池田学展「The Pen─凝縮の宇宙」(1)
2017年10月日本橋高島屋8階ホール
高島屋のホームページには会場は混雑していて、午後4時以降の来店を勧める記述があり、ネットでの書き込みも混雑を伝えるものが目立っていました。私にとっては、仕事で外出の用事が終わった後の帰りのついでに立ち寄るので、むしろ都合がいいと思い、行ってみることにしました。池田学という人を知ったのは、たまたま見たNHKのドキュメンタリー“明日世界が終わるとしても「ペン1本 まだ見ぬ頂へ」”
で彼の「誕生」という作品の制作しているところを映してして、それに興味を持ったからです。普段はデパートなど行くことはないので、このような催し物の人出がどのくらいなのか分かりません。しかし、だいたい5時くらいに地下鉄の日本橋駅から売り場直通のエレベータが満員で、途中の階で降りるひとなく、最上階の8階の催し場で堰を切ったように降りて、その人たちが会場に向かっているのを目にして、普通じゃないと直感的に思いました。デパートのフロアの一部をパーティーションで仕切ったような会場は、美術館等とは違って粗末で狭苦しい雰囲気で、デパート館内のBGMが聞こえてきて、とこも落ち着いて絵画を鑑賞する雰囲気ではないのですが、入場券窓口には十数人の列で、係員もテンションが高い感じがしました。会場に入るとそれぞれ作品の前にはひとだかりがしていて、しかも、その人がなかなか動かないので、作品を人越しに眺めるような感じでした。大作が多かったのですが、細密な部分を探索するように虫眼鏡持参で見つめている人もいるくらいで、見ている人が作品の前を離れないでいるのです。美術館の展覧会でも混雑している場合がありますが、鑑賞している人は、ゆっくりでも動いているので、流れに従っていれば作品を見ることはできるのですが、ここでは作品の前でなかなか人が動かない。そこに後から後から人が入ってくる。比較的すいていると書かれていた時間帯ですら、これだけ混雑しているのですから、日中の混雑時では、作品を人越しに眺めること儘ならないような状態なのではないかと想像してしまいます。それだけ人気があるということでしょうか。
池田学という人が、どのようなどのような作品を描いているか。主催者のあいさつでは、次のように説明されています。“わずか1mmに満たないペン先の線で壮大な世界を描き出すアーティスト、池田学。1日に約10センチ四方の面積しか描くことができない緻密な描写とスケールの大きな構成が、現実を凌駕するような異世界の光景を現出させ、アメリカをはじめ世界で高い評価を得ています。本展では、アメリカ・ウィスコンシン州のチェゼン美術館に滞在しながら3年かけて制作された新作「誕生」をはじめ、世界中のコレクターや美術館が所蔵する池田氏の作品を集めて一堂に展覧。画業20年の軌跡を辿りながら、池田氏の豊かな想像力の秘密に迫ります。”
もうちょっと具体的に、図録にあった説明を引用します。“細部まで描き込まれた精緻な描写、画面全体にみなぎる緊張感と圧倒的な空間性。細部のストーリーの豊富さとともに、池田学の作品はその前に立つ人を飽きさせない。すべての部分にピントの合った明晰かつ妥協のない筆致は、それらすべてが1mmに満たないペン先から描き出されているという事実によって、見る者に驚きと興奮を与える。少し離れてみると、細部をまるごと包み込むように、広大な空間の中に屹立するひとつの宇宙の姿が立ち現れる。(中略)全体の下書きや習作を描かないという池田の制作は、白い紙の上に小さなモチーフをひとつ描くことから始まる。草木、魚、電車や建物のような身近な事物に始まり、結婚、出産など池田自身が経験した出来事、映像やインターネットの画像など、日々の記憶に蓄積されたイメージが現れ、細部から細部へ描き連ねられる。あるものは形を変え、あるものはぶつかり合い、相互に干渉し変容する。幾重にも重ねられたペンの線が色彩の深いグラデーションを生み、細部の有機的な陰影を形づくる。こうして縫いつながれたディテールはある瞬間から巨大な生態系の姿に変貌し、空気と秩序をまとい、全体と細部との絶妙な表面張力の上に顕現する。”これでも抽象的かもしれませんが、池田の作品の全体像を要領よく言い表していると思います。しかし、それをどのように見る人は捉えるか、何を魅力としているかを具体的にイメージできません。また、ここで触れられていないのは、池田は何を描いていないかというと、これがけっこう、この人の魅力を探る上で意味を持ってくるのではないか、と思います。そのあたりのことを頭の片隅に置きつつ、作品の感想を述べていきたいと思います。
なお、作品は、次のような構成で展示されていたので、それに従って記述を進めて行きたいと思います。
Chapter1 エピソードの始まり The
beginning of the tale
Chapter2 想像の旅人 The traveller’s imagination
Chapter3 自然と文明の相克 The Rivalry
of Nature and Civilization
Chapter4 ミクロコスモス Microcosmos
Chapter5 様々な断片 Various
Fragments
Chapter6 誕生 Rebirth
« 高山真「羽生結弦は助走をしない」 | トップページ | 池田学展「The Pen─凝縮の宇宙」(2)~Chapter1 エピソードの始まり The beginning of the tale »
「美術展」カテゴリの記事
- 没後50年 鏑木清方展(5)~特集2 歌舞伎(2022.04.06)
- 没後50年 鏑木清方展(4)~第2章 物語を描く(2022.04.05)
- 没後50年 鏑木清方展(3)~特集1 東京(2022.04.02)
- 没後50年 鏑木清方展(2)~第1章 生活を描く(2022.04.01)
- 没後50年 鏑木清方展(1)(2022.03.30)
« 高山真「羽生結弦は助走をしない」 | トップページ | 池田学展「The Pen─凝縮の宇宙」(2)~Chapter1 エピソードの始まり The beginning of the tale »
コメント