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2018年7月25日 (水)

ある会社の決算説明会(2)

 懇意にしているアナリストの厚意で、電子部品メーカーN社の決算説明会に行ってきました。創業者である名物経営者が、4月に社長を後継者に譲り、会長となりましたが、説明会は今までとは変わらないものでした(質疑応答の時間で、質問者から社長と呼ばれて、俺は会長だよとからかって、会場の笑いをとっていたのは、この人らしいパフォーマンスだった)。前回の4月の説明会では経営者の経営方針とか経営姿勢のようなことを話す部分が目につきましたが、今回は、その傾向がさらに強まり、具体的な数字については資料を見れば分かるということで、業績の説明は新規事業の順調に成長したために、一本立ちさせてセグメントを変更させたことと、設備投資や工場の再編などによる生産能力の向上策を語る程度でした。しかも、それに合わせるかのように、後半のアナリストによる質問も、会長さんの方針や中長期の方向性に関するもの、あるいはマクロの経済状況に関する意見を聞くといったものが大半を占めるようになってきて、企業の決算説明会というより、経営の賢者の教えを受ける場のような雰囲気が生まれていました。
 たとえば、生産能力の増強のために工場の新設、既存工場の増床、増築を大規模に進めていることに対して、あまりに強気で、あとで供給が需要を上回って値崩れしてしまうリスクを指摘する質問に対して、ユーザーのニーズに応えることが供給者の使命であるから、供給できないというのは供給者としては怠慢であると、また、値崩れを心配して生産を調整して、需要があるのに供給を抑えて不足感を煽って価格を吊り上げて利益率を高めるような商売はしないと断言します。それは、倫理的な面かもしれませんが、そんなことをしていれば市場での競争を回避、つまり逃げているので競争力が弱まって、その市場のおいしさにひかれて新規に参入してくる競争者に負けてしまうだろう。むしろ、市場拡大のペースが落ちて生産能力がユーザーの需要に応える以上になったら、減り始めた市場において競争者との競争が激化することになるのは、N社にとってはむしろ利益拡大のチャンスなのだという。それは、競争がきびしくなれば、行き着くところは価格競争で、生き残りレースとなる。この時の勝敗を分けるカギとなるのは、企業がどこまで持ちこたえられるかという体力勝負になるという。つまり、体力の強い方が勝つ。そのために、N社は強い生産能力で価格が安くても利益を出せるようになっているので、そういう時こそ、競争者のシェアを奪って、飛躍的に売上を伸ばすことができると言います。これから、経済環境についてリスクが高まっているという声もあるようだけれど、経営者としては、そういう時に適切な対応をしていれば、競争者が脱落していくので、シェア拡大のチャンスなのだといいます。
 そこで言います。低価格であるのと、安売りとは違うといいます。価格が低くても適正な利益(N社は営業利益率15%をモットーとしています)を確保できているのであれば、そこには企業努力の結果としての適性な価格であり、それはユーザーにも貢献することになる。しかし、そういう利益をとらずに価格だけを低くするのは安売りであって、それは適正とは言えないといいます。そんなことをしていれば、しわ寄せが、例えばブラック企業になったり、下請け叩きになったりする。それは結局企業の弱体化になってしまう。
 抽象的な倫理の建前のお説教ではなくて、経営の実践の場で、それを具体的にこうやっているんだという事実で迫ってこられると、ぐうの音もでない圧倒的な説得力でした。
 また、初心者みたいな女性記者が保護主義的な経済環境に対する意見を求めたのに対して、国家のリーダー達がそういう話をしているようだけれど、例えば中国が大豆の輸入に報復関税をかけたけれど、大豆の需要を抑えることはできないので、代わりに南米からの輸入を増やした。その南米では外貨を稼げるので大豆を輸出すると、こんどは自国の大豆が品薄になってしったが、その不足分を、まわりまわってアメリカの大豆を買いつけ始めたという事例を説明して、現場レベルでは、多少の障害があっても市場は回るしたたかさがあるのだと説明し、経営者であれば、それもひとつの事業上の障害であって、その障害に対して意見を口にするよりも、有効な対策を立てたり、そういう障害にもビクともしない体制をつくることが重要であって、決算説明会では、そういう経営者の戦略や施策を説明する場であると。そういって、やんわりと記者の質問をたしなめていたのが印象的でした。

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