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2018年4月 5日 (木)

没後30年銅版画家 清原啓子(7)

Kiyoharaafter  「後日譚」という作品は、1980年代はじめのころの作品で清原の短すぎる活動期間の中では比較的早い時期に制作された作品です。遠目に一瞥すると森の散歩道のような図式ですが、「楽園の薔薇」では様式化されて、すっきりと整理された模様のように描かれている植物、草や蔓が縦横に繁茂して全体を覆い尽くすほどで、まるで草や蔓にのみ込まれてしまうような状態になっています。清原の、この時期のいくつかの作品に共通している要素(ストーリー)なのだろうと思います。細い草や蔓、あるいは小さな細胞のような粒が増殖して、それが画面の一部や全部を侵蝕するように覆い尽くして併呑してしまうという要素(ストーリー)です。それは、画面を描くという作業においては草や粒でびっしり埋め尽くされるのを微細な線を無数に引いたり、細かい点を無数に打つ点描で画面を埋め尽くすということになるというわけです。草や粒を描くために細かな描法が必要だったのか、細かく描くという行為に適した対象が草や粒だったのか、卵が先か鶏が先かのような話ですが、おそらくどちらが先ということでもなかったと思います。あるとき、清原はそれに気が付いてしまった。そのことを想像できるのが、最初に展示されていた「鳥の目レンズ」という作品です。画面を四分割しているという清原の作品には珍しい佇まいをしていますが、おそらく最初のころで、意識して銅版画を制作したというものではなくて、授業とか先生に勧められて何の気なしに着手したのではないかと思います。それは四分割の画面の左上の鳥の姿の下手さです。これは清原の作品を見ていて感じるのですが、この人はリアルな実物を見てそれを自分なりに平面に置き換えて図像にするというのは下手で、すでに描かれた図像をお手本にして自分なりのアレンジをするという描写をしているように見えます。この「鳥の目レンズ」の鳥は、鳥には見えますがサマになっていないのです。しかし、視線を右に移して右半分のふたつの画面を見ると蔓が繁茂したように細い線が鳥を覆い尽くしています。これにも、お手本はなかったのに、左側の画面の鳥とは違ってサマになっている、というより見ていて惹かれるところがある。描いた清原は、もっとそれを感じたのではないでしょうか。この作品が、それだと言えるわけではありませんが、清原は、この前後で細い線で描きこむ、草や蔓、あるいは網のような細長いものが無数に集まったものを描くということにハマッたのではないか。そこで清原は出会ってしまったのではないかと思います。そこからスタートしているのが清原の作品であるというのが、私の個人的な清原の作品の見方です。そういう視点で見ていくと、この「後日譚」という作品Kiyohararain は、細い線で描きこむ、草や蔓のような細長いものを描きこむということをエスカレートされていった作品として、私にとっては清原の特徴がストレートに出ている作品だと思います。画面の左右の下端の部分を占める繁茂している草葉は絡み合っているように、蔓がどのように伸びているか分からないくらいにゴチャゴチャの渾沌とした状態です。その絡み合っているような感じが、全体として細い線が無秩序に集まって蠢いているような、不気味でおぞましい感じが伴うのですが生命感を生み出している。適切ではないかもしれませんが、ざるに鰻いっぱいに入れてそれらがくねくねと身を捩じらせて、動いているようなイメージです。一方、画面の右側に樹木が立っていますが、そこに蔓が幾重にも絡み付いています。さらに、その樹木の幹そのものも、一本の太い幹が直立しているのではなくて、太い蔓が何本も縒り集まっているようなのです。そして、よく見ると、その樹木の左下の倒木(鳥がとまっている)も何本もの蔓が集まったかのようです。そういう視点に慣れてくると、画面上方の空の雲は小さな細胞が増殖してできているようなものに見えてきます。というより、そういう風に描かれています。ここには、世界全体が細かいものに侵蝕されていく、喩えていえば、人の肉体が癌細胞に侵されて行くような、じわじわ迫ってくるような恐怖感が湧き上がってくるような、本質的に不気味な作品になっていると思います。そういう不気味さは清原の作品の底流にあって、それは清原が細かく描き込むということと切り離せないものとなっていると思います。この「後日譚」という作品は、そういう清原の特徴(魅力)がとても分かり易い形でストレートに表われていると思います。また、「雨期」も同じようなタイプの作品です。そして、この頃の渾沌としたものが、次第に整理されていったのが晩年の作品ではないかと思います。

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