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2018年3月 9日 (金)

池田学展「The Pen─凝縮の宇宙」(7)~Chapter4 ミクロコスモス Microcosmos

Ikedacoyote 図鑑の図像のような博物学的な精密さで動物や昆虫が描かれたもの、あるいはそのペンに加速度がついて暴走したような想像を働かせた幻想的な生物風景といったもの、小さなサイズの紙に描かれた作品です。このコーナーは、他のコーナーに比べると相対的に人ごみは薄くなっていたので、時折、足をとめてゆっくり作品を眺めることが、かろうじてできました。

「コヨーテ」という作品です。これも細かいです。ほんとに毛の一本一本を描いています。しかし、この細かさは以前にも述べましたが量的であって質的ではない。変な言い方で、何言ってんのか、と思われるかもしれません。分かり難いかもしれませんが、例えば、安藤正子の「貝の火」という作品とくらべてみてください。両方とも狼を横から描いています。両方とも細かいです。とにかく安藤の線、極細の薄く引かれた線の1本1本が繊細で、それらが細密にひかれ絡んだり、揃えて引かれたりと、その線の様相とか、時に躍動的だったり、時にほのかに輪郭が仄かにボカされるのを見てください。それが集約的に見て取れるのが、狼の毛皮の毛のところ。毛の11本が、柔らかく細い髪の毛が丁寧に描かれていて、微細で、これだけのものを描くのに、どれほどの労力と時間がかかったのかと思うと、凄絶としか言いようがないのです。失礼な言い方ですが、これを池田の線と比べてみると、池田の線は無造作に、とにかく数をたくさん引いているように見えてしまうのです。安藤は、線のひとつひとつを描いては、サンドペーパーで削ったり様々な処理をして、それこそ1Ikedazebra 本の線に精魂を傾けて描いているようなのです。それが距離をおいてみると、自然でそういう痕跡が全く見えません。そんな風に描かれた、柔らかな狼の毛皮を見ていると、描かれている題材とか、内容とか、そういうものは、どうでもよくなって、画面に引かれた無数の線が作品をかたちづくっている様を見ることだけに浸っていたい、それこそが快感と感じさせられてしまうほどなのです。そこに目で柔らかな肌触りが、触覚が伝わってくるのです。池田の細密描写には、そういう肌触りが伝わってくることはありません。言ってみれば、安藤は、細かい描写をしている線の一本一本を彫琢し磨き上げていきます。細かく描くことにとどまらず、細かさの質も追求しているのです。池田の場合は線を稠密に引いていますが、安藤のような質の追求には至っていません。それゆえ、池田の作品は細かくて精確なのですが、狼の毛や肌の柔らかな質感とか生き生きとした生命感のようなものは感じられないのです。もとより、池田の作品は、そういうところを追い求めているわけではないので、肌の質感を池田の作品に求めるのは見当違いかもしれません。

「グレビーシマウマ」も正確この上ない。こういう動物や昆虫を正確に細かく描くというのは、池田は好きなのだろうと思います。しかし、それは描くということが好きなのであって、シマウマやコヨーテは描く対象以上のものではない、そう見えます。シマウマやコヨーテが好きで、それを描こうとして細かくなってしまった、というのではないと思います。前のコーナーで福岡伸一の文章を引用して、細部と全体の両方を同時に目配りしてしまうバランス感覚のようなことを述べましたが、それが可能となるためには、描く対象に囚われてしまっては不可能だということでしょうか。池田の描写には対象に対する思い入れ、例えば愛が直接には感じられません。それが、人物画あるいは人の表情とか感情のあらわれといったことを描かないことと関係があるように、私には思えます。

Ikedainsect 「モリオウムシ」は海中の珊瑚礁があつまって偶然に出来てしまったような、想像力ぶっとびの昆虫ですが、遠くから眺めると、昆虫の精確な描写に見えてしまいます。

こういう小品がたくさん展示されていました。

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