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2018年5月13日 (日)

宮川壽夫「企業価値の神秘」

 以前、IR業務を担当していたとき、企業価値の計算とか分析は必須で、そのためにコーポレート・ファイナンスの教科書やデューデリジェンスの解説書などを何度も繙いたりしたが常に頭の中にモヤモヤが残っていた。この本がそのモヤモヤを吹き飛ばしてくれた。「企業価値評価の公式を暗記することには何も意味はない」と筆者。難解な計算は極力排除し背景の考え方に重きを置いて、論理的に伝統的ファイナンス理論の「考え方」を示してくれる。企業価値などと上場会社は言われるが、何で、そういうことをいうのかと言えば、価値が分からなければ誰も投資してくれないから。値段が分からなければ、ものを買えないということ。投資というのは、株だけとは限らず、人の投資(雇用)、物の投資(取引)もそう。では、その価値というのはどうやって量るのかというと、それは企業が将来に向けてどれだけキャッシュを獲得できるか、ということ。しかし、将来のことなので確実性はない。その不確実性がリスクであり、それが資本コスト。大きな獲得のためにはリスクをとらなければならない。つまりハイリスク・ハイリターン。それがゆえに、資本コストは株主の期待値ということになる。そういうところから、将来のキャッシュ獲得ということから割引現在価値の計算に導かれ、知らず知らずのうちにベータ値の原理を納得させられる。そのファイナンスの理論で説明されるPBRやPER、EPSといった指標に対する誤解に目から鱗が落ちる。とどめはマイケル・ポーターのポジショニング戦略をキャッシュフローの原理で論証してみせる。
 面倒臭いと思っていたコーポレート・ファイナンスがこれほど面白いとは、と再発見。この著作はIR担当に就いたときに出会いたかった。今、この職にある人には薦めたい。
 同じ著者の「配当政策とコーポレート・ガバナンス」も併せてお薦め。

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