内部監査担当者の戯言(3)
2年前の会社法の改正によって監査等委員会設置会社という新しい会社の経営形態が生まれ、上場会社の3割以上が、それまでの監査役会設置会社から、この監査等巣委員会設置会社に移行しました。私の勤め先も、この3割の中に入ります。
しかし、これが実際にやってみると運営面でなかなか難しい問題が出てきます。この制度については、多くの著作や監査等委員のためのセミナー、コンサルティングあるいは監査役協会などでのマニュアル等がでています。しかし、それらは考え方や立案する形式的な手続についてしか触れられておらず、実際に運営していくという実務的な視点では考えられていないということがよく分かります。
実際のところ、監査等委員会設置会社に移行した会社の大部分はジャスダックや東証二部の大企業ではない会社が多く、社外取締役の導入に対するプレッシャーが強くなってきて、監査役会設置会社でいると社外監査役2名のほかに社外取締役を選任すると社外役員が最低でも3人は確保しなければならなくなるのに対して、監査等委員会設置会社にすると社外取締役2名だけですむ。しかも、コーポレートガバナンス・コードでは社外取締役の2名以上でないときは理由を説明することといったことから、監査等委員会設置会社に形式上は移行して、中身は従来と変わらないという場合が大部分のようです。だから、そういう会社は運営の問題などは気にしない。それゆえに、そのような問題点があまり表立って議論されないのではないかと思います。著作を書いた先生方やコンサルタントやセミナー講師は、実際に実務面での問題を想定できないだろうし、その解決の答えを見つけることはできそうもないから、敢えて問題を掘り起こすことはしないのではないか、と勘繰ったりもします。
例えば、実務上の問題として監査等委員が、その職務をサボろうとしたら、いくらでもそれが可能だということなのです。裏側から見ると、監査等委員が頑張って職務に打ち込もうとする動機づけは制度の形式的な面からも、実際の監査等委員をめぐる環境から(監査等委員にはおとなしくしてもらったほうがいいというのが本音の経営者が多いでしょうから)も、業務執行取締役を頑張らせる仕組み(インセンティブとか)はあっても、監査等委員を頑張らせる仕組みはないでしょう。逆に社外取締役の場合は、報酬も少ないし、しかし、取締役の責任は平等に負わされる。しかも、業務執行取締役であれば会社の業績が悪ければ任務懈怠を問われますが、監査等委員の場合には怠けていて監査の指摘をしなくても平和はよいこととして任務懈怠を問われないということがあります。
したがって、監査等委員は、取締役会には欠席しないなどの形式的なことだけやっていれば、あとはボロが出ないで無難に過ごせるわけです。仮に、何か事件が起こった場合でも、決定的な逃げ道があります。それは、監査等委員は監査の実務を自分でやらないで会社の内部統制システムを使う、つまり、会社の担当者に指示して監査させて報告を受けるという方法ですることになっています。だからも何か事件があって事前にチェックできなかったことに対する責任を問われた場合、内部統制システムが機能していなかったとして、会社の担当者に責任をなすりつけることができてしまうけです。監査等委員には情報が届かないようになっていた、と言えてしまうわけです。
実際の実務の場で、社外取締役は会社のことをよく知らないので、理解してもらうためにレクチャーをしたりしていますが、当の社外取締役はそのレクチャーに関して難しくて理解できないと、ずっと言っていれば、事件があったときに、会社のことは理解できないし、情報が伝えられていなかった、と言えてしまうのです。
こんなことを述べているのは、実際に私自身が現場で苦労しているとは、こんなことを言うと、実在の監査等委員への中傷になってしまいかねないので、
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