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2018年6月29日 (金)

ルドン─秘密の花園(5)~4.ドムシー男爵の食堂装飾

Redonprofile2  この展覧会の目玉です。美術館の一番広い展示室の壁面に大きなパネルに描かれた作品が並んでいました。しかし、私にはつまらなかった。たんに大きいだけで、色はきれいでないし、描き方は塗り残しが目立ったりしてぞんざいにしか思えない。全体に薄汚れた印象でした。なにか安普請の仕事が、時間の経過と共に粗が見えてきたという感じしかしませんでした。したがって、グランブーケも含めて食堂装飾の作品は素通りします。おそらく、この展覧会の感想を他にネットでアップしているところでさまざまな賛辞とともに紹介されていると思います。
 それゆえ、それ以外の展示作品で目についたものを見てゆきます。「ドムシー男爵夫人の肖像」という作品です。正方形に近い縦長の画面で、夫人は構図の右側に寄って椅子に坐り、ほぼ真横といってもいいくらいの向きで画面の中央の方を向いています。夫人が身に纏うヴェロアの質感も明らかな衣装は、黒にも見紛う深い紫で、構図の半分以上を占める明るい背景と対比をなしていて、画而を引き締めています。背景は、左下に植物らしきものが描かれている以外は、特に具体的なモティーフの認められない、光の散乱する空間になっています。この背景は夫人の肖像を取り巻く曖昧な空間を、光の効果で形成していることは明からです。全体は霧のようなものとなり、夫人の頭部の背後と画面左下の部分が暖色系で、その間に画面左上から夫人の肩に向けてちょうど雲の切れ目のような水色を基調とした部分が見えます。画面の左側の部分は、白や黄色の小さなタッチが放射状に重なって広がっています。水色を基調とする部分と暖色系の部分は、一見すると空と雲のようですが、実際にはこの放射状の広がりの効果ゆえにそこに白く光を発する空間が開けているように見えます。さらに左下隅には、黄色を基調とした草花のようなモティーフが空間に浮かぶかのように描かれています。この背景現実とも非現実ともつかない空間の出現に重要な役割を果たしているのは光の効果であり、三次元的な奥行を不確定なものとし、形態と質感を不明僚なものとしてイメージを融合し幻想性を誘発しています。この放射状に広がっていく藷のような光は、そこに何らかの光源があるようにすら感じられます。それは背景の壁に当たる光ではなく、中空から神秘的な何かが発生してくるように見えます。そこに感じられるのは、金地という平坦で無機的な面がもたらす普遍性や安定感ではなく、印象主義的な筆触と明るい色彩によって生み出される、変化や拡散です。それは飽くまで現実のものから乖離し、ある種の聖性を帯びてもいるが、決して金地のような永遠の聖空間ではないと思います。しかも、全体の構図が、そのことを意識したもので、夫人は正方形に近い画面の中央ではなく、右側3分の一ほどに寄って。むしろ背景を大きく見せています。だから、この光に満ちた背景は、この肖像画においては、むしろ主役で幻想的な空間への入口になっていると言えるかもしれません。ルドンの絵画としては珍しいと思えるほど、丁寧に写実の手法で描かれている夫人の姿は、実は、この幻想空間を引き立てるために敢えて、そのように描かれたと思えるほどです。とはいえ、夫人の視線はあらぬ方向にあって、こちらを向いているわけではなく、無表情で、生き生きとした肖像画らしくない姿とも言えるので、こういうところが、ルドンらしいとも言えると思います。
Redondialoge  「神秘的な対話」という作品です。「ドムシー男爵夫人の肖像」のように人物を写実的に描いていません。「ドムシー男爵夫人の肖像」は写実的な人物と茫洋とした背景を対照させた作品ですが、この「神秘的な対話」は、そのような対照をつくらずに、中間的なところで画面の描写に統一性をもたせ、段階的な変化をつけている作品ということでしょうか。画家本人は、「ドムシー男爵夫人の肖像」の背景部分に親近感をもっていたのかもしれません。しかし、それは、例えばバルザックの「知られざる傑作」にでてくる老画家フレンホーフェルの「美しき諍い女」のようなものになってしまいます。この作品では、画面の下部や雲の描き方のようなところで部分的に現実とも非現実ともつかない形態と質感を不明僚なところを当てはめるようにしています。そうみると、対話しているようなポーズの二人の人物や神殿のような建築は、それらを当てはめて、作品を見る人に絵画を見ていると思わせるように仕向ける形式的な枠組みであることが分かります。そう考えると、できれば、それらは画面の中で目立たないように平面的(薄っぺらくて)で、ぼんやりとしていた方がいいわけです。ルドンは初期の黒い作品から、色彩を用いることに移行したことによって、形ということを見ることの主要な要素から外して、絵を見る者の便宜として、ひとつのツールにすることができるということを覚えたのではないか、それをこの二つの作品を見て思いました。

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