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2018年11月20日 (火)

映画「旅情」の感想

131487_01  アメリカ人で秘書をつとめているオールドミスが、初めて休暇でベニスを訪れて、旅先のアバンチュールにあって・・・という話で、以前は、その手の映画と思っていたのだけれど、何年か前、機会があって50歳を過ぎて再見したところ、身につまされるような感じで見ていた自分に気づいたりした。個人的偏見かもしないが、中高年を過ぎたと思ったサラリーマンは見るべき映画かもしれない。
 主演のキャサリン・ヘップバーンは、いわゆる中高年の年齢で、仕事はバリバリやってきたのだろう、それなりの貯えもありそうで、彼女の些か強引ともいえる行動力や多少ギスギスして見える几帳面さがヘップバーンの演技からよく窺える。多分、一緒に仕事をする際には有能で頼りになるだろうが、個人的には一緒にいたくないタイプ(ヘップバーンの代表作「フィラデルフィア物語」での演技に通じてもいる)。しかし、根はちょっとはにかみや人の好いタイプだったのがキャリアを経るうちに鎧をまとった。そのよろいが、旅先で少しずつ脱ぎ始める彼女の変化が素晴らしい。ロッサノ・ブラッツィという相手もいることはいるが、むしろ彼は、ヘップバーンの再生に感化されて惹き付けられてしまったにすぎない。そのクライマックスがラストの列車のシーン。作品冒頭の列車でベニスに来るときには一種の躁状態のような無理に力が入っていた。しかし、ベニスを出るときには、そういった余計なものを洗い落としたような、素の好い人になっている。想像するに、初めてのバカンスでヨーロッパというのは、それまではキャリアを進めるに精一杯だったということではないか、そして今更初めてということは、そういう無理をすることがなくなった、旅先でのオールドミスとしての寂しさを見せる、ということは何らの挫折か、そこまでいかなくても、キャリアを詰めていくに先が見えたとか、今まで通りのがんばりに意味を見出せなくなった、そんな境遇だったのでは、それは私の個人的な思い入れかもしれないが、彼女の行動がカラ元気と一瞬の寂しげな仕草(例えば、まとわりつく浮浪児への態度がコロコロ変わる変わり方)にそういうところはある。その振り幅が彼女の行動にあらわれているのがラストに向けて、その振り幅が収斂するように、また、顔の表情から力みが消えていく。列車に話を戻すと、冒頭のベニスに来るときは窓からカメラで撮影するだけけれど、帰るときは窓をいっぱいに開けて自身の上半身をまどから乗り出し、いうなれば一線を超えた結果ということなのだろうか。多分、ここで彼女は自身の原点にもどって再生してきた、そういう物語として、見えてきた。まあ、そもそも、キャサリン・ヘップバーン、同じラストネームのオードリーというひ弱な少女と違って、転んでもただでは起きないのだ。中年過ぎても列車から半身乗り出して、暴走族のハコ乗りみたいなことをやってしまうのだ。多分、帰国して職場に戻っても、社内のあっちへチョコチョコ、こっちヘチョコチョコ動き回って周囲にうるさがられのだろうけれど、それをキャリアのためとか、仕事だからなどと他律的なことをいうのではなく、「アタシがやっての文句ある?」とか言いそうなのだ。その時、きっと目は微笑んでいる、そう想わせるラスト。ちょっと長い割には分かり難い説明かもしれないが。
 一方で、余談として、この映画の制作年代は1950年代で、アメリカが一番輝いていた時代で、今の中国の爆買ツアーみたいにアメリカ人が大挙してヨーロッパにでかけ当地でマナーが悪いとか顰蹙を買っていた時代で、この映画は、それにも行けないアメリカの人々に、旅行気分を味わう機能も果たしていたといえる。誠実なデビット・リーン監督は、運河にゴミを捨てるシーンをわざと入れたり、浮浪児を登場させて、単にキレイなだけのベニスで終わらせないようにしている。事実、ロッサノ・ブラッツィ演じる人物はアメリカの田舎者を食い物にしてひと儲けしようと思っている。当時のヨーロッパとアメリカの関係の縮図のようなものも、そこに反映していた。
 主演のキャサリン・ヘップバーンは、この後の枯れた演技が日本では好まれるようで「アフリカの女王」とか「黄昏」などが人気だけれど、この人の真骨頂は嫌になるほど強引で元気が良くて、だけど洒落っ気たっぷりのところだと思う。「フィラデルフィア物語」「アダム氏とマダム」「赤ちゃん教育」も日本での人気はイマイチなのが惜しい。

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