オットー・ネーベル展(2)~1.初期作品 Early Works

初期作品として展示されていたのは、主に1920年代の習作のような作品ということでしょうか。「山村」という作品。南ドイツ、バイエルンのコッヘルという山村に滞在していたときの作品ということです。水彩画ですが、水彩絵の具に特有の色の感じや、ぼかしやにじみなど効果のせいかもしれませんが、色彩のセンスは、ネーベルは天与の才能と
して持っていたのが分かります。原色に近い鮮やかな色を使いながら、決してどぎつくならない、色と色とが対立するような緊張関係を作らないで、見ている者には刺激的になっていません。また、画面に天地の関係が分からない空間になっていたり、人や動物が画面に浮かんでいるように見えたりする画面構成は、まるでシャガールのようで、画面中央にはシャガールを想わせるような緑色の牛(馬?)が背景とは不釣合いの大きさで描かれています。山荘風景というよりは、幻想といった方がいいかもしれません。同時に展示されていたシャガールの「私と村」の左手に白く描かれている馬と「山村」の真ん中下の緑色の牛を比べて見ると、よく似ていると思います。また、パウル・クレーの「いにしえの庭に生い茂る」の庭に繁る草を上からなのかもしれないが、どの視点でみているか分からないのに、どこか秩序があるように落ち着いているのに、発想が似ているようにも見えます。

シャガールの作品と似ている作品であれば「アスコーナ・ロンコ」の方が、もっと似ているかもしれません。この作品は、さらに、色のぼかしやグラデーションを施しているところなど、カンディンスキーのムルナウ時代の抽象に足を踏み出そうとしていた時期の作品にも似ていると思います。これらの作品を見ていると、ネーベルが新し
い芸術を作っていこうとする仲間に恵まれて、彼らから刺激や影響を受けていたことが想像できます。おそらく、ネーベルという人は“いい奴”だったのではないかと想像できます。ただし、この“いい奴”というのが曲者で、それは必ずしもすばらしい作品を制作する人とは結びつかないからです。これらの作品を見ていると、シャガール、クレー、カンディンスキーといった人々に埋もれてしまっている感が否定できません。ネーベルの突出したところがなくて、これらの作品で三人の画家の要素がないところがネーベルという、いわばシャガールでも、クレーでも、カンディンスキーでもないという否定からでしか語ることができない、しかも、そういうところがなかなか見つけにくい。そういう性格は、ネーベルという画家の作品に終生ついてまわったのではないかと思われます。それは、私が作品を見るかぎりでの想像でしかありませんが。

「二枚のパレット」という作品です。私は、この作品にネーベルらしさが生まれてきたというように感じました。パレットや画材を類型化し図案化したような作品です。他の画家たちが物体の外形を写すことから自分が認識するという方向で事物の外形から脱皮していこうとしているときに、あえて外形を取り出して図案
のようにするという、どちらかというと後ろ向きとも捉えられかねないものを描いている。そこに、周囲の画家たちが内面の目とか抽象といったことにむけて突出していこうというのを見ていながら、そこで振り回されることなく自身を保っているネーベルという人の姿が見える気がしました。しかし、私が、この作品に彼らしさが現れてきているのではないかと感じたのは、そういう点だけではなく、むしろ画像では分かり難いのですが、画面の表面、絵の具の塗り方とか筆の使い方です。この作品の表面が平らではなくて凹凸になっています。べつに絵画の表面が絵の具で凹凸があるのは珍しいことではなくマチエールという物質感をだして絵の具を盛っている作品も少なくありません。しかし、この作品はそういうのではなくて、例えば四角いパレットはタテの方向に絵の具の塗り跡が凸凹になっています。それは、まるで木目のようでもあり、模様のようでもあります。そのパレットの左側は木彫の浮き彫りの跡のような凸凹になっています。これは、展覧会場で照明が当たると、絵の具が光ったり、その影ができたりと、微妙な陰影が生まれるので、実物をみるとよく分かります。それによって画面に変化が生じてくるわけです。これは、あきらかに、ネーベルが絵の具を塗るときに意図的にやったことです。そして、この凸凹が細部に変化をつくっていくネーベルの特徴につながっていくように、私には思えました。それが、私の目に映ったネーベルの突出したところです。


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