらすじをかいつまんでいうと、つぎのようです。おぎんという少女は、大阪から長崎へ両親とともに流れてきたけれど両親は死んでしまった。両親はおそらく仏教徒。そこで、おぎんはキリシタンの孫七の家に引き取られた。孫七はおぎんに洗礼を施して育てた。しかしクリスマスの日に、孫七一家は役人に捕えられてしまう。代官の家に引き立てられて、改宗しろと拷問を受ける。けれど一家は苦にもせずキリストのことを思えば自然と耐えていた。いっこうに宗旨替えする気がないのを見て、代官は三人を焼き殺す決断する。刑場に引き立てられてはりつけにされて、火あぶりとなる直前、度重なる拷問に耐えたおぎんは、「わたしはおん教えを捨てることにいたしました」と言う。本当の両親は地獄へ落ちているのに、自分だけ天国へ行くのは申し訳がたたないから自分は地獄へ行く、お父様お母様(孫七夫婦)はどうぞ天国へ行ってください。と
 この場合、救われるのは信仰を貫いた個人であって、おぎんはこのまま殉教すれば、天国に入れるわけです。しかし、彼女の両親はキリスト教を信仰していたわけではないから天国には行けません。それをおいて自分だけ天国には行けない。これは、最近映画になった遠藤周作の「沈黙」と似た問いを投げかけているものです。自分だけ救われようとするのは、実はエゴイズムではないのか。救われたい、天国へ行きたいということは、実は貪欲ではないのか。それは、人として倫理的なものなのか。おぎんは天国へ行けない人がいることを知っていて、罪深い人の側に敢えて立とうとしました。おぎんは転びバテレンとして汚名を受け、天国へは行けないことを自覚しながら生き永らえることになるのです。何が救いなのか、その問いが読み手にとって澱のように重苦しく内で残ります。小説は悪魔が高笑いするところで終わります。
 今回のセレクションは少ないのですが、こんなところで。今年も、本の感想や読書メモを投稿していきたいと思います。

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