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2018年2月17日 (土)

『資本の世界史』を読んだ。

 『資本の世界史』を読んだ。
 著者はドイツの経済ジャーナリスト。資本主義を資本を投入することで将来のより多くの資本を手に入れる、つまり利益を上げるのを目的とする、要するに指数関数的な成長を生むプロセスだという。この資本というものが近代に生まれたという。資本とお金とは違う。お金は交換手段であるのに対して、生産を効率化するプロセスに伴うのだという。それは18世紀のイギリスで紡績工場主が織機や紡績を機械化したときに始まった。いわゆる産業革命だ。史上初めて人間の労働力が技術によって代用され、それに伴って富が生まれた。ここでつかわれたのが資本。そして、これを境に指数関数的な経済成長が始まった。
それがイギリスの北西部で生まれたのはなぜか。機械は昔からあったし、蒸気機関という動力も以前から知られていた。まして、イギリスは技術の先進地域ではなかった。著者は、その理由をイギリスの賃金が当時の世界で一番高く、そのために人間の労働力を機械で代用することで初めて利潤があがったこと、かつ、労働者の賃金が高くなったので購買力が高まり市場が拡大したことを指摘する。つまり、フランスなどの大陸諸国は利潤を上げるために賃金のダンピングをして、生産力を高め、効率を高めることを考えなかった。
このことは、資本主義経済に不可欠な市場競争というのは近代になって人為的に作られたもので、決して自然にあったものではない。その維持のためには不断の努力、つまり適切なコントロールが不可欠だという。
 著者の言う経済学というのは、自然科学ではなく、歴史学のような事実から特定の意味を引き出すということは、語る(書く)という営みと重なるもものだということになる。
これを具体的な事例分析を進めていくと、従来とは違った地平が広がってくる。それは面白いのだ。
 経済活動というのは、ふつう、儲け即ち利潤を求めるもの。利潤は、単純化すれば、収入と支出の差。ここでちょっと立ち止まって考える。ある企業が儲けるということは売上という収入が仕入という支出より多かったということ。かりに市場にAとBの2社しかないとしよう。A社が儲けたということは、その分だけお金をガメたことになる。市場内のABの関係はAが買ったより売った方が多いので、Bはその逆ということになる。これはゼロサムゲーム、即ち限られたパイの奪い合い。Aが利益を出すことは経済成長に結びつかない。これがヨーロッパで近代を迎える前の経済。
 近代の資本主義経済は、A社が儲けた利潤を、将来に向けて生産規模を拡大しようと考え、将来の拡大する売上のための仕入れや設備を買うことになったという点で、以前とは一線を画す。これをA社とB社だけの市場で考えると、A社が儲けたといっても、A社は儲けた分でB社から買い物をする。そうすると、B社の売上が増えて、B社も儲けることができることになる。このとき、A社が儲けてガメた金は、将来のために使った。それは将来への投資となって、使ったお金は資本ということになる。また、B社も儲けを、将来もっと儲けるために設備や仕入れに投資する。そうすると、儲けの分は市場で売り買いされる量が増えることになる。それは市場規模が大きくなっていく、つまり成長することになる。それが経済成長ということだろう。せっかく苦労して儲けたのを、本当のところ先がわからない未来に向けて投資するという発想の転換。それが資本主義の始まり。それがあったからこそ、18世紀イギリスの産業革命において機械化という挑戦的な投資を実行することにつながった。
 1929年の大恐慌について著者は言う。1920年ころからの技術革新と飛躍的な生産効率化で生産が拡大し、企業の利益が爆発的に増えた。この拡大した生産によって溢れた商品を購入できるように労働者の賃金が相応に上がるべきだったが、経営者は増大した利益を賃金に分配せず自らの懐に入れた。結果として売上は不振になった。利益を懐に入れた一部の裕福な人たちが贅沢をするくらいでは全体の消費は増えないから。需要が増えないので事業投資は滞った。その先にあったのが投機というわけで、投機で儲かれば、労働者を雇ったり機械を買ったりして生産するより効率よく儲かるし、儲けを独占できる。というわけで、ますます投機がエスカレートした。何か、これって、今の日本の政権が賃上げを経済政策として求めている理屈とそっくりではないか。
 これを世界恐慌に拡大したのはヨーロッパに波及したためで、の大きな原因はドイツの事情に在ったという。ドイツは第1次世界大戦に負けて莫大な賠償金を課せられた。ドイツが賠償金を払うためには輸出をして外貨を稼ぐしかなかった。しかし、英仏はドイツから大量の商品が輸入されると自国の雇用が脅かされるため規制した。そのため、ドイツは支払いのために大量に国債を発行した。しかも、信用が低いから利息を高くしないといけない。それに飛びついたのがアメリカの投機家たち。つまり、アメリカは自国への賠償金を間接的に自分で払っていたことになる。それが株価の暴落で資金ショートを恐れた投機家たちが、一斉にドイツの国債や投資を引き上げ始めて、ドイツ経済はあっと言う間に崩壊し、英仏の投資家もドイツに多額の投資をしていたことから欧州全土に波及。何かこれって、最近のギリシャに端を発したユーロ危機と同じではないか。
 その後、各国の財務当局は緊縮策をとったので、経済は収縮の方向に雪崩をうったため、立ち直りの機会を失い、不況は長期化してしまった。結局、アメリカが実質的に不況を脱するのは第2次世界大戦の戦時増産を待たねばならなかったという。

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