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2018年12月 4日 (火)

生誕100年 いわさきちひろ。絵描きです(3)~Ⅱ.働いている人たちに共感してもらえる絵を描きたい

Iwasakiman  第二次世界大戦に敗戦したなかで、いわさきは、日本共産党入党したり、上京して、新聞記者として活動する傍らで丸木位里・丸木俊(赤松俊子)夫妻のアトリエを訪れて技法を学んだといいます。その影響なのか分かりません。
 「ほおづえをつく男」という素描です。これをひと目でいわさきの作品と分かる人はいないのではないか。鉛筆を紙に押し付けるようにして力を込めた強く太い線で描かれています。線には力の入り抜きが、まるで書道の筆の勢いのような明確に表われていて、そこに画家の強い意志が繁栄しているように見えます。それゆえに、力強い線が明確すぎるほどに輪郭を主張しています。陰影のつけ方も後年のぼかしのようなことはせずに、線を引いて明確な影をつけています。ただ、画面全部を描ききる、つまり、画面をひとつの関係した世界として、その世界を完璧に作り上げるという画面ではなくて、動いている人物の一瞬を、瞬間的にとらえているという感じです。そのため、多少の歪みとか、空白は気にていない。また、男には立体性とか重量感といった存在感はあまりない。基本的に、リアルに完璧な画面をつくろうとするのではなくて、男が何かを視線を向けていて、そこで何かを訴えようとしている、その一瞬をすくいとったという方向性の作戦であると思います。
Iwasakitakeshi  これも素描ですが「長男・猛」という、さっと描いたのでしょうが、実は巧いひとであったのが分かります。それが分かって、「ほおづえをつく男」を見直すと、意図的に歪めて描いているということが分かります。いわさきという画家の方向性は、だから、何か伝えたいことがあって、そのために画面をつくっていく、それが写実ということから離れても気にしない、そういう志向性の人であったのが分かります。もしかしたら、そういう姿勢を丸木夫妻から吸収したのかもしれません。
Iwasakieye  「眼帯の少女」という油絵の作品。後年のいわさきの作品とは色遣いが全く異なり、重苦しいほどで、油絵の具の質感と色彩に押しつぶされそうな印象です。しかし、不思議なのは色彩は重苦しいのですが、ここで描かれている少女に重量感とか実在感があって重いのではないということです。また、少女たちの表情が暗く重苦しいというのでもない。だからというわけではないのですが、いわさきという人は、直接的な個別の感情は描こうとしなかった。つまり、感傷的になるような共感とは遠く、むしろ、そういうものに対しては突き放すような透徹した視線を持っていたことが想像できます。また、この作品の少女の顔は、リアルな肖像ではなく、デフォルメされ省略された少女のパターン、とくに画面左の眼帯をしていない少女は、後年のかわさきに典型的な少女のパターン、頬がふくらんでしもぶくれの様になって、鼻の影がなく、目は黒目といった特徴がここで、すでに表われています。これを油絵の具で塗り潰せば、平面の顔の画像が、絵の具の強い色に負けてしまうということでしょうか。ここでは、油絵の具を使いこなせていない、色の強い感じに振り回されているような気がします。結局、いわさきは油絵を描かなくなり、水彩ばかり描くようになりますが、油絵に対しては、自身でも馴染めなかったのかもしれません。とはいっても「母の絵を描く子ども」という油絵作品は、油絵でなければできないような、いわさきには珍しい濃い画面で、しかも、後年のいわさきに特徴的な雰囲気を作り出していて、こういう作品をもっと描いてくれたら、と少し残念に思いました。また「マッチ売りの少女」なども、後年の絵本作品のパステル風の幻想とは違って、バロック絵画の光と闇のグラデーションを少女のマッチの火がつくりだす雰囲気が、油絵ならではものでした。いわさきにもこんな方向性があったのかと意外な作品でした。
Iwasakideath  また、この時期に紙芝居の挿絵も手がけていて、そのための習作として「死神を追いかける母親」という作品。まあ、いろいろ試しているんですね。この他にも、広告の挿絵など、後年では考えられないような仕事をやっています。

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