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2018年3月 6日 (火)

池田学展「The Pen─凝縮の宇宙」(4)~Chapter3 自然と文明の相克 The Rivalry of Nature and Civilization(1)

Ikedabirth この展覧会では、最後に目玉の「誕生」が控えていますが、それまでの、いわば現在の池田の代表的な作品が、この時期に制作されているという、メインのコーナーです。おそらく、そのなかでもメインとなる大作が「予兆」という作品でしょう。葛飾北斎の「富嶽三十六景」の「神奈川沖浪裏」を想わせる大きな波があらゆるものが呑み込んでいく、例えば、家屋、ビル、電車、飛行機、船。波によって古いパゴタ神社、現代的な建物が倒壊し、船が転覆あるいは打ち上げられ、線路がねじ曲がり車両は転落し、左下の工場または発電所らしき建物から不吉な煙が噴き出している一方で、その右側には懐中電灯も持った作業員がロープを伝って半壊したコンクリートの格納容器を調査し、墜落した旅客機と崩壊した高速道路の骨組みの残骸がぶら下がっている。このように言葉で記述すると、いかにも黙示録的な光景ということになってしまう画面で、距離を置いてざっと眺めると、そんな印象を抱かせる作品です。

Ikedabirth2 しかし、近寄って画面右側の大きな白い波頭とおぼしきものを、よく見ると雪であることが分かります。雪や氷河で蔽われた大地が溶けて、波のように盛り上がって崩れて流れ始める光景と言えるのではないかと思います。「興亡史」もそうでしたが、池田の作品、とくに大作は、小さな部分が集まって積み重なったものが、城になったり巨木になったり仏像になったりしたものでした。そして、その集合した全体が、みな崩壊していく光景でした。そこでの小さな部分を、見る者は、そこにちいさな物語を見つけ出すことが、単に細部に何が描かれたかを見るだけでなく、発見したことに喜びを起こさせるところがありました。その小さな物語があつまって、相互に関係しつつ、大きな物語を作るのではなく、全体としての大きな物語がそれらの小さな物語とは別個に、それらとは無関係に存在し、その大きな物語が小さな物語を呑み込んでいく、そういう全体の構図が共通しています。つまり、小さな物語が無数に散らばっていて、それらとは別に大きな物語の流れがある。それらのどちらかが埋もれることなく、どちらも際立つように表わしていくためには、小さな物語と大きな物語を対立的に扱うのが効果的です。小さな物語は、人々が日常生活で楽しんだり、生活を送ったりしている物語だったりするのですから、それ対立することを大きな物語とするとすれば、生活を送っている物語を障害となる物語、もっていえばそれらを潰そうとする物語が適しているということになります。その物語の対立が、画面を見る者にドラマとか動きを感じさせることになるわけです。つまり、この作品が「予兆」というタイトルをもっていて、全体の構図が大波に人工的な都市生活が呑み込まれて崩壊していくということで、テーマ性があるような様相ですが、画面において、細部の物語とそれらが集合した大きな物語が別々につくられて、そのすべてが埋もれることのないように際を立たせるために、必然的に小さな物語をポジティブなものとして、大きな物語をネガティブにしたという、画面構成の要請から、このような構図となった、と私には見えます。

だからこそ、この大災害あるいは大惨事に対して、恐怖の叫びとか悲嘆の声といったことが一切描かれていないのです。この作品にはたくさんの細部がありますが、そのなかで、このような事態に対して防護措置をとろうとする様子や被害にあった人々を助けようとする場面はひとつもないのです。つまり、大波に呑み込まれているけれど、その呑み込まれた側の受け取られということが何もない。つまり、そこに関係性が描かれていないのです。それに加えて、大波に呑み込まれているものの間に、別の日常が事細かに描きこまれている。例えば、雪山のリフトで遊ぶスキーヤー。散策する子連れの若い夫婦。プールのウォータースライダー。それらは雪の斜面を滑り降りたり、波に乗って遊ぶという、この大きな物語の大波を遊びに読み替えてしまうのです。

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