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2018年6月26日 (火)

ルドン─秘密の花園(3)~2.人間と樹木

Redonprofile  初期の版画や木炭画で、ルドン自身が“わたしの黒”と呼んだようなモノクロの作品を中心とした展示です。ルドンは1879年、39歳の時にリトグラフ集『夢のなかで』を発表し、実質的なデビューを果たします。空想的な怪物たちがうごめく世界は、同時代の印象派の画家たちが、明るい現実の光を留めようと求めた画面と一線を画すものでした。科学と空想、そして哲学が混在する「黒」の芸術と呼ばれるものです。
 「兜をかぶった横顔」という木炭画というか木炭スケッチでしょうか。中世終わりかルネサンス初期のピエロ・デ・ラ・フランチェスカの作品の構成を想わせるのですが、背景が黒で塗り潰されて、横顔の肌がしろく浮き上がるようなのが、この画家の“わたしの黒”と自称する由縁でしょうか。たしかに被っている兜や後ろに流れ出ているような髪の毛、あるいは陰影といったものを黒の濃淡で描いているようです。しかし、その濃淡のつけ方は、とくに細かく描き分けられているわけではなくて、どちらかというと大雑把で、“らしい”雰囲気的なもの、それよりも、全体が暗いので人物や被っている兜の描き方が雑でも目立たずに済んでいる。悪意かもしれませんが、黒い画面をルドンが選択したのは、雑に描いても粗が隠れるからかもしれないと、この作品を見て感じました。それでも、雰囲気は作れる、ということでしょうか。ただ、そういう気分であっても、作ることができるというのは、それがルドンという人の才能なのかもしれません。
Redoncaliban  「キャリバン」という木炭画です。キャリバンというのはシェイクスピアの「テンペスト」に出てくるキャラクターだそうですが、グロテスクな形をした怪物ということになっています。この作品では、ハリー・ポッターのドビーのような不気味だけれど愛嬌があるキャラクターに描かれています。夜の不気味な暗闇に、キャリバンの白い顔が浮かび上がっています。キャリバンの目の描き方が少女マンガの黒目が大きくて中に星があるのと似ていますが、そういうデフォルメのセンスはたしかいいと思います。丁寧に顔を描いているとは思えませんが。そんな中でも画面向かって右の枝の付近に白い小さな花が咲いているのや、右上の背後に闇の中に葉っぱが微かにうつっている様子をさり気なく描いていて、それが夜の闇の深さを逆に印象付けているという舞台効果を生んでいる、ルドンセンスのよさを感じます。
Redonlonely  「夜」という版画集から「Ⅱ.男は夜の風景の中で孤独だった」というリトグラフです。線の粗さが、夜の闇の中で人の眼には詳細に見ることの出来ないという風情にうまく合っています。その粗さと暗い画面が画面の男性の姿がぼうっとしていて、どのようなポーズで立っているかがハッキリしていないこと、細長く頬が落ち窪んだ顔はわかるものの表情まではうかがい知ることができず、そのことがむしろ男性の孤独感を見る者に想像させることになっていると思います。おそらく、彼以前に夜の暗闇を描いた画家は少なくなかったと思います。例えば、バロック美術のカラバッジォやラトゥールといった画家たちは夜の室内を多く描いていますが、それは神の光や蝋燭の炎といった光を暗闇とのコントラストでより輝かしく映るためのもので、黒は光を効果的に引き立たせるための手段だったと言えます。これに対して、ルドンの、これらの作品には暗闇によって引き立たせられる光はありません。むしろ、夜の闇がメインで、この作品であれば、孤独な男は、むしろ夜の闇の深さを印象付ける手段と言うこともできるものです。そこに、ルドンの「黒」の芸術の他の画家にはない特徴的なところではないかと思います。
Redoncape  黒の絵画でない作品を、「黄色いケープ」という作品です。晩年に近い時期に制作されたパステル画です。黒い色こそ使われていませんが、明らかに夜です。画面向かって左の光の球、あるいは光輪の黄色と右側の人物のケープが同じ黄色で、背景の青が夜の雰囲気を作っていますが、その青が緑を経てケープの黄色に次第に変化していく色合い。それが、この作品の中心のひとつであると思います。それが、色彩を選択した理由でしょうか。この説明では夜の闇に対して光がドラマティックに際立つカラバッジォやグレコのようなイメージに誤解されてしまうかもしれませんが、そのようなコントラストはありません。パステル画たがらとはいいませんが、パステルの淡い色彩で、塗り残し(手抜き?)もあって、輪郭のはっきりしない、ぼんやりとした画面です。
 この展示コーナーは「人間と樹木」だったのですが、展示リストにリストアップされている数点の作品が他のコーナーに展示されていたりして、展示の章立てなどの姿勢にいい加減さが垣間見えるような感じでした。それゆえに、人間と樹木という、この章の意図は不明のままで、展示されている作品に対する感想も、そのことについて触れることもできそうもありませんでした。

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