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2018年5月15日 (火)

内部監査担当者の戯言(12)

 主として上場会社を対象としているコーポレートガバナンス・コードが6月に改訂されます。また、このところ相次いで著名な大企業で不祥事が表面化し、それが世界的に報道されたり、あるいはESGといった要素を評価項目に据えて中長期の投資をする動きも広がっているといいます。そういう状況の中で、企業の側でも中長期のリスクを見すえながら、果敢な経営を進めていく姿勢がないと、成長していくことが出来ない。資本主義の経済では、成長できないということは生き残れないということです。そこでの、各企業のガバナンスの重要性が一段と深まっている。概況はそんなところだと思います。
 その果敢な経営判断を支えるガバナンスということの底流にあるのは、果敢な経営というのは、端的に言えば、競争に勝つことを追求するということで、そのためには、他がやらないことをやれということ。横並びで他と同じ事を繰り返していればジリ貧に陥るという、これまでのパターンから脱皮しろということではないかと思います。だから、コーポレートガバナンス・コードはプリンシプル・アプロートといって、原則だけ述べて、あとは各企業で自社の場合に応じて独自に考えろというという姿勢をとっています。
 それは監査の部分でも、言えることではないかと思います。例えば、グローバルな動きでは2015年に国際監査・保証基準審議会(IAASB)は国際監査基準(ISA)701として「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な事項のコミュニケーション」を発表しました。この基準では、財務諸表が適正と認められるか否かの監査意見に加え、会計監査人が会計監査を行う上で重要と判断した項目であるKAM及びKAMを記載すると判断した理由や対応等に関する記述が求められました。それらをまとめて監査報告の透明化として求められました。KAMとは「監査人が統治責任者にコミュニケーションを行った事項から選択され、当事業年度監査において監査人の職業的専門家としての判断によっても重要であると判断された事項」と定義されています。このKAMというのは、各企業を監査していて、監査人が何が重要かを判断したものですから一律なものではなく、企業によって違ってくるものです。監査は企業のリスクと密接にかかわるものですが、事業のリスクは企業のそれぞれによって異なるし、とくに経営判断ともかかわるものです。だから、監査はそれぞれの企業のリスクに応じて行っていかなければならない。
 そして、この動きの中で特筆すべき点は、その監査結果についての監査報告は、そういう監査の結果なのだから、一律の定式化されたような文章であるはずがないということを明らかにしていることです。
 一方で、日本国内の上場企業の監査報告書の現状を見てみると、ほとんどすべてが一律の定式化された文章の監査報告が公表されています。
 私の勤め先では、コーポレートガバナンスということを重視する姿勢で、監査等委員会設置会社に移行して監査等委員は全員社外取締役になりました。監査等委員の中で会計や財務知識のある人を都市銀行のOBの人にお願いしたのですが、今、ちょうど6月の株主総会に向けて、株主におくる書類の中の監査等委員会の監査報告書の作成の真っ最中なのですが、監査役協会のつくったひな形の通りにしようと主張しているわけです。理由は、他の会社もそうだからというのと。もひうひとつは、それまでの監査報告書は社内の人が昇進する形で就任した監査役が書いていたのですが、そういう人は社内の事情に通じていたので、監査役協会のひな形とはちがって社内事情を少し反映させた内容を書いていました。しかし、新任の監査等委員は、そういう事情が分からないので、書けないということになるわけです。
 一方で、株主や投資家の人々は企業の積極的な情報開示と対話の姿勢を求めていて、その情報開示についても定型的な紋切り型の説明では納得てきないということになってきています。監査についても、2016年3月に金融庁は「会計監査の在り方に関する懇談会」を開催し会計監査の品質向上に向けた提言をまとめました。その主な内容は以下の3点です。
a)監査法人のマネジメント強化を目指した「監査法人のガバナンス・コード」の導入→2017年実施
b)会計監査に関する情報の株主等への提供を目指した会計監査に関する開示内容の充実
c)監査法人の独立性の確保を目指した監査法人のローテーション制度についての検討
 そんななかで、企業での監査のトップで、そのあつまりである監査役協会が依然として紋切り型の一律監査報告書のひな形をひねり出して、監査役や監査等委員がそれに盲目的に追随しているというのは、意識がずれているように私には思えるのですが。

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