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2019年1月15日 (火)

ルーベンス展─バロックの誕生(11)~Ⅶ.寓意と寓意的説話

Rubence2018kepcross  最後の展示コーナーは、いわゆる物語画です。物語という意味づけがあれば、例えばタブーであった裸体画も許されるというので、貴族の室内を飾るとか、理屈をつけた注文に応じて制作されたものと言えます。そういう意味を深読みして鑑賞するのもいいのでしょうが、べつにそのような物語をしらなくても面白い作品が展示されています。
 「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」という作品。約2×3mという、この展示コーナーの中では大きな作品です。ルーベンスの作品の中では、珍しいほど画面が南欧の豊かな光に溢れたような明るい画面で、光と影の対照は影を潜めて、明るく開けっぴろげな画面です。バロック美術というよりルネサンスの均衡のとれたような穏やかな画面です。女性たちも古代彫刻のような姿です。キアスクーロまではいかないまでも、丁寧で滑らかな筆致で描かれていて、展示の掉尾を飾るに相応しい作品だと思います。いろいろなギリシャ神話に基づくシンボルがいろいろ画面に取り入れられているようですが、ルーベンスらしい女性美を堪能するだけで十分な作品です。ルネサンス風とはいいながら、そこはやっぱりルーベンスで、女性の裸体は筋肉でゴツゴツしていて逞しいですし、画面右の後姿の女性の臀部の豊かさなどはルーベンスらしいし、中央の老婆の顔などは、庶民的な老婆のリアルな顔です。
Rubence2018mars  「マルスとレア・シルヴィア」という作品です。2×2.7mの比較的大きな作品と、おそらく雛型のような下書きだろう小さな作品の2点が並べて展示されていました。画像は大きなほうです。小さな作品の方が、女性の表情が複雑で、言い寄られて嬉しいのと不安で戸惑っているのと、両方に受け取れるような表情をしているのと、女性の衣服が透き通るように柔らかく描かれているのが違います。こちらの大きいほうの作品では、女性は切ないような表情をしています。また衣装は物質的な存在感がつよく感じられるように描かれています。このようにしっかりと描かれているのは、やっぱり上手いと思います。
 ルーベンスという画家は絵筆が速いスピードでさっさと動いてしまうような、描くのが巧みな人で、画家というのはそういうことに秀でているから画家になったので当たり前のことなのかもしれませんが、その中でも一際秀でていた人ではないかと思います。それにも関わらず、この人は、それを売り物にしないで、画面設計とか構成で勝負した人ではないかと思います。それが生かされたのは、宗教画のような規模の大きな大画面です。それは大勢の職人を指揮して描かせる工房を経営するという実務的な要求からきているのかもしれませんが。そういうルーベンスの作品を、現地で現物を直接眼にすることができず、写真などの複製で縮小再生産されたものを見るしかない日本では、なかなか魅力に触れることは難しい画家ではなかったのではないかと思います。それはベラスケスなども違った意味で、日本では親しみ難い画家だったと思います。同じバロックの画家でも、カラヴァッジョのような光と影の対照の劇的効果に特化したような画家であれば、その特徴が明確でコピーでも十分理解できるのですが。ルーベンスの場合は、普遍的とも言われている個性が、ヨーロッパでは自明のことなのでしょうが、それが自明ではない日本では、分かってもらえる土壌が育っていなかった。それで、高名であることは噂に聞いていていても、作品の特徴はどこにあるのか、なかなか分からない。ヨーロッパ的な絵らしいのだろう、くらいだったと思います。私の感性では、尻の肉の垂れ下がったようなゴツゴツした女性の裸体画をみて、未だに理想的で美しいとは思えませんが、それがルーベンス的な、ヨーロッパ的な感性なのだろうと想像することはできるようになりました。それ以外に、実は、この人はかなり知的な作品を描いていたということも、この展示で感じることができました。

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